高齢期の投資戦略(その12)…コロナ後世界の新秩序について考える

 日本ではこれまでのところ新型コロナ感染は第1波から第6波までの6回襲って来ました。感染が拡大した時期とコロナ株の名称を下記に示します。

第1波 2020年4月~5月
第2波 2020年7月~9月
第3波 2020年11月~2021年2月
第4波 2021年4月~6月             アルファ株
第5波 2021年7月~9月 東京オリンピック開催  デルタ株
第6波 2022年1月~5月             オミクロン株

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 下図に2020年3月から2022年6月までのNYダウ工業平均株価の変化を示します。

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 2020年3月16日、米ダウ工業30種平均は、新型コロナウィルスの流行拡大で前週末比2997ドルの20,0188ドルに急落しました。米連邦準備理事会(FRB)は15日緊急利下げしましたが、投資家の不安は静まりまらず、欧米では入国制限が相次ぎ、経済活動の停滞も強まりました。


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 その後、ダウ平均株価は持ち直し、2020年11月17日のダウ平均の終値は2,9950ドルと、初の3万ドルが目前に迫りまるところまで来ました。新型コロナの感染拡大で急落した2020年3月の安値から8ケ月で6割超上昇しましたことになります。回復の原動力は、コロナ禍でも稼ぐ力を見せた巨大IT(情報技術)企業の存在が際立ちます。アップルやアマゾン・ドット・コムは4割以上も上昇し、オンライン会議のズーム・ビデオ・コミュニケーションズは5倍近くになりました。一方で移動制限の影響を受けたエクソンモービルやボーイングは4割減らしました。




 世界の株高は、基本的には世界の中央銀行が金融緩和政策を推進して、市場にお金がだぶついているために、そのお金が株式の世界に向かっているためと考えられます。そして、世界の景気は今後良くなると判断している人も多いと言えます。ただ急激な資産価格の上昇には「経済活動の正常化を過剰に織り込みすぎた面がある」との警戒感も出ていますし、ワクチンに対しても「実用化する前に医療崩壊の危機が近づくのがリスクシナリオ」との声も出ました。

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 株価の上昇は結局2021年度一杯まで続きますが、このようにコロナ禍が米国株の追い風となった3つの要因には次の様なものが挙げられています。

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 第1に、コロナ禍は対人接触型サービスを中心に一部のビジネスに大きな打撃を与えましたが、逆に巣籠り消費を促すことで、ネットビジネスに関わるGAFAなどのハイテク企業には大きな追い風となりました。米国株式市場は、ハイテク銘柄に牽引されてきたと言えます。

 第2に、コロナ禍の下で巣籠り傾向が強まる中、若年層を中心に株式投資に傾倒する素人個人投資が急増しました。ロビンフッダーがその代表例です。彼らは、オプション取引も含めたリスクの高い株式投資を行ないました。その際、主な投資対象には、ハイテク銘柄が含まれたのです。ロビンフッターとは、米国のロビンフッド証券が提供するスマホアプリで売買を行う個人投資家のことです。新型コロナの流行によって、家にいる若者を中心に急速に増加しており、2020年1月~3月の第4四半期だけで、ロビンフッド証券には300万のしんき口座開設があったとされています。

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 第3に、コロナショックを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が異例の金融緩和を実施しました。これが、早期の株価回復を助けたのです。しかし実際には、金融緩和は行き過ぎてしまったのではないかと思われます。米国株式市場の時価総額は、1997年から2000年の年平均増加率は+9.2%であったが、2019年末から2020年までの増加率は+22.0%に達しました。株式だけではなくハイイールド債(無格付け社債も含む)の発行総額についても、同時期に+8.5%から+9.1%に加速しています。積極的な金融緩和によって、金融市場はコロナショックの打撃から立ち直ったばかりでなく、より過熱感を強めてしまったのです。

 以上の点から、「株高はコロナ禍のあだ花」と後に総括される可能性もあるのではないかと言われています。あだ花とは、実を結ぶことなく、はかなく散り去る花のことです。そこから転じて、見かけは華やかであっても内容や結果を伴わない物事を指して「あだ花」と表現されるようになりました。

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 実際に昨年末の2021年12月6日の日経新聞掲載記事では、新型コロナウィルスの新たな変異型「オミクロン型」を巡る金融市場の警戒が続いていることを報道しています。11月下旬のオミクロン型コロナの出現報告以降、世界の株式時価総額は約3.7兆ドル(約410兆円、約3%)減りました。逆算しますと、世界の株式総額は410兆円÷0.03=13,666兆円となります。

 今回は、経済正常化の恩恵を受ける航空会社株式や、原油などの国際商品から資金が流出しています。ただ感染拡大への市場の評価はなお定まっておらず、当面は神経質な値動きが続きそうです。オミクロン株感染が深刻な問題ではないとわかれば、景気は上昇ムードになり株価は上昇すると考えられます。

