高齢期の投資戦略(その9)…資産形成後押しするNISAやIDeCo

 総務省の「人口推計」によりまと、2014年10月1日現在のデータが日本の少子高齢化を示す典型的なものとなっています。それによりますと、
・ 日本の総人口は1億2708万人、
・ そのうち65歳以上の高齢者人口は3300万人、高齢化率は26%で、高齢者の人口・割合共に過去最高となりました。
・ また、75歳以上の人口は1592万人、人口比率は12.5%でした
・ 一方で、年少人口(0~14歳)は、1623万人、人口比率は12.8%、
・ また新生児数は100万人となり、いずれも過去最低となっています。
・ 生産年齢人口(15~64歳)は7785万人でした。

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長寿化が迫る老後への備え

 「人生100年時代」という言葉を目にする機会が多くなりました。「65歳を迎えた日本人が特定年齢まで生存する確率」の試算データを見ますと、1960年生まれは男性の3人に1人、女性の5人に3人が90歳まで生きる可能性があり、女性については5人に1人が100歳まで長生きする見込みです。(厚生労働省による試算)

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 長寿命化が進む中、老後資金を準備する必要性が高まっていることは間違いありません。2019年に金融庁がまとめた報告書では、夫65歳、妻60歳の無職夫婦が30年後も健在であれば老後資金がおよそ2000万円不足するという試算が示されました。これが「老後2000万円問題」として注目を集めたことは記憶に新しいものです。

 一方、近年は超低金利環境が継続しており、預貯金で得られる利息はごく僅かになってしまっています。老後資金を貯蓄のみに頼って準備するのは難しいケースもあります。株式や投資信託などの資産運用商品には、個人の長期的な資産形成においてその役割を果たすことが期待されています。こうした状況を背景として、政府は「貯蓄から資産形成へ」の動きを後押しする制度の拡充を進めてきました。

少額投資非課税制度(NISA)の見直し

 2014年には、上場株式や投資信託への年間100万円(16年~同120万円)までの投資について、収益が最長で5年間非課税になる「少額投資非課税制度(一般NISA)」が導入されました。毎年120万円までの非課税投資が可能で、5年間解約なしに続ければ、最大600万円を非課税で運用されていることになります。

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 2018年には、金融庁が指定した投資信託の年間40万円までの積み立て投資について、収益が最長20年間非課税になる「つみたてNISA」もスタートしました。つみたてNISAの対象となる投資信託は信託報酬が一定水準以下のものが指定されているため、コストを抑えた運用をしやすくなっているのが特徴です。積立てによる長期資産形成を推進する制度と位置付けられます。

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 今後は「貯蓄から資産形成へ」の流れを加速させる法改正も控えています。注目すべきポイントの1つは、一般NISA、つみたてNISAの刷新です。

 一般NISAとつみたてNISAは期限が定められており、新規の投資が可能なのは一般NISAが2023年まで、つみたてNISAは2037年まででした。これらがいずれも5年延長されます。資産形成に有利な制度の延長は、老後資金づくりを行う人にとって朗報です。

 また、一般NISAは2024年から「新NISA」に代わります。新NISAでは新たに積立て枠と従来通りの投資が可能な枠との「2階建て」とすることで、新NISAの利用者に積立て枠を活用した長期積立て投資も促します。

つみたてNISAの運用例

 積み立て方式の少額投資非課税制度「つみたてNISA」が急拡大中です。2021年末の口座数(速報値)は前年比7割増の518万、残高は同2倍の1兆5600億円になっています。2019年の金融庁報告書で話題になったいわゆる「老後2000万円問題」を1つの契機に、若年層が積立投資に動き始めた結果です。ではつみたてNISAで2000万円の資産は作れるのか、長期データで検証してみます。

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 つみたてNISAは年間40万円を上限に積み立て方式で投資し、それを初年度含めて20年間、非課税で運用できます。対象は金融庁が長期の資産形成に適すると認めた約210本の投資信託です。40万円は20年後にどれくらい増えるのでしょうか。将来の資産を予測する場合、「例えば年3%で運用できた場合は --- 」など仮の数字をもとに試算することが多いと言えます。しかし今回は、より的確な試算ができるよう、長期の運用データが残る世界先進国株指数(MSCI World, 配当込み、円ベース)の過去の運用実績を基に計算してみました。

 運用益が非課税であるつみたてNISAの仕組みを有効に使うには、長期で期待リターンが高い株式を中心とすることがセオリーとなります。しかし、資産全体が株式だと変動が大きくなるので、預貯金や債券などリスクと期待リターンがともに低い資産を併せて持ちたい人も多いと考えられます。その場合には、債券を含んだバランス型を活用します。その場合預貯金などは課税口座で保有し、債券も含んだ株式主体の非課税口座と併せた資産全体で自分に適した配分になっていればいいと考えます。

 株式でも特定の国や業種に限定すれば長期で低迷することもあるため、世界に幅広く分散するのは有力な選択肢となります。今回の試算で世界株を対象としたのはそのためです。同じ20年という期間でも時期により変動率は大きく異なります。そこで、1970年2月から1990年1月までの20年、1970年3月から1990年2月までの20年、というふうに1ケ月ごとに時期をずらし、最後は2022年3月までの20年間まで、計387の期間で計算しました。

