インフレについて考える(その3)…澤上篤人が予想する日本ハイパーインフレへの道筋

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 ハイパーインフレとは、物価が極端に上昇し、通貨の価値が暴落する状態を言います。最近ハイパーインフレを懸念する声もちらほらと聞こえてきます。今後の日本でハイパーインフレが起こる可能性はあるのでしょうか。今回はさわかみ投信取締役会長の澤上篤人氏が懸念する日本のハイパーインフレの可能性について紹介します。澤上篤人氏は日本がどのような経過を辿りながらハイパーインフレに向かうのかを明瞭に示してくれています。しかし、私は心の底ではこの筋書き通りに進まないようにと祈っている1人です。

 日本では、1991年3月から1993年10月にかけてバブル崩壊が起こり、その後30年間ずっとデフレ現象が続きました。日本経済のジリ貧と長期低迷で、モノの値段が上がるどころか、むしろ下がり気味でした。一方、現金の価値は高めで推移し、年金生活者はじめ高年齢者層はデフレ気味の経済を満喫してきました。超低金利政策で、預貯金の利子は年0.1%とか0.01%と、お話にならないほど低かったのに、個人の金融資産における預貯金額は、この30年間で500兆円超も膨れ上がりました(日銀速報)。こんな状態が30年も続けば、日本社会におけるインフレ警戒感など高まるべくもありません。先行き物価が上がりそうだ、それを見越して早めに買っておこうといった前倒しの消費もさっぱり発生しません。それがデフレ現象を長引かせる悪循環ともなってきたわけです。

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 世界でいえば、さすがに日本のようなデフレ現象は見られませんでした。それどころか、中国など新興国の高成長は容易に想像がつくとして、米国やEUといった成熟経済国でさえも、この20年間で経済規模を2倍以上にしています。それだけ成長しているのに、先進諸国はどこも2%インフレの実現を掲げているが、なかなか達成できないでいました。つまり、インフレのイの字も見られないのがこれまでの現状でした。それどころか原油価格の低迷やら資源価格の下落傾向など、むしろデフレ気味とさえいえます。その象徴が金価格で、20年6月半ばから急上昇に入り、20年8月に入って史上はじめて、1トロイオンス2000ドル台をつけました。ところが、その後は1800ドル台にまで落ちています。インフレの兆しがすこしでもあれば、金価格はじめプラチナなど貴金属がヘッジとして購入されるわけで、価格がこんな低位で推移することはないと思われます。それほど左様に、世界で見てもインフレ懸念などまったく感じられないという状況が続いていました。

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 世界中とりわけ先進各国が、これだけ大量に資金をバラ撒いているのですから、大量に供給されたものは、価値が下がり価格も下がります。それが、経済の大原則です。つまり、お金の価値は間違いなく下がっているのです。たまたま、現金からモノへの資金シフトが発生することなく、なにか他の価格が上昇したりもしていません。もちろん、物価も上がっていません。そのため、インフレという認識が高まって来ませんでした。インフレ懸念がさっぱり出てこない中、先進国中心に資金の大量供給はずっと続いていました。

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 そこへ、2020年のコロナ禍で各国はタガの外れたような財政出動に踏み切りました。その規模は前代未聞の大きさです。このコロナ禍で世界経済はマイナス成長に追い込まれて行きました。これだけ大量に資金をバラ撒いても、インフレどころか世界経済にはデフレの懸念さえ出てきているのが現状です。唯一の例外として、世界の金融マーケットがバブル高になっているだけです。世界の債券市場も株式市場もカネあまりバブルで沸き上がっています。そういった状況を見る限り、インフレなんて遠い世界の話のように映っていました。
「それでも、インフレは必ずやってきます。そう断言します」と澤上篤人氏は2021年2月に発売した「金融バブル崩壊」という題名の著書の中で述べています。そして、その通り2020年2月にコロナ禍による物流停滞から始まり、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー資源の高騰が始起こり一気にインフレがスタートしました。

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 これまで各国の中央銀行が金融資産の無制限買取などで、資金を大量に供給し続けてきました。日銀やヨーロッパ中央銀行(ECB)そして米連邦準備理事会(FRB)の財務は急拡大しました。通常、中央銀行の財務(総資産額)は、その国のGDPに対し10%~20%程度の規模です。ところが、2020年夏まででも日銀はGDPの126%近くに、ECBは50%半ばに、FRBは30%半ばにまで財務を膨らませていました。恐ろしいほどの中央銀行の財務肥大化ぶりです。それは同時に、それだけ大量の紙幣を刷っていることになり、紙幣を大量供給して、各国の通貨の価値をどんどん下げているわけです。

 日銀の場合、金融機関からの国債買い入れで、その代金は日銀当座預金という負債勘定となっています。その勘定が異常に膨らんでいますが、これは紙幣を大量に刷っているのと同じことです。そう、まだこれとはっきりは見えてこないけれど、インフレはもうはじまっているのです。インフレというと、よく狂乱物価をイメージしますが、それは、インフレも最終段階に入った最後の2~3年のことです。

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 2021年の時点世界の金融市場を賑わせている債券や株式などのバブル高は、いつ大崩れに入ってもおかしくありません。いくら世界的なカネあまりが続いているとはいえ、バブルは必ずはじけ飛びます、それが歴史の教訓です。ともあれ、今回のバブルがはじける時は、金融マーケットのみならず世界経済もあちこちで崩落のような大混乱に見舞われると考えられます。ひどいことになりますが、どう考えても避けられそうにありません。それだけの条件が揃ってきています。