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  景気鈍化と供給制約によるインフレをともに意識しているのが債券市場です。オミクロン型の影響による中長期の景気減速を警戒し、米国の10年債や30年債の金利が低下(債券価格は上昇)しました。同時に中央銀行は短期的にはインフレ圧力を持続させるため、緩和縮小を急ぐとの見方が台頭します。このように、インフレが始まると、当面は金利を上げて企業の投資を抑える、すなわち景気を抑える方向に動き、物価を沈静させる方向の対策が取られます。そのため現時点では金融政策に敏感な2年債や5年債はインフレ圧力が継続すると見做して利回りが上昇しています。反対に10年債や30年債の長期債券は長期的には景気減速による金利低下を予測する形になっています。

 2021年12月2日に、市場では景気の先行きへの不透明感が台頭し、5年債と30年債の利回り差(スプレッド)は2020年3月以来となる0.56%前後にまで縮小しました。最も誌市場は悲観一色ではなく、投資家の不安心理を映す変動制指数(VIX)が急騰する一方、無症状や軽症状が多いとの報告も出ており、相場の混乱はそろそろ峠を越えるとの見方もあります。重症化率など分からないことが多く、新たな情報次第で相場が上下しやすくなりました。

 2022年6月9日の時点では、世界はインフレとの戦いに遭遇しています。2020年に始まったコロナ禍での供給制約や経済の再開に伴う需要増加による原材料価格の上昇が挙げられます。さらに、今年2022年に入ってからはウクライナ情勢の緊迫化に伴い、ロシアが主要輸出国となっている原油や天然ガス、小麦をはじめとする穀物などの商品価格が上昇し、燃料や原材料価格が上昇していることも影響しています。世界主要50ケ国の消費者物価の上昇率は2022年3月、27年ぶりに7%を突破しました。物価高騰が家計を直撃し、各国政府はインフレとの戦いを強いられています。

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新型コロナの大流行で世界はどう変わるのでしょうか                                                        

 世界は100年に1度の大変革期を迎えています。2世紀前、インドで発生したコレラの大流行で世界の中心がアジアから欧州に移り、産業革命で西洋文化が開花しましした。1世紀前はスペイン風邪の大流行を境に主役が欧州から米国に移り、技術革新と情報革命、流通革命で新産業が勃興して米国文化が開花しました。日経新聞「大機小機」のコラムでは、新型コロナの大流行で世界はどう変わるのかを予測してますのでこれを紹介します。

第1:世界秩序の再構築

 米国が社会の分断に悩む中で、コロナの封じ込めに成功した中国は覇権をうかがう勢いです。だが、中国の独裁・強権政治は国際社会に警戒心を生みました。一方、欧州連合(EU)は英国の離脱でかつての勢いを失いました。主役無き時代を迎える中で中国と同様、コロナ封じ込めに成功しつつあるインド太平洋の浮上が注目されます。インドの感染者数は米国に次いで多いのですが、感染率は低く、1週間あたりの新規感染者数もピークの5分の1に減少しています。経済活動再開で今年の成長率は8%を超え、世界で最も高くなる予想です。

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インド太平洋主要10ケ国の国内総生産(GDP)は米国、EU、中国に次ぐ第4位ですが、平均年齢は中国より10歳若く、ポテンシャルは大きいと言えます。日本を加えれば経済規模はEU、中国とほぼ並びます。世界の中心が米中2極から4極になる可能性がありそうです。世界秩序が揺らぐ中で、日本はインド太平洋諸国と連携して自由貿易を推進し、価値観を共有する諸課題の解決に向けて主動的役割を果たすときです。新しい国際ルールを積み上げていくことによって、21世紀の新しい世界秩序が生まれることを期待したいものです。因みに、東南アジア諸国連合とは、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス(全10か国)から成っています。

第2:新企業群の誕生

 デジタルとグリーン革命で新しいビジネスモデルが次々生まれつつあります。主役が交代して新興企業群が世界経済をけん引する時代が始まろうとしています。日本発の新企業群誕生が待たれるところです。

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第3:新文化の開花

 在宅勤務の普及で余暇が増えて生活様式が変わり、人々が公園に集い始めました。かつてホイジンガが提起した「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」の時代の到来ているわけです。遊びは文化の原点です。明治以来、日本人は「ホモ・ファーベル(作る人)」でしたが、新しい生活スタイルに変ったとき、新ジャポニズムが開花するのではないでしょうか。

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 この3年間世界は新型コロナウィルス禍に苦しみましたが、ようやくその勢力も弱まりつつあります。今後の世界経済は新しい秩序の下で展開されて行くものと予想されますが、皆さんはどう思われますか。



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