高齢期の投資戦略(その15)…株式市場の動きを読み取る(2020上昇期)

 米ダウ工業30種平均株価と日経平均株価225種を比較して眺めてみますと、2000年以降で見る限り、大局的には両者は連動しているように見え、NYダウが日経平均をリードしていると言えます。このことは、NYダウの変動要因、すなわち米FRBの金融政策を注視する必要のあることを意味しています。

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 日経平均はバブル景気で絶頂だった1989年12月29日に38,957円を付けましたが、その後暴落し、2018年5月時点では22,000円前後で推移しています。一方、ダウ平均は1989年にはわずか2,753ドルに過ぎませんでしたが、2018年1月26日に26,616ドルの高値を付けました。この約20年間に日経平均が停滞する一方、ダウ平均は約10倍になっていたのです。この差は、20年間経済成長を続けてIT産業を始めとする新産業を創出することに成功したアメリカ経済と、構造改革が停滞し「失われた20年」になってしまった日本経済を象徴していると言えます。

 そのため、日本株を扱う投資家にとって、前日のダウ平均の値動きは絶対にチェックしておかなければいけない最重要指標となっています。近年、ダウ平均が大きく下げた場合は日経平均も大きく下がりやすい一方で、ダウ平均が大きく上げても日経平均はそこまで大きく上がらないという傾向があります。

2020.2~2020.12のNY株大幅上昇の要因

 米国株の主役は5年ほどの周期で入れ替わってきました。ダウ平均が初めて1万ドルに乗せた1999年頃はインターネットの普及でインターネット関連株が脚光を浴びました。2000年代半ばは金融株、10年前後はエネルギー株が市場の立役者でした。今回はIT株がけん引しています。採用銘柄のアップル、マイクロソフトに加え、アマゾン・ドット・コム、アルファベット、フェイスブックのGAFAM5社で時価総額は7.1兆ドル(約750兆円)と、日本株全体(約450兆円)を上回ります。

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 2020年11月24日、米ダウ工業株30種平均が史上初めて3万ドル台に乗せました。成長を続ける巨大IT企業がけん引する産業構造への転換で、2万ドルを付けた2017年から4年弱で1万ドル上昇しました。新型コロナウィルスによる経済危機が生んだ未曾有の株高は、緩和マネーが支えで、実体経済とのズレも目立ちます。ダウ平均が2万ドルから3万ドルへと50%上昇した間に、GAFAM5社の時価総額は3倍近くに膨らみました。米国株全体に占める比率も17%と一極集中が進みます。株式市場からみると、コロナ危機は二面性を持ちます。7~9月期の企業決算は「ワースト」と「ベスト」が混在しています。アメリカン航空など米航空大手3社は計1兆円規模の赤字を計上しましたが、マイクロソフトの利益は1.5兆円規模と最高でした。需要蒸発に苦しむ企業がある一方、巨大IT企業はデジタル化の流れに乗って新たなサービスを生み出し、輝きを増します。

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 株高の底流には市場に流れ込むマネーがあります。新型コロナの感染が拡大した春先、都市封鎖などで経済がマヒ状態に陥りました。日本を含む主要国の株価は軒並み急落し、一時3割を超える下落となりました。その際に、世界は危機を阻止するため、総額10兆ドル超の財政支出に動きました。金融緩和策で市場にマネーが流れ込み、下げ幅を超える上昇を生んだことになります。

 緩和マネーに支えられた株高は、実体経済とのズレも生んでいます。約10年前まで米国株の時価総額と米国内総生産(GDP)は近い水準でしたが、徐々に差が開いきました。20年はマイナス成長下の株高で、時価総額はGDPの2倍超まで拡大しています。

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 株価を1株あたりの予想利益で割ったPER(株価収益率)は22倍と、過去20年で最高水準にあります。特にIT株では利益に比べた株高が進んでいます。株価が上がれば含み益が膨らみ、消費の追い風になるとされます。だが実態は株高の恩恵が偏っており、果実が一般市民に向いづらいものとなっています。米連邦準備理事会(FRB)によると、米国民を資産階層で分けると、上位1%が全体の半分強の株式・投資信託を持っています。下位50%の保有額は1577億ドルにすぎません。アマゾンのジェフ・ペゾス最高経営責任者(CEO)1人を下回っています。

 このように株価を牽引しているのはIT株ですが、その恩恵は一部の富裕層に偏っています。債務の膨張と緩和マネーへの依存をどう克服するかが、これからのポイントになりそうです。危機はイノベーションを生み、企業が変革するチャンスになります。ただ、その裏にある債務の膨張と緩和マネーへの依存を克服できなければ、経済社会のひずみは、より大きくなります。

 ただ急激な資産価格の上昇には「経済活動の正常化を過剰に織り込みすぎた面がある」と警戒感も出ています。ワクチンに対しても「実用化する前に医療崩壊の危機が近づくのがリスクシナリオ」との声がでています。世界で感染が再拡大しているなか、債券安・株高の流れが一服する可能性もあります。

2020年日経平均異常株高の要因

 さわかみ投信の澤上会長が、日経平均株価の2020年の異常株高の要因について説明していますので、これを紹介します。

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 異常株高は下記3点で説明がつくと言われています。

(1) 金融緩和
(2) 低金利
(3) 自社株買いの活発化

(1) 金融緩和

 コロナ発生の前でも、すでに日本は国内総生産(GDP)の2年半分もの巨額の借金をしてきました。その大半は、この30年間に経済活性化資金として投入されてきたものです。巨額の借金を積み上げたものの、さして効果は上がっていません。生産性の低さに象徴されるように、日本企業の国際競争力はどんどん落ちています。それをなんとかテコ入れしようということで、国の予算は膨らむ一途の悪循環となっています。

