コーヒーブレイク… 米国大統領選の仕組みを理解する

 米大統領選挙は4年ごとに実施され、投票日は連邦法で11月の第1月曜日の次の火曜日と定められています。2020年の大統領選は11月3日(火)でした。有権者は各党の正副大統領候補に投票して、各州に割り当てられた「選挙人」を選び、その後、選挙人が大統領を選ぶ「間接選挙」の体裁を取ります。この方式は、大統領を議会が選ぶか、国民が選ぶかの妥協策として作られた制度とされています。

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 間接選挙のため、全米での総得票数では当選が決まりません。州ごとに票を集計し、大半の州では1票でも多く得票した候補がその州に割り当てられた選挙人をすべて獲得する「勝者総取り」方式を取ります。全米の選挙人538人の過半数270人以上を獲得した候補が当選となります。各州の選挙人数は人口に応じて割り当てられています。現在、上院議員は各州に2名ずつ、下院議員は人口に応じて割り当てられており、選挙人の数は上院議員と下院議員の人数に合致しています。選挙人数が多い「大票田」州で勝つことが重要ですが、多くの州は、民主、共和両党の色分けがはっきりしているので、両党の勢力が拮抗している10州前後の「激戦州」がカギを握ります。

 激戦州とは、共和党、民主党の支持率が拮抗し、選挙の度に勝利政党が変動する州のことを言います。2020年の選挙での激戦6州は、下記となりました。

 フロリダ州(29)、ペンシルバニア州(20)、ミシガン州(16)、ウィスコンシン州(10)、ノースカロナイナ州(15)、アリゾナ州(11)

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 一般投票では、あらかじめ有権者登録を済ませた州民が、大統領・副大統領候補の名前ペアが記されている選択肢にチェックを入れて投票しますが、これらの票は、その大統領・副大統領候補のペアへの投票を誓約する選挙人候補団(Electoral college)への投票となります。選挙の結果、選挙人候補団が決まれば、知事は選挙結果のコピーと州の選挙人の候補者名簿を国立公文書管理局に送ることになっています。

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 全米の総得票数で上回っても、激戦州を落とせば敗北することもあります。2016年大統領選はクリントン元国務長官の得票数が2.1ポイント上回りましたが、フロリダなどの激戦州を多く制したトランプ氏が306人の選挙人を獲得、232人のクリントン氏を圧倒しました。選挙人制度は死票が多くなり、激戦州の影響力が過大になるなどの弊害も指摘され、民主党を中心に直接選挙にすべきだとの主張もあります。

 両候補の獲得選挙人数が269人でタイとなったり、第3党の候補が一定数を獲得したりしていずれの候補も過半数を得られない事態も起こり得ます。その場合は大統領は下院、副大統領は上院が投票で選びます。新大統領の就任は来年1月20日です。

 2020年の大統領選の特徴は、コロナ禍の影響によって郵便投票と期日前投票が大きく増加したことです。その上、州によって集計方法が異なるため、11月3日当日に結果が判明しない可能性がありました。トランプ大統領は、コロナをそれほど警戒していないので、有権者に当日投票を呼び掛けました。一方、バイデン氏は、トランプのコロナ対策を批判しているので、郵送投票および期日前投票を推奨しました。

 当日に投票した分はトランプに有利に働くので、当日早くにトランプが勝利宣言することが考えられます。一方、おそがけにかけバイデン氏の方も勝利宣言を行う可能性が高いと言えます。また、勝利は相手側が認めて初めて確定します。従って、僅差の時は、相手が司法に訴えるので勝利確定は遅れます。

 今回、トランプ氏は僅差で負ける場合は、敗北宣言をしないと言っています。あくまでどこかで違法があるとして法廷闘争に持ち込もうとしています。そして実際に、トランプ陣営は11月4日、大統領選の郵便投票の開票などを巡り訴訟を起こしました。その結果、大統領の確定は長引きました。選挙人を選べない州が相次げば、議会が大統領を選出するという約200年ぶりの異例の事態になる可能性も捨て切れませんでした。

 トランプ陣営の起こした訴訟の内容は下記の通りです。

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・ ペンシルベニア州の開票所で不正行為を監視する共和党系の選挙立会人が集計担当者から約8m以上離れるよう当局に命じられたと主張しています。この結果、郵便投票の消印や有権者の署名が確認できなかったなどとして同州政府を提訴しました。
・ 中西部ミシガン州では、立会人が開票作業の監視を拒否されるなど、開票所への十分なアクセスが認められていないとして訴訟を起こしました。
・ 南部ジョージア州では期限後に郵送で届いた53票が有効とみなされた現場を立会人が目撃したと主張しています。締め切り後に到着した票を分離するよう求めました。

 3州での訴えを認めるかどうかは州裁判所が判断します。一方、トランプ陣営が中西部ウィスコンシン州で「いくつかの郡で不正行為の報告がある」と票の再集計を求めた件では、得票差が1ポイント以下であれば、再集計を求めることができるとの規定が州法にあることを根拠にしています。

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 多くの専門家はトランプ陣営の訴訟理由について「根拠がない」と疑問視しますが、トランプ陣営は訴訟で選挙結果の確定を遅らせることで、議会による選出を狙っている可能性があります。大統領選は候補者本人を直接選ぶのではなく、投票結果に従って大統領候補に投票する「選挙人」を指名します。連邦法によると、各州は12月8日までに選挙結果を確定させて選挙人を指名します。同14日に選挙人が大統領候補に投票します。だが訴訟で選挙結果を確定できない州は選挙人の指名が難しくなります。

 過半数の選挙人を得る候補が出なければ、2021年1月3日に召集される新たな議会で下院が新大統領を選びます。全米50州に1票ずつ割り当て、26票を得た候補が当選する仕組みです。それでも決着しなければ、上院が選ぶ新たな副大統領か、下院議長が大統領代行に就く可能性もあり得ます。

 選挙人が決められない場合、州議会が選挙人を選べるとの解釈もあります。トランプ陣営が不正を訴えた4州はいずれも共和党が州議会で多数を占めています。

 過去にも大統領選の再集計を巡って法廷闘争となった例があります。2000年大統領選では、南部フロリダ州で共和党のブッシュ候補が民主党のゴア候補を僅差で上回りましたが、機械集計ではじかれた票が残っているとゴア氏が主張し、手作業による再集計を求めました。連邦最高裁は実効的な再集計は不可能との判断を下し、ゴア氏が撤退を表明して決着しました。

 私個人は、環境政策の進め方を重視している立場から、民主党のバイデン候補に大統領になってくれればと思っていました。しかし今回、トランプ候補のなりふり構わぬやり方をみていると、これがどこまで通用するのかを見極めたいという気持ちにさせられました。皆さんはいかがですか。



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