インフレについて考える(その4)…浅井隆が予想する日本破綻の様相

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 前回紹介しました澤上篤人氏は、日本がハイパーインフレに至る過程を詳細に示してくれました。今回紹介する浅井隆氏は、日本がハイパーインフレを経て破綻した時にどの様な混乱がおこるかを予想されています。さすがにこれは起こらないだろうと思いますが、可能性として十分あり得ると考えて、我々も心構えはしておくべきです。

 なお浅井氏は経済ジャーナリストで、2018年10月に「この国は95%の確率で破綻する」という著書を発行されています。今回の内容はその著書から引用しています。

浅井隆氏の「政府と家計を襲うハイパーインフレ」

 昔から世界のまともな経済学者や財政学者の間では次のようなことが言われてきました。「政府の借金はGDP比で60%以内であれば安全、90%は危険水準、200%は頭がおかしい程のレベル」というものです。現在の240%というのがいかに異常なものであるかがよく理解できます。

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 実際、上図を見るとそのことが良く分かります。1905年終結の日露戦争のところを見ると、GDPの60~70%のところで当時の日本のトップたちは講話に持ち込んで戦争を止めています。また太平洋戦争の前後を見ますと、太平洋戦争に突入した昭和16年(1941年)でも政府の借金は80~90%程度であり、その後、太平洋戦争末期の昭和19年(1944年)に204%に達しており、2年後の昭和21年にある意味徳政令のような政策を断行しています。

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 国が破綻すると、ハイパーインフレが引き起こされます。ハイパーインフレは、通常のインフレとは性質がまるで違います。通常のインフレは好況下で起きる、いわば良性のインフレです。それに対してハイパーインフレは悪性インフレであり、極端な物価の高騰が家計に大きな打撃を与えます。ハイパーインフレが長期化すると、多くの物価は想像を絶する上昇を見せます。仮に年率100%のインフレが発生すれば、物価は1年で2倍になります。そのインフレ率が続けば、物価は2年後に4倍、3年後に8倍という具合に上昇し、5年後に32倍、10年後には1024倍になります。100万円の軽自動車が10年で10億円に値上がりする状況です。「理屈はわかるが、ちょっと大げさなんじゃないの」と思われるかもしれませんが、無理もありません。このような物価上昇は非常識的なものであり、非現実的なものと考えるのが普通だと思われます。

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 ところが、ひどいインフレになるとこの程度では済みません。歴史を振り返ると、年率数千%、数万%というすさまじいハイパーインフレが何度も発生しています。しかも、それははるか遠い昔の出来事に限りません。2018年6月、年率1万%のハイパーインフレに見舞われている国が実際にあります。その国はベネズエラです。年率1万%のハイパーインフレとは、たったの1年で物価が100倍に暴騰することを意味します。もはや家計は成り立たず、多くの人々の生活は完全に破壊されます。

 インフレと連動し、通貨価値も下落します。日本で言えば、円安が進行するわけです。ハイパーインフレともなれば、通常では考えられない極端な為替レートになるはずです。インフレ率100%なら1年後に物価が2倍になり、逆に通貨価値は半分になるわけですから、1ドル=100円だった為替は1ドル=200円になります。インフレ率1万%ともなれば、1年後には物価は100倍、為替は1ドル=1万円になります。もちろん為替の決定要因はいくつもあり、物価に完全に連動するわけではありませんが、極端なインフレは極端な為替レートをもたらすことは間違いありません。

 国家破産により、政府の信用は失墜し、国債も暴落します。国債は政府の借金の借用証書ですので、破産となれば、借金がきちんと返済されない可能性が高まります。実際、破産した国の国債はデフォルト(債務不履行)になるところが多くなります。債務不履行になると債務の支払いは減免されますが、当然、国債価格は大きく下落します。国家破産により、国債は政府が支払いを保証する極めて安全な金融商品から、極めて危険な金融商品へと一変するのです。

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 そうなると、国債を保有している投資家は大きな損失を被ることになります。現在、日本国債をもっとも多く保有しているのは日銀です。かつては銀行や保険会社など民間金融機関が最大の保有者だったのですが、2017年に逆転しました。財務省が発表した「国債等の保有者別内訳(平成30年3月末)によりますと、995兆6806億円の国債の内、銀行などが19.0%、生損保などが20.6%と民間金融機関の合計が39.6%なのに対して、日銀が43.9%となっています。

