日本外交の目指す方向(その13)…中ロへの軍事的対峙担う日米豪印連合Quad

ロシアのウクライナへの軍事侵攻

 2022年2月24日遂にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始しました。ロシアとて、意味もなくNATOを滴に回して戦争を始めても意味はありません。それではウクライナ国境に10万人規模と言われる戦力を終結させたロシアの狙いは何なのでしょうか。ロシアがウクライナに執着する理由は大きく2つあると考えられます。1つは国家安全保障に関するもので、もう1つはロシアとウクライナの歴史的・文化的親近性に関係するものです。

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 1つ目の国家安全保障に関してロシアは、よく報じられている通り、ウクライナのNATO加盟阻止が主たる目的です。隣国ウクライナがロシアの抑止を目的とするNATOに加盟することで、ロシアの安全保障が脅かされるのを防ぎたいということであり、シンプルでわかりやすい論理です。安全保障の観点から見れば、ロシアはウクライナにおける影響力を確保し、自らの勢力圏にとどめようとしていると見えます。

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 しかし、ウクライナがNATOに加盟しようがしまいが、この期に及んでロシアの勢力圏にとどまるとは考え難いです。さらに、ウクライナが集団防衛の国際組織であるNATOに加盟することがロシアにとってどの程度の脅威になるかといえば、ロシアが侵略の意図を見せない限り、NATOがロシアを攻撃することはあり得ません。実際、ロシアはNATO原加盟国であるフランスやドイツとは良好な関係を築いており、特にドイツとの間では、アメリカやヨーロッパ諸国の懸念に抗して、ガスパイプライン「ノルドストリーム2」を開通させようとしていたほどです。また、ヨーロッパ以外の唯一のNATO加盟国であるトルコとの関係も良好であり、トルコにとってのロシアはアメリカと並んで主要な武器の購入国です。

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 また、軍事力の大きさで比較しても、ウクライナがロシアにとって大きな脅威となるとは考えられません。ウクライナが兵員約25万、戦車2500台、装甲車輛1万1435台、自走砲785基であるのに対し、ロシアは兵員約100万、戦車1万3000台、装甲車両2万7100台、自走砲6540基とされます。それでもロシアがウクライナのNATO加盟を恐れる安全保障上の背景には、ウクライナがロシアとNATO(ポーランドやルーマニア)との間に位置しているという事情があるようです。

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 ウクライナが加盟すれば、NATOがロシアの喉元までやってくることになります。ただし、2004年にNATOに加盟したバルト三国(エストニア、ラトビア、リストアニア)もまた、ロシアと国境を接しています。バルト三国はロシアにとっての安全保障上の脅威となっているのでしょうか。必ずしもそうとは言えません。

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 2つ目のウクライナとの歴史的・文化的親近性とそれに伴う親近憎悪にあると考えられます。近代国家としてのウクライナ国家は1991年のソ連崩壊後、初めて国家として成立した非常に若い国ですが、歴史的に見れば、ロシアを含む東スラブ民族の発祥の地です。つまり、ロシア人はウクライナを自分たちの一部と感じています。一方のウクライナ人はロシアではなくウクライナとしてアイデンティティを持っており、この双方の認識の違いが問題なのです。ロシアによるウクライナへの執着は大きく、ウクライナのロシアへの思いはほとんどないというわけです。この関係を一方的な片思いに例えてもあながち間違いではないと思われます。

 クライナも決して一枚岩ではありません。黒海に臨むロシア軍の要衝が置かれるクリミアや、ロシアと接するウクライナ東部のドンバスと呼ばれる地域では、ロシア語話者が大半で、実際にロシアとの親近性を感じているのに対し、首都キエフやポーランドに近い西武地域では、ロシアとの親近性を感じていないどころか、反感を持っています。特に、西武地域では、かつてソ連の構成国であったにもかかわらず、現在、ウクライナ語しか話せない人々もいます。このウクライナ国内における分断が最大の問題となっています。国内の対立からの内戦が最も大きな犠牲をうむことは歴史が示しています。

日米豪印軍事連合「Quad」の役割

 現在は経済制裁を課しているが、今後このようなロシアに対し、軍事的にはどのように対応して行けば良いのでしょうか。

 日、米、オーストラリア、インドの民主主義陣営の結束を打ち出す{Quad(クアッド)}があります。ウクライナ問題下でロシアと中国が連携し、日米欧は対中ロの二正面を迫られています。クアッドは中ロに対峙する枠組みの一角を担うものといえます。クアッドは本来、日米が重視する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた枠組みで、そもそも中国が念頭にあったのですが、現在勃発しているウクライナ問題により、範囲がインド太平洋と東欧に広がり、対中と対ロを連動させるという話になってきました。

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 ロシアが軍事侵攻する前、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が北京で会談しました。ロシアとウクライナ、中国と台湾の関係を互いに尊重し「民主主義や人権を口実にした内政干渉に反対」と声明を出しました。中ロはインド太平洋にも矛先を向け、米英豪による安保の枠組み「AUKUS(オーカス)」を批判し、クアッドを念頭に「閉鎖的な枠組みの構築に反対」言及しました。クアッドはすでに対中ロの最前線にいるわけです。

 インド太平洋で中国の脅威にさらされる台湾や東シナ海の安全を図るにも中ロの連携を意識しなければなりません。クアッドはインド太平洋だけ、中国だけに注意を払えばいい状況ではなくなりました。プリンケン米国務長官は、世界情勢に関して「各国が単独で対処できる課題ではない。協力する方法を見つけた時に我々はより強くなる。北大西洋条約機構(NATO)などだけでなく、オーカスやクアッドのような新たな連合も目的はそこにある」と強調しています。中ロが連携して動けば米欧やNATOだけで対処できません。一方で米欧がロシアにかかりきりになれば、中国の対外進出は野放しになる可能性があります。

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 プリンケン氏は11日、中ロを念頭に「減速が破られるのを許せば欧州、インド太平洋にも影響を与える。他の国は我々の対応を見守っている。だからこそ連帯が重要だ」とも語っています。クアッドがロシアに向き合わなければ対中国で米欧の協力は得にくくなります。NATO、オーカス、クアッドがそろって中ロに対峙する構図が求められます。

 日本は対ロ制裁に備える米国の要請に応え、欧州に液化天然ガス(LNG)を一部融通すると決めました。米国はロシアに直接制裁する措置でも日本に同調を求めています。クアッドに参加する日本は今後も対ロ姿勢を問われます。皆さんどう思われますか。



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