高齢期の投資戦略(その16)…株式市場の動きを読み取る(2022年株下降期)

 前回のブログ(その15)では、2020年の株価の大幅上昇の要因について検討しました。今回は反対に現在大きく下落している2022年株価の要因について検討します。

「2022年初以降の株価続落の要因についての考察」

1. 2022年1月27日日経新聞掲載記事 「落ちるナイフをつかむな」より

 2022年1月26日の日経平均株価は続落し、昨年来安値を更新しました。米金融政策の引き締め観測が主要因ですが、ウクライナ情勢の緊迫化など新たなマイナス材料も加わり、市場心理はなかなか好転しそうにありません。「落ちるナイフをつかむな……。」米国の有名な相場格言はこんな時の不用意な押し目買いを戒めています。それでは、ナイフはいったいいつ床に落ちるのでしょうか。

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 米連邦準備理事会(FRB)のタカ派転換、新型コロナウィルス変異型の急拡大、原油価格の高騰、ウクライナ情勢の緊迫化、跳ね上がったバリュエーション(株価評価)の修正……。複数の弱材料が複雑に絡まり合った結果としての株価下落であれは、その終わりは簡単には見えてこないようにも感じられます。

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 だが米国に限れば株安の原因ははっきりしています。実質金利の上昇です。米10年実質金利は昨年末のマイナス1.04%からマイナス0.63%に0.41%分跳ね上がりました。「インフレ抑制に向けて実質金利を引き上げるというFRBの強い意志が市場に伝わった」からです。これは米国株の相対的な魅力を薄め、株価は下落し、米%S&P500種株価指数のPER(株価収益率)は21.5倍から19,7倍に低下しました。反対にPERの逆数である益回り(1株利益/株価)は4.65%から5.07%に上昇し、その上昇幅は実質金利の上昇幅と同じ0.42%となりました。今回は米株価と実質金利の相関が密接であることを示しています。

 ちなみに、実質金利とは金利を物価上昇率との関係から見たもので、見かけの金利(名目金利)から物価変動の影響(予想物価上昇率)を差し引いた金利を指します。一国の実質金利を見る場合、主に政策金利から消費者物価の前年比上昇率を差し引いて算出されます。

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 一般的に実質金利はプラスになるのが正常な状態ですが、マイナス(物価上昇率>名目金利)になると、銀行にお金を預けて利息が増えるペースよりモノの値段が上昇するほうが速くなり、お金の価値が実質的に目減りすることになります。お金の価値が目減りすることから、お金をモノへ交換するインセンティブが高まり、消費や投資が活発となることが考えられます。従って、金利上昇が必ずしも株安に直結するわけではありません。中銀は、景気の過熱を抑えるために利上げや量的引き締めに動きます。金融を引き締めるときの景気は基本的にいいわけで、企業業績の拡大が金利上昇が株価に与える悪影響を相殺します。

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 JPモルガン証券のB氏は、米長期金利が0.30%以上上昇した際の株価の平均パターンを分析しました。株安は金利上昇が始まって20日程度つづくが、その後は反転して上昇に向かう傾向があると指摘しています。このパターンに従えば、株安は終わりに近づいていることになります。さらに日本株にとって米実質金利の上昇はプラスに働くという経験則もよく知られています。金利上昇はハイテク株の高いバリュエーションの調整を招く一方、低バリュエーションのバリュー株にプラスに働き、バリュー株の比率が高い日本株に追い風になるからです。

 もっとも、これらのロジックは、PER低下という株安の半分の理由しかみていません。株価は株価収益率PERと1株利益EPSの掛け算で求められますので、後者のEPSにも注目する必要があります。従って、景気が悪化してEPSが切り下がるようだと、まだナイフをつかむべきではないという結論となります。「今回の株安は金利上昇によるバリュエーション調整ではなく、企業業績の悪化を反映している可能性もあります」「世界景気のピークアウトが株安の理由であれば、株価下落はこの程度で終わらない」と三菱UFJ信託銀行のH氏は指摘しています。

 「ナイフをいまつかむべきか」、その答えはなお見えませんが、ひとつだけ確かなことがあります。ナイフが床に落ちたかどうかを見極めるカギは景気にあります。景気の先行きが揺るがないと判断できれば、その時は落ちるナイフを果敢につかむ時です。

2. 2022年3月15日の日経新聞 「底入れサイン反転なるか」より

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 東京株式市場に底入れの兆しが出ています。ロシアによるウクライナ侵攻などで相場全体を悲観ムードが覆ってきましたが、急激な株価下落でPER(株価収益率)などに「売られすぎ」のサインが点灯しているためです。高配当株などに投資マネーが戻り始めるなか、相場の本格的反転につながるかが焦点となっています。

 2022年3月14日の日経平均株価は前週末比145円(0.6%)高の2万5307円と反発し、一時は400円超上昇する場面がありました。投資家心理が強気に傾く地合いではなく、今週は15~16日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えるほか、ウクライナ情勢はなお予断を許さない状況です。それでも買いが優勢になったのは、昨年末からの3000円以上の下落で底入れサインが目を引くからです。

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 市場関係者が注目するのが日経平均の予想PERです。ここ数年を振り返ると、「11倍」が下値の壁となってきました。米中貿易摩擦に揺れた2019年や新型コロナウィルス禍の初期の2020年など、短期的に11倍を下回ってもすかさず切り返してきました。今回も、今月8~9日に約2年ぶりに11倍台をつけましたが、その後は足元まで持ち直しています。東海東京調査センターのH氏は「ほぼ史上最低水準にあり、今後上昇する可能性は高い」と指摘しています。




