高齢期の投資戦略(その11)…インフレの今後の展開を占う

インフレに対する基本的な考え

 日用品やサービスなどの値段が持続的に上がるのがインフレです。10%のインフレならば、今まで20万円だった生活費が22万円になります。賃金も同じく10%増えないのであれば、家計にはマイナスとなります。インフレ下ではモノの価値は上がる半面、お金の価値は下がる形になります。従って、現金を持っているよりモノ、すなわち、住宅で代表される不動産、金で代表される貴金属といった他の金融商品で持つ方が優位になりやすいと言えます。

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インフレの最近の傾向

 最近の値上げの要因としては、2020年に始まったコロナ禍での供給制約や経済の再開に伴う需要増加による、原材料価格の上昇が挙げられます。さらに、今年2022年に入ってからはウクライナ情勢の緊迫化に伴い、ロシアが主要輸出国となっている原油や天然ガス、小麦をはじめとする穀物などの商品価格が上昇し、燃料や原材料価格が上昇していることも影響しています。世界主要50ケ国の消費者物価の上昇率は2022年3月、27年ぶりに7%を突破しました。物価高騰が家計を直撃し、各国政府はインフレとの戦いを強いられています。インフレの先行きをどうみればよいのでしょうか。

 最近の傾向として、これまでデフレを意識してきた先進国の中央銀行や投資家が一転してインフレリスクを懸念しているという状況も起こっています。「脱炭素の潮流のなか化石燃料への開発投資が減り、資源価格高騰は長引く可能性がある」と指摘されています。これは、再生可能エネルギーによる電力供給は不安定で、穴埋めには化石燃料がまだ欠かせないという状況が当面は続くと考えられるからです。このことは、脱炭素を急げと叫べばいいという話ではなく、「移行期間」をどう設計するかが肝心という議論に結び付きます。更に、2022年2月にはロシアのウクライナ侵攻で、天然ガスが高騰するという事情もあり、資源高から物価上昇は長引くとの見方も広がっているわけです。

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「インフレ、1年後に一巡も」
 
 これは2022年5月24日版の日経新聞の大機小機欄で紹介された見解で、インフレは1年後には一巡して終息するとする見方です。 

 いつの時代も戦争の行方を予測することは難しいものです。だが、歴史を振り返りまと過去100年間に主な戦争が33回あり、開戦から停戦までの期間は平均32ケ月でした。このうちロシア(旧ソ連を含む)の戦争は9回で平均38ケ月続いています。早期停戦を願いたいところですが、長期化は避けられないかもしれません。戦争が始まると生産設備の破壊や物流の停滞などで商品価格が急騰します。過去50年間に商品価格の高騰が6回ありましたが、第4次中東戦争、ソ連のアフガン侵攻、湾岸戦争、イラク戦争、シリア内戦、クリミア併合など、いずれも戦争が契機となっています。

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 第2次世界大戦では戦火拡大で戦争期間を通じて商品価格の高騰が続きましたが、過去50年間の6回を平均すると、開戦5ケ月後に5割程度高騰してピークを付けた後、下落に転じています。ロシアに対する経済制裁強化などでさらに高騰する可能性もありますが、過去の経験則を当てはめると、商品価格は夏までにはピークを打つかもしれません。

 消費者物価はどうなるのでしょうか。過去6回を平均すると開戦前に比べて、ピークで世界主要50ケ国は約4%、米国は約2%、日本は3%ほど上昇率が高まりますが、原材料コストの転嫁が進むにつれて鈍化し、16ケ月程度で上昇が収まっています。ウクライナ戦争で世界の消費者物価の上昇が加速し、日本も4月の総合指数が2.5%になりました。消費増税の影響を除くと30年4ケ月ぶりの高さです。インフレの行方が心配ですが、過去のパターンを当てはめると、当面は価格転嫁で上昇が続くものの、いずれピークを打ち、1年後には落ち着くことになりそうです。

 気候変動対策によるエネルギー需給のひっ迫や供給網の混乱などによるインフレ要因は残りますが、戦火が世界に拡大しなければ、戦争で加速した物価上昇は1年後には一巡することになるのではないでしょうか。

物価上昇と景気低迷が同時に起きるスタグフレーションの場合

 スタグフレーションとは、景気が後退しているにも関わらず、インフレが同時進行してしまう現象です。「不況下のインフレ」ともいえます。インフレで物価が上がり続けているのに、景気は低迷してお金の価値も下がってしまうという極めて厳しい経済状況です。通常、景気の停滞によって需要が落ち込めばデフレとなりますが、例えば原油価格の高騰など、原材料などの価格上昇などをきっかけに、不景気なのに物価は上昇してしまうということがあります。

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 1970年代のオイルショックがまさにそれでした。景気悪化でデフレ必至に思えるポストコロナにおいても、輸入価格の高騰や物流コスト増大など、多くのインフレ要因が存在しています。そのため、今回のコロナ禍による物流停滞の影響で航空貨物運賃が急騰した時には、このスタグフレーションが発生してしまうのではないかと懸念する声もあります。

インフレが一定範囲内にあり景況感もいい場合

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 最後に、インフレが一定範囲にあり景況感も良いという楽観的な見方を紹介します。この場合位、株式投資が有効であると考えられます。なぜなら、株式投資には物価上昇による資産の目減りを防ぐ効果があるからです。インフレの背景に活発な経済活動があるならば、企業は製品やサービスの価格を上げられるため収益が大きくなり株価は上がりやすいからです。20~30代が長期投資するなら、インフレ対策は株式投資で十分との声が多いのも事実です。独立系金融アドバイザー(IFA)の代表を務めるF氏は「企業はたとえインフレ時に価格転嫁が追いつかず、一時的に業績悪化しても、その後は回復する」と説明しています。運用期間が長ければインフレ局面の損失をいずれ取り戻せるとの考えです。最近の投信の資金流入上位には米株投信が並びます。

【FRBの金利政策の焦点】

 米連邦準備理事会FRBの金利政策については、通常の倍となる0.5%の引き上げ幅を示唆する声が出ています。米金利先物市場ではFRBが2022年内の残り6回の会合を通じて、政策金利を2.5%以上に引き上げるとの予想が8割近くに達しています。0.5%の利上げが3回あることを織り込んだ水準と言えます。

 更に、FRBは量的引き締め(QT)と呼ばれる資産圧縮に5月にも乗り出すと、3月に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)から発表されています。前回(2017~19年)の倍となるペースで圧縮する計画が明らかになっています。最大では3年で3.4兆ドル(約420兆円)減らす計画になります。政策金利の引き上げに続き「量」でもインフレの封じ込めを優先する模様です。

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 インフレは利上げとの絡みで、また利上げは景気との絡みで目がはなせません。景気が良くなれば、株式は上昇し、景気が悪くなれば株式は下落します。また、インフレが長引くのか、一時的なものかは、不動産や金商品との絡みで重要になってきます。長引くようであれば、不動産や金商品を考えなくてはなりません。皆さんはどう思われますか。



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