マクロ経済環境(その3)…バーナンキを悩ました2013年の悪夢

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 ベン・バーナンキは2006年2月1日にFRB議長に就任しました。第二次世界大戦後生まれでは初のFRB議長です。2008年に発生した金融危機でゼロ金利政策など緩和政策を実施し、金融機関の救済にあたったほか、景気後退への対応で成果を上げたと評価する声があります。ブッシュの後任であるバラク・オバマ大統領も「米経済の急降下にブレーキをかけた」と称賛してFRB議長への再任を決定しています。一方、金融危機への対応が遅れた、金融危機を招いたのは資産バブルを放置したためという批判の声もあって、2010年1月28日に米上院では再任に対して賛成70票、反対30票と、信任投票が始まった1978年以降、最大の反対票を集める結果となりました。

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 2009年、市場の不必要な混乱を避けるためインタビューには応じないという歴代FRB議長の慣行を破り、現職FRB議長として史上初めてテレビインタビューに応じ、自らの出自や金融恐慌の現状等について語っています。そして2009年3月から1年間、住宅ローン担保証券などを1.75兆ドル買い入れる量的緩和第1弾(QE1)を、2010年11月から2011年6月には米国債を6000億ドル買い上げる量的緩和第2弾(QE2)を、2012年9月からは期限や総枠を設けない無制限な量的緩和第3弾(QE3、「無制限緩和」)を実施しました。
更に2012年1月25日には、FRB議長として、かねてからの持論であるインフレターゲット導入を実施しました。2014年2月に、FRB議長を退任しています。

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量的緩和政策

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 米国の量的緩和政策は、リーマン・ショック後の金融市場の混乱への 対応を目的として 2008 年 12 月に導入され、第一弾(QE1)では1兆 7,250 億ド ルの国債・MBSを、第二弾(QE2)では 6,000 億ドルの国債を購入しました。 第三弾(QE3)は2012年9月に月額400億ドルの国債を購入しています。QE3は2014年10月まで続きましたが、米国経済の見通しに明るさがみられ、QE3の導入目的であった雇用環境に十分な改善が見られたという判断の下終了しました。なお、QE3の終了にあたり、景気や市場に影響を与えないよう、2014 年1月 から長期間(9か月)をかけてほぼ同一のペースで徐々に国債とMBSの購入額を減らしていきました。これは、テーパリングと呼ばれています。QE( Quantitative Easing)とは量的緩和政策のことを言い、市中銀行が保有する国債を中央銀行が買い取る行為を指します。これを行うと債券価格は上昇するので、間接的には金利を引き下げることと同じです。

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 FRB議長がテーパリングを示唆した 2013 年5月や、テーパリング開始直後には、ドル資金のひっ迫化という市場の思惑により、一時的に新興国からの資金流出 や新興国の通貨暴落などが見られました。結局、市場の混乱は「テーパー・タントラム(緩和縮小に伴うかんしゃく)」と名がつくまでに深まり、量的緩和の縮小は翌年にずれこみました。


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 しかし、その後、FRBは市場との対話 を慎重に行い、特段の混乱はなく、QE3を終わらせることができました。 量的緩和政策は終了しましたが、金融緩和政策そのものを取りやめたわけではありません。FRBは、2014 年3月に「物価上昇率が2%を下回って推移すると見込まれ、長期の予想物価上昇率が安定している場合には、資産買入れが終了した後も相当の間、政策金利であるFF金利を現在の異例の低水準(0.00~0.25%)とする」とした将来の金融政策指針(フォワード・ガイダンス)を今日まで基本的に変えなかったことから、2020年までゼロ金利政策が続くことになります。

 量的緩和政策を終了したといっても、新たな資産購入(フロー)を行わないとしたことに過ぎません。これまでの量的緩和によってFRBが保有することになったMBSや国債(ストック)は巨額にのぼっています(図表)。

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 好景気が続く中、 保有資産が減らないならば、市場にとどまる過剰な資金によって、景気過熱に伴う インフレや資産バブルの発生が懸念されます。このため、将来的には保有資産を売却するなどして削減していかなければなりません。中央銀行の保有資産の削減は、市場からの実質的な資金吸収(金融引締め)となることもあるため、その時期やペース等を見誤ったりすれば、米国経済や国際金融市場へ悪影響が及ぶことも考えられます。特に、長期金利の急騰が起きた場合には、FRBや金融機関に相当の損失が発生するほか、米国政府の国債発行に支障が生ずることも懸念されています。

 2013年量的緩和の縮小をめざした米連邦準備理事会(FRB)は、世界的な市場の動揺を招きました。当時、バーナンキFRB議長は5月22日の米議会証言で経済の改善が続けば「次の数回の会合で資産購入を減額しうる」と述べました。事前に準備した資料にもない発言でした。FRB議長の不用意な言葉で金融市場が大きく変動した事件ですが、皆さんどう思われますか。



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