 なによりも問題は、先進国中心に財政支出を急拡大していることです。いまはコロナ禍の緊急事態で、どの国でも財政赤字の拡大はやむを得ない措置とされています。 たしかに、コロナ不況を克服するまでは、財政赤字拡大もやむを得ません。しかし、その資金をどう調達するかは別問題です。各国とも前代未聞の規模とスピードで財政出動していますが、その資金をどう手当てするのかで、いよいよ、これから頭を悩ますことになります。いくら財政赤字急拡大だと言ったところで、これほどまでに世界経済が悪化している状況下では、大幅増税など望むべくもありません。むしろ、コロナ不況による税収減で、国家財政のやりくりがより難しくなってきています。それが先進各国の現状です。となると、各国とも国債の増発によって財源不足を補うしかありません。やっかいなことに、どの国もタガが外れたように財政支出を拡大しています。相当に巨額の国債を新規発行することになっています。

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 2020年10月15日付けの日経新聞によると、世界各国の政府債務は合計すると、世界経済のGDPに匹敵する規模まで膨れ上がっているとのことです。とんでもなく巨額の債務残高です。新興国や途上国の一部では、債務危機の懸念が高まってきています。コロナ不況が長引けば、債務危機問題はどんどん横へ広がっていき、世界経済はガタガタになりかねません。この事態を打開するには、先進国が自国の財政健全化を目指しつつも、世界各国への支援に手をさしのべるしかありません。それには、なんとしても巨額の国債発行を実現させなければならないのです。ではコロナ対策を含めて巨額の国債発行を強行するとして、一体誰がそれを引き受けるのでしょうか。いかに世界的な金あまりで、企業が発行する債券などが飛ぶように売れているとはいっても、各国が国債発行で調達しようとしている金額のケタが違います。とてもではないが、世界の金融マーケットでは消化し切れないと考えます。

 それでも金融マーケットで国債発行すると仮定しましょう。どうすれば、巨額の国債発行を成功させて、財政赤字を穴埋めすべく資金を調達できるのでしょうか。なにがなんでも巨額の国債発行を強行するとなると、新発国債の発行金利つまりクーポンを、かなり上乗せして投資魅力をたかめてやるしかありません。それがマーケットのみならず、経済の大原則です。新発国債の発行金利を引き上げてやらないと、これだけ巨額の国債発行を金融市場で消化することは難しいといえます。まして、現在のゼロ同然の長期債利回りレベルでは、お話になりません。ある程度の金利を上乗せしてやらないと、誰も新発国債を買う気分にならないでしょう。

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 やっかいなことに、国債の大量発行はコロナ不況が終わるまで続くはずです。となると、新発国債の発行金利は毎回すこしずつ引き上げを余儀なくされます。問題は、ここからです。すこしでも金利引き上げの兆しが出てくるや、世界の債券市場はたちまち大崩れをはじめます。すこしずつ発行金利を引き上げていくなんて悠長な話は通用しません。その図式は、こうです。新規発行する国債の売れ行きを良くするためにと、発行金利を引き上げるとします。それは、今国債などを債券を大量に保有している投資家にとっては、より魅力的な投資対象の登場となります。すなわち、いま保有している低利回り国債を売って、より利回りの高い新発国債へ乗り換えようとする投資行動を誘うことになります。この動きは、瞬時に債券市場全般へ広がってしまいます。

 債券相場は利回り計算で動くものですから、より利回りの高い債券へ乗り換えようとする投資行動は横へ連鎖して、雪崩現象となっていきます。それは債券価格の次から次への下落、すなわち債券利回りの急騰を引き起こすからです。債券価格の下落と債券利回りの急騰。そう、債券価格とその利回りは、いつも反比例します。債券の売りが相次ぎ価格が下落すると、債券利回りは反比例して上昇し始めます。ひとたびこの連鎖がはじまると、債券保有者は一刻も早く手持ちの低利回り債を売って、より高利回り債券に乗り換えようとしだします。乗り換えの債券売りが、債券利回りを上昇させ、債券利回りの上昇が、次の債券売りを誘います。この悪循環が債券市場でハッと広がっていくのです。一度この動きがはじまると、もう誰にも止められません。なにしろ、保有している債券を売るのは投資家の自由なのだから、より儲かる方へ資金を向けるのは当然の行動です。

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 このような市場での債券売りによる債券利回りの上昇を、市場金利の上昇あるいは長期金利の上昇といいます。つまり、市場での取引金利の上昇であり、いくら政府当局が低金利政策を維持しようとしても、あっという間に蹴散らされます。長期金利が上昇に転じるや、債券市場は総崩れとなります。いま保有している低利回りの債券を売って、より高利回りの債券に乗り換えようとする動きが、投資家の間で一斉に出ます。そうなると、もう止めようがありません。一度、債券市場が崩れ出すと、長期金利の上昇が、さらなる債券売りを呼びます。それが、さらにまた長期金利を押し上げます。その悪循環はどんどん加速して行きます。そして、債券市場は一直線に下落していくことになります。

 澤上氏の予想するハイパーインフレは、日本が積み重ねてきた借金の大きさが原因になると言っています。すなわち、金利が少しでも上がれば、膨大な借金を維持するために大きなコストがかかり、これが国の破綻につながると考えています。皆さんはどう思われますか。



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