高齢期の投資戦略(その8)…ウォーレン・バフェットの投資戦略

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 2022年5月現在、世界では、中国のコロナ禍による都市ロックダウンやサプライチェーンの混乱が世界的なインフレを加速しています。また、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化により天然資源の価格が上昇しています。このようにインフレ懸念が高まって、多くの投資家が積極投資に尻込みする中、危機時に動く往年のバフェット氏が戻ってきました。

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 著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイは2022年4月30日、対面形式の年次株主総会を開きました。その際参加者が驚いたのはバークシャーの積極投資でした。2021年1~3月期に19億ドルの売り越しだった株式投資は、2022年1~3月期に400億ドル(約5兆円)を超える買い越しとなりました。攻めの姿勢を鮮明にしつつ、かつ、インフレ対応という「守り」の要素も兼ね備えた投資戦略を展開していますので、その詳細を眺めてみます。

 バフェット氏の攻めの姿勢の1つ目は、米エネルギー大手オキシデンタル・ペトロリアム株を14%保有した点です。同社株の1日の売買高に対して、バークシャーの購入株数が3割を超えた日もあったそうです。「何十年と続けて投資してきた企業の株式の14%をわずか2週間で買えた」とバフェット氏は総会の途中、巨大スクリーンの前で説明しました。

 バフェット氏の攻めの姿勢の2つ目は、総会直前に公表された22年1~3月期決算の中で、株式保有額上位に米石油メジャーの一角シェブロンも入っている点です。2021年末時点で45億ドルだった保有価値は、3月末時点で259億ドルに膨らんでいます。

 更に、バフェット氏の攻めの姿勢の3つ目は、4月に米保険会社アレゲニーの買収を発表し、株式取得額を116億ドルにまで増やした点です。

 バフェット氏は積極投資に動く理由ついて「私たちが賢いからではない。正気を保っているからだ」と語っています。グロース株優位の時代でも損益分岐点からの安全余裕率を確保する原則を徹底しています。現在は米株式市場は不安定な状態にあり、本質的な価値より割安な銘柄を見つける好機になっています。バフェット氏は米国ネブラスカ州オマハに生まれ、現在もオマハに暮らしながら投資活動をしていることから、オマハの賢人と呼ばれていますが、バフェット氏の言葉と行動には、危機を乗り切る投資の極意が詰まっているように思えます。

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 2020年、2021年のバフェット氏率いるバークシャーの株式投資は通年で売り越しで1400億ドルに達しました。資金の使い道がなく、自社株買いも過去最高水準に達していました。大型買収は16年に手掛けた金属部品会社のプレシジョン・キャストパーツ以降、遠ざかっています。積極投資に転じている背景には、強まるインフレへの備えという狙いがあります。「インフレは債券投資家をだまして財産を巻き上げていく」「インフレはマットレスの下に置いている人の現金財産を奪って行く」「インフレ時にはほとんどのすべての人が財産をだましとられる」「インフレ時にはお金が大量に刷られるのでお金の価値が下がる」等々、バフェット氏はインフレに強い警戒感を示しています。

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 2022年92歳になるバフェット氏はこれまでにもインフレの怖さを経験して来ました。10年前、2011年の「株主への手紙」でも、投資の最大リスクの1つにインフレによる購買力の低下をあげていました。インフレ局面で1千億以上の現金・米国債を保有し続けるのは厳しく、資本配分の変更が急務であると語っていました。物価上昇で現金の価値が下がり、インフレ下では金利が上昇し国債の価格は下落します。一方、株式には多少の耐性があります。競争力のある企業は物価上昇分を価格に転嫁でき収益が大きくなり、株価は上がりやすくなると、経験上捉えていました。

 バフェット氏の投資哲学は今でも変わりません。本質的な企業価値を下回る価格で購入すれば損をしないというバフェット氏の師匠、ベンジャミン・グレアムが提唱した「安全余裕率」という考え方です。米クレイトン大学ビジネススクール教授で長年、バークシャーを研究してきたロバート・ジョンソン氏は「バークシャーが直近購入した株式は古典的な「バフェット銘柄」ばかりと語っています。例えば42億ドルを投じて筆頭株主になった米パソコン大手のHPもその1つで。強力なブランドを持ち、潤沢なキャッシュフローを株主還元しており、予想PERも10倍以下です。

 インフレ高進が続けば、米連邦準備理事会(FRB)は金融引き締めを急ぎますので景気減速の恐れがあります。物価上昇が続く間は国債や現金など「安全資産」への逃避は効果を上げにくいと考えられ、中長期で見ればリスク資産である株式への投資という「攻め」が「守り」にも繋がるとバフェット氏は考えています。

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 バフェット氏はこれまでビジネスオーナーとして投資先を見極める際も、インフレに強い企業を選んできました。1970年代、物価高と不景気が併存するスタグレーションか米国を襲いました。ダウ工業株30種平均は低迷し、1973年につけた高値を上回れない状況が続き、米誌ビジネスウィークは1979年に「株式の死」と題した特集を組んだほどでした。その一方で、1965~1980年にバークシャーの株価は約20倍になっています。

 バフェット氏は20年前、1981年の手紙でインフレに強い企業の条件を紹介しています。

① 市場占有率や販売量が大きく下がる恐れなしに、容易に価格を上げられる企業
② 資本を少し追加投入するだけで、事業の規模を拡大できる企業

の2つです。バークシャーの現保有企業をみてみますと、今もこうした選別条件に沿っていることがわかります。例えば、北米最大規模の貨物鉄道BNSFは①にあたります。バフェット氏は今年の手紙で「もしBNSFが運ぶ重要な製品がトラックで運ばれるようになれば、米国の二酸化炭素排出量は急増する」と指摘しています。鉄道を使ったエコ輸送の需要は増えると踏んでいるわけです。値上げも視野に入っているはずです。

 また、①と②を兼ね備えるのは、上場株最大の投資先であるアップルです。アップルは、商品力とブランド力で顧客を囲い込んでいます。生産拠点を持たず、設備投資は少ない点に特徴を有します。インフレ期は投資額が膨らみやすいのですが、その心配がありません。余剰資金を自社株買いに回しており、バークシャーの株式持分は追加購入なしで1年前の5.39%から5.55%に高まりました。

 現在の株式市場は穏やかな景気拡大と低インフレの併存に慣れきっています。キャシー・ウッド氏率いるARKインベストメント・マネジメントの興隆は、このような時代を象徴するものです。破壊的イノベーションへの投資を掲げ、キャッシュフローが赤字でも将来性のある企業を前提にした手法とも言え、バフェット氏とは正反対のスタイルです。潮目は変化し、ARKの主力ETF(上場投資信託)がピークから約6割下落しています。一方、バークシャーは着実に株価を伸ばし、20年以降のパフォーマンスには差はなくなりました。「強気相場は口先だけの強気を生む」、バフェット氏は2022年の手紙でこう記し、財務的な根拠のない投資をいさめています。オーナーの視点があれば、明るい未来だけでなく収益性にも目を向けるはずで、オマハの賢人バフェット氏の言葉は、長期投資の基本に立ち返らせてくれるものです。

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 インフレが進むことにより、「物価上昇で現金の価値が下がる」「インフレを抑えるために利上げが進み、国債の価格が下落する」「企業は物価上昇分を製品価格に転嫁できることにより、収益が大きくなり、株価は上がる」とバフェット氏は考えています。そしてバフェット氏は、このインフレの下、本質的な企業価値を下回る価格で株式を購入すれば損しないという投資哲学を実践していますが、皆さんどう思われますか。



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