 投資期間20年で最も成績が良かったのは1978年8月から1998年7月まで年率13.4%、最も悪かったのはリーマン・ショック後の2009年1月までの年率2.8%でした。全期間の平均は年率7.3%となります。成績の悪かった順に全期間に占める比率が1割程度になる増加率を計算すると、年率4.5%となります。固めの数字を使ったほうがリスクが少ないので、年率4.5%という数字で、つみたてNISAの将来成績を考えてみました。

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 40万円を投資して年率4.5%で20年間運用しますと、96.5万円になります。つみたてNISAに新規拠出できるのは、現時点では2042年までですので、今年から始めれば、21年分の投資が可能になります。96.5万円の21年分なら合計2026万円です。21年目に投資した40万円の運用が終わるのは2061年になります。

 もちろん年4.5%を下回る時期もありました過去実績では上回る時期が多くありました。つみたてNISAで長期的に2000万円の老後資金を作るのは、過去データで見る限り期待できそうです。こうしたデータを知れば、「つみたてNISAの活用を考える人が一層増えるかもしれません。もし全期間平均の過去実績である7.3%で運用できれば、約3400万円の資産が作れる計算になります。ただ今後、世界全体でも人口の伸びの鈍化などで投資成績がやや悪化するかもしれないため、固めの数字で考えておいた方がリスクが少なそうです。

 計算の簡略化のため初年度の資産は期初に40万円投資したとしています。つみたてNISAでは基本的に初年度の投資が終わった2年目以降は買い増しできずそのまま運用を続けます。翌年分は別途40万円の投資枠が使えて、それを20年間運用するわけです。これを毎年繰り返します。このため積み立てを毎年続けて累計投資額が増えていく場合の計算ではなく、初年度に購入した40万円の資産を20年間そのまま保有・運用し、それを21年間繰り返した場合の増加率を計算しました。指数算出開始が1969年末からなので十分な長期間とはいえないものの、つみたてNISAの効果を考える上で参考になりそうです。

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 今回の試算では投信の保有コスト(信託費用)は考慮していません。しかし最近では、つみたてNISA対象の世界株投信で信託報酬が年0.1~0.2%程度のものも増えています。そうした投信を使えば、試算にほぼ近い成積が得られます。

確定拠出年金制度の見直し

 もう1つのポイントは、確定拠出年金制度の加入期間延長です。従来は企業型、個人型とも掛け金を拠出できるのは60歳まででしたが、これが企業型で70歳までに、iDeCo(個人型)は65歳までに延びます。より長期にわたり掛け金を拠出しながら運用を継続できることになれば、老後資金の準備がしやすくなると言えます。

 2017年には「個人型確定拠出年金(iDeCo=イデコ)の加入対象者が拡大され、原則として20歳以上60歳未満のすべての人が加入できるようになりました。iDeCoは運用による収益が非課税になるだけでなく、拠出した掛け金が全額所得控除の対象となるため節税メリットが大きいと言えます。受給は原則として60歳以降となりますが、受給時にも税制面で優遇が受けられるのが特徴で、老後資金の準備を支える制度としての役割は大きいと言えます。

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 年金は従来からある「確定給付型年金」に加えて新たな選択肢として2001年から「確定拠出年金」が導入されました。確定給付年金は会社が独自に運用管理します。運用実績により資金が不足した場合は、会社が不足分を追加負担するリスクがあります。

 確定拠出年金は個人(従業員)が自己責任のもとに運用管理します。運用実績により受取る年金額が変わりますが(掛金額は保障)会社には不足分を補うリスクがありません。確定拠出年金には個人型確定拠出年金(iDeCo)と企業型拠出年金の2種類があります。iDeCoは個人が加入するのに対し、企業型は基本的に会社が退職金制度として導入しており、掛金や納付方法など、色々な面で違いがあります。

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 ところで下図は日本と米国での老後資金の準備を比較して示したものです。日本銀行調統計局がまとめた「家計の金融資産構成2019年」で、日本の家庭における金融資産合計に占める割合を見てみますと、現金・預金は何と53.5%です。家庭における金融資産の半分が預金や現金ということになります。一方、リスク資産を見てみますと、「株式等」「投資信託」「債務証券」を合わせても15.2%にしかなりません。

 一方、米国はどうかと言いますと、現金・預金は12.9%しかありません。他方、株式等は34.3%、投資信託12.0%、債務証券6.5%の割合を占めています。いわゆるリスク資産だけで52.8%という計算です。確かに、米国ではリスク資産の運用が盛んであると言えそうです。

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 米国人の資産運用は、特別なことはせずに投資の王道と言えるような方法で長期間行うのが主流です。そして、長期投資を実現できるように国の政策として金融教育が推進されています。学生や新社会人などの若年層に対する金融教育の強化を掲げて、国を挙げての金融教育を行い、教材も充実しているようです。このような施策は確かに実を結んでいるようです。

 米国では資産運用について積極的に教育がおこなわれ、小学生のころから株式を買っているケースもあると聞きます。日本人も投資をする前に十分に勉強して予備知識を付けておくことが重要のようですが、皆さんどう思いますか。



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