中国一帯一路構想の目指す方向

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 中国では、米中対立が激しさを増すなか、2020年10月に開催された中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議で内需拡大を主軸としつつ、対外開放を目指す方針が示されました。その方針は、習近平中央委員会総書記(国家主席)指導の下、技術イノベーションを促し、毛沢東時代から続く国内市場の分割状態から脱し、一方で国内統一市場の創出により内需を喚起するというものです。また自由貿易協定(FTA)、越境電子商取引(EC)、金融協力などを通じて、中国を中心に据えたグローバル・サプライチェーンを、アジアと「一帯一路」沿線国との間に構築する戦略も打ち出されました。

一帯一路とは何か

 「一帯」とは、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く「シルクロード経済ベルト」を指します。また、「一路」とは、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」を指します。

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 この「一帯一路」構想の下で、今後、数十年かけて、これらの地域に道路や港湾、発電所、パイプライン、通信設備など、インフラ投資を皮切りとして、金融、製造、電子商取引、貿易、テクノロジーなど各種アウトバウンド投資を積極的に進め、当該経済圏における産業活性化および高度化を図って行くとされています。つまり、一帯一路は、全体では複数の「経済回廊」から構成される複雑かつ多元的なプログラムなのです。

 世界的規模で眺めますと、開発国と発展途上国があります。開発国が資金援助を用いて発展途上国を助けて行く構造が描かれ、開発国は発展途上国のインフラ整備に融資します。この構造は、持続可能な開発目標であるSDGsに合致します。素晴らしいことです。しかし、中国の「一帯一路」は何かおかしいと思いませんか。なぜか、それはやっていることはボランティヤではなく、利益活動だからです。しかも、政治が絡んでいるからです。

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 一帯一路は、中国が始めた広域経済構想ではありますが、経済の機会の共有が目的であり、世界にとってより良いものであるべきだという考えが中心にあります。中国政府もこのことを正当化するために「今は中国がリードしているだけのことで、言語やインフラなど既存の中国文化を押し付けようというものではない」と事あるごとに主張しています。これに呼応し、英国、オランダ、ドイツ、シンガポール、ポーランド、タイといった国々が、連携や投資を表明しています。特に重要な地域としては、東南アジア(ASEAN)、中欧、東欧が挙げられます。

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 これまで中国は巨大経済圏構想「一帯一路」を軸に、海外で港湾の買収・出資を積極的に進めてきました。日本経済新聞社が独自に集計したところ、過去10年間の投資先は少なくとも18ケ国・25案件に上り、総投資額は1兆2000億円に達していることが分りました。中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)や招商の国有大手2社によるものが大半で、構想の「先兵役」を担っています。出資を巡り法廷闘争などのトラブルも抱かえますが、構想は着実に進展しています。

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 抱えているトラブルとは次の様なものです。東アフリカのジブチ港では、招商が2013年に同港の23%の株式を取得しました。だが、同港にはもともとドバイが拠点の港湾運営大手DPワールドが2004年に30年間の開発契約を結び、既に約3割出資していました。東アフリカと欧州、アジアを繋ぐ要衝で、DPワールドは「招商局に割り込まれた」とし、経営混乱を理由に2018年、招商局を提訴し現在も係争中です。

 米国政府も依然「中国が出資した港湾が軍事転用されかねない」と警戒を強めています。招商局が出資するスリランカのコロンボ港では、2014年中国の軍用艦の存在を海外メディアが報じました。国際貿易投資研究所の小島客員教授は、「中国の出資比率が50%以下にとどまる案件もあり、経営を支配する港湾はまだ限定的」と指摘しています。「過剰債務の代償として中国が権益を得る債務の罠への警戒感高まる中、中国がさらに出資を広げられるかどうか今後注目が必要です」と話しています。

 2022年1月の日経新聞では、最近の中国の「一帯一路」に対抗して、世界の主要国が途上国のインフラ支援へ相次ぎ新戦略を打ち出していると報じています。これは中国が2013年に広域経済圏構想「一帯一路」を始動して以来の約10年間の政策の空白を埋める動きとなっています。

