日本外交の目指す方向(その7)…ジム・ロジャースが注目する中国の魅力

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 ジム・ロジャースは、1942年米国アラバマ州出身の世界的投資家です。彼の経歴を見ますと、イエール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めた後、ウォール街で働いています。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年で4200%という驚異的なリターンを叩き出しました。37歳で引退後は、コロンビア大学で金融論を教えるなど活躍しました。

 2007年に「アジアの世紀」の到来を予測して家族でシンガポールに移住し、その後は数多くの投資活動および啓蒙活動を行なっています。ジム・ロジャースの最新版「日本への警鐘」講談社(2019)を読んで気が付いたのですが、彼が中国を投資先として非常に高く評価しています。今回、彼が中国を評価する視点はどこにあるのかを探りました。

 ジム・ロジャース曰く、中国には米国に比べ有利な点がたくさんあるとのことです。誰の目にも明らかな利点は、膨大な人口と資本です。人口規模は国の力に直結すると言われますが、中国の14億人に対し米国は3億人と約4倍中国の人口が多くなっています。なかでも、中国がアメリカの8倍以上のエンジニアを毎年輩出している点に着目しています。これは驚くほど膨大な数です。21世紀は中国が台頭するのを止められる国はどこにもないと感じさせます。

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 このまま市場競争に任せていては、中国に勝てないとトランプ(2017.1~2021.1米大統領 )も気付き始めたと、彼は見做しています。トランプ前大統領はファーウェイ製品の使用を禁じましたが、すでに世界の多くの国でファーウェイ製品は使われています。その様な状況の下で、米中のテクノロジー戦争にアメリカが勝てる訳はないというのが、ジム・ロジャースの見解でした。

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 米国のトランプ前大統領は、中国との貿易戦争に勝てば、米国の利益になると本気で考えていました。ところがジム・ロジャースは「これは見当違いもいいところだ。トランプは歴史を知らないか、あるいは歴史よりも自分が賢いと思っているのだろう。」と断言しています。

 大規模な米中貿易戦争に陥れば、影響は世界中に波及し、世界の人々は、将来に不安を感じ、消費や投資意欲が減退するために、世界の景気は急速に悪化します。世界各国の債務がかつてなく積み上がっている今、政府や企業の信用力が低下してしまえば、返済不安から債券が買われなくなり、債券価格が下落して金利が上昇て行きます。

 一方で、これまで続けてきた金融緩和政策によりインフレが発生し、これを防ぐために政府は政策金利をさらに上げざるを得なくなります。そして、両方の効果で金利が急上昇すれば、債務を抱かえた米国は苦境に陥るのは明らかだとジム・ロジャースは主張する訳です。

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 世界最大の対外債務を抱かえる米国は、経済悪化により国債の債務不履行を引き起こす可能性があります。債務不履行の懸念が高まれば、米国国債の価値は相対的に下がり、金利は上昇します。この金利を支払う余力を持たない米国は、金融緩和のためにさらに紙幣を刷り続けることになり、未曾有のインフレに見舞われてしまうことが十分に考えられます。

 米中貿易戦争で、すべての弾丸を撃ち尽くした米国に代わって台頭するのはやはり中国です。好むと好まざるとに拘わらず、中国が21世紀で最も重要な国になることは間違いありません、とジム・ロジャ-スは予測します。

 中国が優秀な人材を輩出し続けているのは、教育制度によるものと考えられています。ジム・ロジャースはシンガポールで娘に教育を受けさせていますが、アジア式の教育は、米国のそれよりはるかに中身が濃く、レベルも高いと言います。中国でエンジニアが活躍しているのは、技術に重きが置かれて来た中国の歴史に負うところも大きいと言えます。江沢民、胡錦濤、温家宝といった歴代の指導者の多くが元技術者でしたし、鄧小平も技術に重きを置いたことで、中国をここまで成長させることがでました。

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 かつては、中国は規制が厳しく、ビジネスに向かないと言われていた時代もありました。今でもすべてが国有化されていた中国のイメージを引きずっている人は少なくないと思われます。しかし、現在はIT関連を中心とした非国営の企業が中国経済を牽引しているのは間違いのない事実です。今の中国政府は、中国人を上から管理するのではなく、国民が備える商魂や勤勉さを発揮させようと考えています。このことは、李国強首相が習近平体制の下唱えた方針である「先賞試、後管制」からも明らかです。「まず、試しにやってみよう、問題があれば後で政府が規制に乗り出す」という意味のこの言葉は、今や中国共産党の姿勢を示しています。勤勉な人間が成功しないはずがない、この意味においても中国の先行きは明るいと言えます。

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 以下、ジム・ロジャースの中国に対する別の見立てを紹介します。

 19世紀はイギリスの世紀であり、20世紀はアメリカの世紀でした。そして、次なる主役は超大国の中国という訳です。イギリスやトルコ、イタリアなどのかつての覇権国とは違い、中国は史上何度も世界の頂点にたってきた唯一の国です。これを成し遂げた国は他にはありません。

 一般に中国人は、共産主義者だと思われているようですが、歴史的にみて、中国人こそが最も優秀な資本主義者でした。彼らには長い起業家精神の歴史があり、そして、中国にはその多くの時代に商人階級が存在しました。ここがロシアとの大きな違いです。ロシアは資本主義の伝統をほとんど持たないため、未だ共産主義の制約から脱することができていません。表向きは共産主義を装う中国は、実にうまく資本主義を取り入れています。

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 1975年1月の全国人民代表大会にて、周恩来は農業、工業、国防、科学技術での「4つの近代化路線」を提起しました。その後、4つの近代化路線は、1978年に鄧小平の指導下において統一的な国家目標として定着したわけですが、彼らは中国の資本主義の歴史に訴えかけていたのではないでしょうか。


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 中国は世界の産業や技術の最先端に押し上げた起業家精神を再び解き放ちました。毛沢東による革命により、中国に厳密な共産主義が敷かれていたのはせいぜい30年程度です。だから、今生きている中国人には、資本主義の記憶がまだ残っているはずです。実際、資本主義を捨てられなかった中国人が世界中に移り住み、華僑として経済的な威力を収めているではありませんか。

 華僑は中国にとって、最強の資源の1つです。この国は、巨大な国外移住者ネットワークを持ち、シンガポールやバンコク、バンクーバー、ジャカルタ、ニューヨークで彼らは成功しています。たとえ中国からタイに来て5代目の人間であっても、彼らは中国人としてのアイデンティティを持ち、中国語を話します。そして、中国はいつでも彼ら華僑を受入れてきました。中国に戻る華僑は、資本だけでなく知識も持ち帰ります。知識は資本と同様に重要なものです。中国人は華僑がもたらした知識をすばやく吸収し、自分たちの強みに変えて来ました。中国人のとどまるところを知らない知識に対する欲求が、国家を発展させてきた原動力であることは間違いありません。

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 元々、本書を購入した時には、「日本への警告」ということでしたので興味を持ちました。しかし、本書の中で余りにも中国のことを投資先として推奨しているので、いつの間にかそちらの方に関心が移ってしまいました。中国へ移住しても良いとまで言うジム・ロジャースですが、少し中国を買いかぶり過ぎのようにも思えますが、みなさんどう思われますか。



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