マクロ経済環境(その25)…米パウエルFRB議長の金融政策

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 2017年11月、ジェローム・パウエル氏がアメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプにより2018年2月に任期切れで退任するジャネット・イエレンの後任となる次期連邦準備制度理事会議長に指名されました。

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 また2021年1月に共和党トランプから民主党バイデンに政権が変わりましたが、2022年5月には、上院本会議でパウエルの連邦準備制度理事会議長再任が賛成多数で承認されました。2期目は2026年5月15日までの4年間です。


  バーナンキ元FRB議長が率いる2013年6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、当時のパウエル理事(現FRB議長)は、「飛び降りるべきだ」、「どんな道のりもリスクは伴う」と、前のめりな言葉で量的緩和の縮小を主張しました。これらの発言により米金利は急騰、新興国からマネーが流出しました。FRB内で「スリー・アミーゴス(三人組)」と呼ばれたパウエル氏ら一派が量的緩和の縮小を主張し始めたのはわずか半年前の2013年初めでした。2019年に公開された議事録によりますと量的緩和が「投機を助長する」などと訴え、早期縮小を繰り返し求めたとあります。結局、市場の混乱は「テーパー・タントラム(緩和縮小に伴うかんしゃく)」と名がつくまでに深まり、量的緩和の縮小は翌年にずれこみました。

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悩ましいインフレ問題

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 2022年歴史的な物価高が世界を覆いました。日米欧30ケ国の2022年4月の生活費は1年前と比べ9.5%上がりました。上昇ベースは新型コロナウィルス禍前の7倍に達し、経済のみならず政治も揺らすことになりました。ウクライナ危機に中国のゼロコロナ政策が加わり、資源高と供給制約が連鎖してコストを押し上げています。ヒト・モノ・カネの自由な動きが支えてきた低インフレの時代が変わりつつあります。

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 日本経済新聞は経済協力機構(OECD)のデータから日米欧など30ケ国の食料品(飲料含み酒類除く)と光熱費・家賃・住居費を合成した「生活費」物価指数を計算しました。1年前からの上昇率は22年4月に9.5%と2ケタに迫っています。上昇べ―スはコロナ前の2019年までは5年間の平均は1.3%でしたが、今回はそれの7倍で物価全体の7.5%を上回るペースです。これは生活に欠かせないモノやサービスほど値上がりしているためです。上昇率はエネルギー高が襲う欧州で12.4%に達しています。日本も4.4%と、ようやく2%に届いた全体のインフレ率を上回まわってきました。

2021年8月インフレへ初期のパウエルFRB議長の対応

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 2021年夏時点では、インフレ率の上昇は一時的なものだという見解が、政策担当者やエコノミストの間で主流でした。しかしその後、総需要が急速に回復する一方で、総供給は労働者不足とサプライチェーン(供給網)の問題から停滞し、インフレ率が上昇してきてきました。ハト派は21年夏ごろ、新型コロナ対策の失業保険の上乗せ措置が終了する9月以降、労働者は職場に戻り、労働者不足は解消に向かうとみていました。サプライチェーン問題は、中国やベトナムのコロナ対策により製品や部品の製造が遅れ気味ではあるが、近い将来解消するとみていました。上昇を続けるエネルギー価格についても、いずれは頭打ちになり、インフレ率への寄与は小さくなると考えていました。だがこうした見立ては大きく外れました。失業率が急速に下がってきても、失業保険の上乗せ措置が終わっても、なかなか労働力不足解消しません。新型コロナで大打撃を受けた業種で解雇された労働者が、早期退職をして悠々自適な生活に入ったとする見解もあります。全国の労働参加率がコロナ前の水準に戻りそうにないことも明らかになってきました。

2022年8月高インフレ上昇期におけるパウエルFRB議長の対応 

 2022年7月の米連邦市場委員会(FOMC)会合での議事要旨では、参加者から金融引き締めが過度に景気を冷やすリスクについて懸念が出ましたが、パウエルFRB議長は「価格の安定がなければ、経済は誰のためにも機能しない」として、まずは物価上昇の引き下げを優先する姿勢を強調しました。会合後の記者会見で「異例の大幅な引き上げが適切になる可能性がある」と発言した経緯にふれて0.75%の大幅利上げが続く可能性を排除しない姿勢を改めて示しました。一方で「金融政策がさらに引き締まるにつれて、ある時点で利上げペースを緩めることが適切となる可能性がある」としていた発言も踏襲しています。

 2022年8月の米市場は金利の上昇一巡と株高のムードが下旬にかけて一変しました。長期金利の指標になる10年物国債利回りは8月24日に一時3.1%台と2ケ月ぶりの水準に上昇(価格は下落)し、ダウ工業株30種平均は高値から一時1000ドルほど下げました。外国為替市場ではドル高が進みました。金利政策を巡る市場とFRBの駈け引きが値動きを左右しています。更に米商務省が8月26日発表した7月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月日6.3%上昇しました。ガソリン価格の下落などで、約40年半ぶりの大きさだった6月の6.8%からやや縮小している程度です。伸び率は3ケ月ぶりに鈍ったものの、インフレの勢いはなお強く、変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数の上昇率は4.6%と6月の4.8%から縮小しましたが高いレベルにあります。

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 そのような状況下で、2022年8月26日開催された経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は講演し、高インフレの抑制について、「家計や企業の痛み」をもたらすが「やり遂げるまでやり続けなければならない」表明しました。早朝に利下げ転換を予想した市場の動きを念頭に「歴史は時期尚早な緩和を強く戒めている」とけん制しました。講演では米景気の後退懸念には言及せず、かわりに早期の利下げで高いインフレの長期化を招いた1970年代の失敗について分析。「現在の高インフレが長引けば長引くほど、高い物価上昇率が続くという予想が定着する可能性が高くなる」と懸念を示し、インフレ抑制は「やり遂げるまでやり続けなければならない」と決意を示しています。

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 事前配布された資料によると、パウエル氏は2022年9月に予定されている次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)での決定については「新たに入ってくるデータや経済見通しを総合的に判断する」と明言を避けています。

 「金融市場は2013年の二の舞を避けられるのか。」ということで2022年現時点では、その教訓からパウエル現FRB議長は周到に地ならしを進めています。インフレ懸念もあり政策のかじ取りは前回より複雑となっています。新興国にもリスクがくすぶり予断を許さない状況ですが、皆さんどう思われますか。



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