欧州連合(EU)の動き

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 「一帯一路への真の代替案だ」として、2021年12月1日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、肝煎のインフラ支援戦略「グローバル・ゲートウェー」発表しました。民主主義、法の支配、人権、環境といった価値観に沿って途上国を支援するもので、2027年までに官民で最大3,000億ユーロ(約39兆円)投資を目指すというものです。

英国の動き

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 2021年11月25日には英トラス外相が、政府系開発金融のCDCグループを「英国際投資(BII)」に衣替えし、国外でのインフラ支援体制を拡充すると発表しました。アフリカや南アジアの英連邦の国々から東南アジアや太平洋の諸国まで支援対象も広げ、向こう5年にわたり年15億~20億ポンド(約2360億~3140億円)を投じるという内容です。「専制的な中国からの融資で借金漬けになった国に代替案を提供する。」とトラス外相は言っています。中国が借金のかたとして港湾などの重要施設を手中に収める「債務のワナ」を意識した発言です。

米国の動き

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 米研究機関エイドデータによると、中国が165ケ国で手掛けた1万3400件の一帯一路事業のうち35%は汚職、労働問題や環境汚染を抱かえます。主要国はこれらの問題に対応しつつ、途上国での経済、政治的な影響力を取り戻すことが求められています。2021年6月の主要7ケ国(G7)サミットではバイデン米大統領が自らの看板政策の名を冠した「ビルド・バック・ベター世界版」(通称B3W)を提唱し、債務の持続性や環境に配慮したインフラ支援での連携を決めました。欧州勢の新戦略を踏まえ12月には改めて結束を確認する声明「インフラと投資のためのパートナーシップ」まで出しています。

日米豪の協力体制

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 南太平洋パラオの沖合では海底通信ケーブルの敷設作業が進んでいます。2023年に米国とシンガポールを結ぶ幹線から100キロの支線を延ばす事業です。国際協力銀行(JBIC)など日米豪の政府系機関は2018年にインド太平洋地域のインフラ支援で連携する覚書を交わしており、その1号案件です。パラオの経済発展に不可欠な通信インフラの構築を支える目的ですが、同国への中国の影響力浸透をけん制する狙いも透けて見えます。インド太平洋地域への一帯一路の伸長を警戒する米国は、支援強化へ2019年に米国際開発金融公社(DFC)を新設しました。豪政府も太平洋諸国のインフラを支援する新制度(AIFFP)を創設しています。日米豪はさらに第2、第3の協調案件を検討中です。

日本の動き

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インフラ支援で外交上の得点と企業の需要創出を狙う一石二鳥の政策は日本のお家芸で、2009年以降は成長戦略の柱にもなりました。近年は中国に競り負ける場面も増えていますが、各国との連携は追い風になります。贈与も含めた好条件の資金拠出が事業費を下げ、中国と競いやすくなるからです。



先行きが読めない今後の展開

 主要国が唱えてきた「質の高いインフラ」を裏打ちする支援の枠組みが増えれば、中国への過度の依存を警戒する途上国を引き寄せられると期待する声もあります。ただ、今のところ米欧やG7の構想は絵に描いたもちであり、米欧間の戦略の擦り合わせなど先行きは読みにくくなっています。先のG7サミットでも裏では米主導の「B3W」を巡る議論が紛糾し一向にまとまりませんでした。トランプ前政権が国際協調に背を向けた影響が尾を引き、各国とも米提案に乗るべきか測りかねているという状況です。

 だが、主要国が一帯一路への有効な手立てを欠いたことが、中国の影響力を強めたのは否めず、これが資本主義とは異質の経済体制を浸透させる余地も生みました。インフラ支援は良く悪くも「国の形」を左右する鋳型になります。支援の連携を保つためにも、ノウハウをもつ日本が各国と連携し成功例を重ねるのが大事な局面となりつつあるようです。

インフラ整備のための資金を発展途上国が準備できないのを見越して融資し、挙句の果てに発展途上国がデフォルトに陥れば、整備した港湾を我が物顔で使用するという中国の一帯一路における構図が見え見えなのが気になります。皆さんはどう思われますか。



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