 日銀も国債の買い取りや株式ETFの購入などで、資金を大量に供給し続けています。その結果、いまや日銀の財務(総資産)は683兆円(2020年8月末)と、GDPを1.3倍近くも上回る異常な規模にまで肥大化してしまいました。ちなみに、米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)もヨーロッパ中央銀行(ECB)も、コロナ・パンデミック騒ぎで財務を急拡大させています。それでも、GDPに対しては、それぞれ30数%と50数%です。それを見ても、日銀の異様さは突出しています。

 このように、国も日銀もすさまじいまでの資金バラ撒きを続けてきたわけです。まさに、後先構わずの大盤振る舞いです。この大盤振る舞いで大量のマネーが株式市場に流れ込んで来たために、コロナ禍にも関わらずどんどん株が買われてきたわけです。

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(2) 低金利

 低金利によって借り入れの負担が低くなったことで設備投資が増え、企業の業績が向上し、株高につながったことが挙げられます。企業の資本は銀行借り入れや社債の発行など、負債で調達した資金である他人資本と、株主から調達した資金である自己資本とに大きく分けられます。

 銀行借り入れや社債は、もちろん借り入れする企業の信用や財務状況、将来性などを加味して金利が決められます。一方、株主が要求する期待リターンは、投資をする株主によって違うものの、当然ながら倒産リスクを考えなければならず、国債や社債の金利よりは高くなります。つまり、他人資本と自己資本を金利で比較した場合には、株主の要求リターンのほうが高い(金利が高い)のです。

 低金利が株価収益率PERを押し上げる効果があることを、モデルを使って説医する専門家がいます。そして、彼らはその説明の中でバブルに向っていると断言しています。そのモデルというのは、以下の通りです。

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 理論株価の計算式として、
・ 一株当たり利益EPS、もしくは一株当たりFCF(フリーキャッシュフロー)を、
・ rf(リスクフリーレート:国債利回り)と
・ RP(リスクプレミアム:上乗せ金利)を足したものから
・ g(成長率)を引いたもの
で割るというものです。

         理論株価式=EPSまたはFCF/{(rf+RP)-g}

 これは、現在の一株当たり利益EPSまたは一株当たりのFCFを、株主の要求リターンから成長率を引いた利回りで割り引いて理論株価を出すモデルです。これは、配当割引モデルと言われるものですが、最近は配当を出さず成長だけを考えるハイテク企業も多く、配当資源であるEPSやFCFをもとにする形で考えています。

 ここで具体的な数字を入れて考えてみます。まず、ある企業のEPSが50円、rfが4%、RPが6%、成長率を5%で考えてみます。計算すれば理論株価は1,000円となり、PERで考えると20倍ということになります。
  理論株価=50円/{(4%+6%)-5%} = 1,000円
  株価収益理PER=1,000円÷50円=20倍

 では金融緩和で金利が下がったとして半分の2%で計算してみます。すると、理論株価は1,660円なので6割以上も上昇することになり、PERでは33倍となります。
  理論株価=50円/{(2%+6%)-5%} = 1,660円
  株価収益理PER=1,660円÷50円=33倍

 さらに金融緩和が進みゼロ金利になったとしましょう。その時の理論株価はなんと5,000円で、金利が4%時の5倍、2%時の3倍です。PERで考えると100倍というとてつもない評価となります。
  理論株価=50円/{(0%+6%)-5%} =5,000円
  株価収益理PER=5,000円÷50円=1,00倍

 金利が低くなればなるほど株価の上昇圧力が高まるのがわかります。同じ2%の金利低下にもかかわらず、4%から2%への金利低下の場合は66%ほどの上昇となるのですが、2%から0%の場合は200%の上昇となるからです。

 先ほどの成長率のgを5%にしていましたが、成長率を高くした場合にはどうなるでしょうか。例えばgを6%で計算してみますと、rf4%、Rf6%の場合で理論株価は1250円となりPERで25倍。rf 2%、Rf6%の場合では2,500円のPER 50倍です。

 最後にーrfが0%の場合は計算ができないので、あえてrfを0.1%で計算してみると、なんと株価は5万円となりPERは1,000倍となりま。まさに説明がつかないほどの株価だが、計算では説明できることになってしまう。

(3) 自社株買い

      株価(Price)=一株当たりの利益(EPS)×株価収益率(PER)

 自社株買いによって、そもそもの成長にプラスアルファでEPSが成長すれば、株価は上昇する。それは、経営者にとっても良い選択であったことになります。
 
 自社株を購入することにより、企業は発行済株式数を一部取得することになります。その一部は、企業は金庫株として保管します。これにより市場に出回る株式が減るので、一株当たりの価値は上がります。また企業は金庫株の消却をすることもできます。自己株式の消却にはデメリットも潜んでいます。株式を消却処理するということは、企業の資本金を減らすことを意味します。そうなると、企業規模が縮小するのでその後の株価の上昇は難しくなります。

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 このコロナ禍にあって日経平均株価が大きく上昇したのは、金融緩和、低金利、自社株買いとう3つの要因で説明ができるのには十分納得がゆきます。皆さんはどう思われますか。



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