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 JPモルガン証券のT氏が着目するのは相場トレンドに追随するCTAなど短期筋による売越額です。ヘッジファンドのポジション変化などから売買動向を独自に算出しますと2月中旬から足元までに1兆円超を売り越し、コロナ禍で悲観論が台頭した20年3月を超える水準に達したようです。T氏は「企業のファンダメンタルズを考慮しても、短期筋の弱気は行きすぎだ。近く売り疲れ感から買いに転じるだろう」と予測しています。




 もっとも割安だからといって銘柄を一様に買い上げるムードではありません。ウクライナ情勢が深刻化すれば、日経平均が急落する恐れはなお残ります。全面的にリスクを取りづらいなか、いわば半身で買われているのが相対的に安全度が高いとみられる企業です。代表格が配当利回りの高い銘柄群です。 「株主還元の強化は日本株市場で今後も変わらない流れだ」と語られており、原油高騰が企業業績の逆風になるのとの懸念も強まるなか、そろりと入り始めた買いの流れがどこまで太くなるかが今後の注目点になりそうです。

3. 2022年6月30日 日経新聞掲載 「世界で長短金利逆転」より

 世界中の債券市場で景気の先行きを不安視するシグナルが出ています。米国やカナダ、韓国などでは長短の国債利回りが逆転する「逆イールド」が続発し、欧州では長短利回りの差が歴史的な水準まで縮小しています。インフレ抑制を目的とする政策金利の引き下げが相次ぐ中、急速な利上げが契機を冷やすとの懸念が増しているためです。

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 債券は発行年限が長いほど償還されないリスクが上がり、その分金利は高くなりやすいものです。そのため年限が異なる債券の金利を結ぶ利回り曲線(イールドカープ)は通常、右肩上がりとなります。ただ足元では、政策金利の動向を反映しやすい2年物や5年物の国債利回りの逆転が続発しています。今月に入っても5年債利回りは上昇し、14日は一時14年ぶりとなる3.6%前後をつけた一方、30年債利回りは伸び悩み3.4%前後でした。

 米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の6月時点の見通しによりますと、2023年に政策金利のフェデラルファンド(FF)レートは3~4%台まで上がると予想しています。米国の景気を冷やしもふかしもしない中立金利は2~3%程度と、政策金利の見通し値を下回ります。米連邦準備理事会(FRB)が経済を多少犠牲にしてでも、インフレ制御を優先する姿勢を示しています。

 米国以外でも急ピッチで金融引き締めを進める国で逆イードルが発生しています。中央銀行が今月まで3会合連続で利上げを決め、そのうち2回は通常の2倍のペースで利上げしたカナダは3月以降、逆イールドが頻発しています。カナダ中銀総裁が中立金利の水準まで政策金利を引き上げる意向を示すなど、景気への懸念は増しており、今月には5年債と30年債の逆イールドが15年ぶりの水準まで広がりました。

 中銀が今月まで9会合連続で利上げしたメキシコでは3月以降、5月まで2会合連続で利上げした韓国も3月以降、それぞれ逆イールドが定期的に起きています。欧州中央銀行(ECB)が7月に11年ぶりの利上げに踏み切るユーロ圏は逆イールドには至っていないものの、利回り差が縮小しています。今月中旬にドイツの30年債と5年債の利回り差が0.2%前後と08年以来の小ささとなりました。フランスも同時期以来の低水準にあり、南欧のスペインは10年ぶりの水準となっています。ECBの利上げを見込み、欧州でも短い年限の金利が上昇しています。

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 一方、長期金利は「景気循環の影響を除いた成長率である潜在成長率の低さもあり、相対的に上昇が鈍い」とJPモルガン証券のY氏は話しています。投資家は世界各国でのさらなる利上げを警戒しています。物価の影響を除いた世界の実質政策金利は足元の利上げで下げ止まりの気配が見えて来たものの、いまだマイナス圏とみられます。SMBC日興証券によると、コア消費者物価指数(CPI)を基に算出する実質政策金利は約マイナス3%と金融緩和の環境にあり、コロナショック前のプラス圏には程遠いと言えます。

 「実質政策金利をプラス圏まで早期に引き上げるためには迅速かつ大幅な利上げによるインフレ抑制が必要だが、大幅な利上げに対して経済が対応できるか否かは疑わしい。」とSMBC日興のM氏は指摘しています。また逆イールドは今後5年以内の金利が30年以内の金利を上回る、つまり投資家が中長期的に利下げを織り込んでいるともいえます。既にFOMC参加者の6月時点の政策金利見通しでは、インフレが落ち着くとして24年末までの利下げを想定しています。「長短金利の水準で政策金利の推移を予測できる」JPモルガンのY氏が話すように、今後は中銀の利下げのタイミングを計る材料にもなりそうです。

 株式相場が今後どうなるかは世界景気次第です。現状の世界景気は、確かに色々な要因で上下動しています。米国での金利上昇、インフレ、コロナ禍、地政学的要因等々です。今後は、利上げとインフレがどのような相関を持って動いていくのか、じっくり見極める必要がありそうです。皆さんはどう思われますか。



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