FRBの金融政策(その4)…初の女性FRB議長イエレンの実績

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 2013年10月9日、バーナンキ議長の後任として、オバマ大統領よりジャネット・イエレンがFRB議長に指名され、FRB史上初の女性議長が誕生しました。

 2018年にはトランプ大統領が慣例を破り、イエレン氏を議長の2期目(任期4年)に再任しませんでした。クリントン氏が大統領だった1990年代以降、FRBを政争に巻き込まないため、大統領は人事に口出ししないのが慣習になっていましたが、これが破られました。

 ところが2021年のバイデン政権下では、第78代財務長官に指名され、新型コロナウイルスのパンデミックで打撃を受けたアメリカ経済の建て直しを図ることになりました。イエレン氏は公聴会で、連邦議会は経済刺激策とパンデミックを受けた経済支援策として、数兆ドル規模の追加予算案を承認すべきだと発言し、公的債務を気にせず「大胆に行動」すべきだと訴えました。

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FRB議長としての実績

 イエレン氏といえば、金融緩和の役割を強調する筋金入りの「ハト派」とされてきました。エール大時代には雇用問題をライフワークに選んでおり、FRB議長として理論の実践が試されることになりました。2008年9月のリーマン・ショック以降のアメリカの経済危機に対して、バーナンキ前FRB議長がマネタリーベースの大幅な増加による大規模な量的金融緩和政策を遂行しましたが、これにはイエレンも参画していました。最終的にマネタリーベースは4兆ドルを超えましたが、この量的金融緩和政策がアメリカの経済を良好に回復させたとして高い評価が得られています。

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 FRBは長期に渡る金融緩和により景気がある程度回復したと見ると、2013年末から月100億ドルずつの量的金融緩和の縮小を開始しました。これにより10ヶ月ほどで量的金融緩和によるマネタリーベースの増加は終了すると見られていました。この措置はバーナンキの下で始まりましたが、バーナンキ退任後に新議長に就任したイエレンはその方針を踏襲しています。

 2014年5月8日に行った上院予算委員会での証言で、イエレン新議長は適切なバランスシートの規模について政策の正常化が進行するまで決定を急がないとの考えを示し、危機前の水準に戻すには5年から8年近く要する可能性があると指摘しました。量的金融緩和はFRBが国債などを大量に購入して推進しているので、FRBのバランスシートはいびつな構造になっています。従ってバランスシートを正常化にすることは、とりもなおさず利上げを行ない、国債の保有量を減少させることを意味します。

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 2014年8月20日時点では、FRBは先月分の連邦公開市場委員会議事要旨を公開し、将来予定される最初の利上げ後も当面保有証券の償還資金再投資を継続すること、すなわち国債を保有し続け金融緩和を維持することに「ほとんどの」参加者が賛成していると公表しました。さらに8月22日にはアメリカの失業率が予想以上に速いペースで低下したことを指摘しつつも、失業率のみを指標としてアメリカの労働市場の健全性を判断するには不十分と強調し、入手される指標や情報に基づき予想される将来の利上げなどの政策を柔軟に決定することを再度主張しました。

 2014年10月29日にFRBは資産買い入れ額をこれまでの150億ドルからゼロとしました。これに伴い2012年9月に開始した量的緩和第3弾(QE3)による新たな資産買い入れは終了しました。また、超低金利政策が「かなりの期間」になるという表現を継続して、フォワードガイダンスの表現を維持しました。

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 なお、フォワード・ガイダンス(Forward Guidance)とは、中央銀行が将来の金融政策の方向性を説明する指針をいいます。これは、マーケット(市場)との対話術と言えるもので、政策をめぐる誤解を避け、体系だった政策の先行きや将来の対応を明示し、その効果を高めるためのものとなっています。具体的には、声明等を通じて、政策金利を据え置く期間を示唆したり、将来の政策変更の条件を設けたりするなど、市場参加者の予想や期待に働きかけ、政策が市場金利に及ぼす影響を強めるのが狙いとされます。また、実施している政策の透明性を高めて、市場の過度な動揺を避ける効果も意図しています。

財務長官としての実績

 2021年1月19日に財務長官指名後の上院財政委員会の公聴会の席で、中国政府の新疆ウイグル自治区などでの所業を念頭に「中国はおぞましい人権侵害を犯している」・「中国は最大の戦略的競争者だ」と指摘し、中国の不公正貿易などに対抗する為に「全ての手段を使う用意がある」と述べました。中国による知的財産権侵害・技術移転強要などに「積極的に対抗する必要性がある」と語り、同盟国と連携して中国に対抗する方針を示しました。また新型コロナウイルスの流行による景気鈍化の長期化を防ぐため「大きく動くことが賢明だ」として、バイデン次期大統領が提案した1兆9000億ドル(約200兆円)規模の経済対策を早期成立させるよう連邦議会に求めました。この経済対策については、サマーズ元財務長官は過大すぎるとして異論を唱えています。

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 経済界のトップに上り詰めたイエレン氏は、女性の権利活動のアイコンとなりました。2018年にFRB議長を退いた際には、イエレン氏のトレードマークとなっている立襟の上着を着て、その功績を称える人が相次ぎました。なかなか格好いい女性ですが、皆さんどう思われます



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