 このような状況で、国債が暴落したらどうなるのでしょうか?日銀は国債という大量の不良資産を抱かえることになり、日銀の資産は劣化します。その結果、日銀の信用力は低下し、これは大変な事態を引き起こします。私たちが使用するお札、つまり元々単なる紙切れである日銀券に1万円や5000円といった価値を持たせているのは、日銀という中央銀行の信用に他なりません。中央銀行の信用が失われれば、紙幣は文字通り紙切れになりかねないわけです。紙切れとまでいかなくても、紙幣の価値が大きく低下する可能性があり、それは、大幅なインフレ、円安を引き起こします。

 国債暴落により、金利はもちろん急騰します。金利上昇もまた債務者を苦しめますので、借り入れの多い企業は利払いの急増に苦しみ、業績が悪化、破綻に至る企業も増加します。住宅ローンの返済に行き詰まる個人が急増し、身の丈を超えたローンを組んだ人はあっという間に破産に追い込まれることになります。

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 保有額は減っているとはいえ、銀行や生損保などの民間金融機関も大量の国債を保有しています。国債が暴落すれば、これらの金融機関の資産も劣化し、経営を圧迫しますので、破綻する金融機関も少なくないはずです。多くの金融機関が融資を行う余裕を失い、貸し渋りや貸し剥がしが横行します。それがさらに、民間企業の倒産や個人の自己破産を増加させます。おそらく、90年代後半の大手金融機関がバタバタ潰れた状況よりもはるかに厳しい、極めて深刻な金融危機に見舞われることが予想されます。




国民にとってはもっとも恐ろしい政策の1つ「徳政令」について

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 徳政令とは、債権・債務の契約を破棄することです。前述の国債のデフォルトもまさに徳政令です。国債がデフォルトすれば、投資資金(国に貸したお金)の回収は非常に困難になります。

 預金封鎖も徳政令の一種と言えます。ある日突然、預金の引き出しや海外送金に制限がかけられます。預金の引き出しに制限をかけることで、個人金融資産を把握し、その資産に対して財産税を掛けます。預金が封鎖されている間に、ハイパーインフレにより資産価値が大幅に下落することもあります。

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 日本でも、戦後間もない1946年(昭和21年)に預金封鎖が行われました。当時の日本は戦時中の巨額の軍事支出により通貨供給が著しく増加する一方、生活必需品は極端に不足していたため、ハイパーインフレに陥っていました。政府は、インフレ対策の名目で預金封鎖を断行しました。

 預金封鎖と同時に、新円切換が行われました。1人当たり100円に限り旧円と新円の切換が許され、それ以外の旧円は強制的に預金させられました。封鎖された預金から引き出しが許されたのは、1ケ月当たり世帯主が300円でそれ以外の家族は100円だけでした。こうして銀行預金に加えタンス預金までもが封鎖の対象になり、これに財産税がかけられました。当時の財産税は資産の額が多いほど税率が上がる超過累進課税になっており、最高税率はなんと90%でした。預金封鎖は約2年半続き、その間の激しいインフレにより封鎖が解除された時には預金の価値は大幅に目減りしました。その結果、多くの資産家が財産を失いました。一方、政府の方は財産税導入によって巨額の税収を確保でき、ハイパーインフレにより実質的な債務負担が大きく軽減されました。

 国民にとって預金封鎖ほど恐ろしいものはありません。自分のお金であるにも関わらず使うことが許されず、財産が蝕まれて行くのです。ひとたび預金封鎖に巻き込まれれば、もはや財産を守ることはできません。預金者は、手足を縛られたも同然で、何もすることができないからです。

 しかし、財政危機に陥った国であっても、預金封鎖はそう簡単には行われません。副作用があまりにも大きいからです。預金封鎖を行なえば、財産税の課税による税増収やインフレによる債務負担の軽減が期待できます。しかし、その一方で日本国の信用は失墜し、市場では「日本売り」の嵐が吹き荒れ、日本円、日本国債、日本株は暴落するに違いありません。金利の急騰や株の暴落は民間経済に大打撃を与え、当然、税収も大きく落ち込みます。国債発行により財源を確保しなければならないのに、もはや破綻国家の国債など誰も買ってくれなくなります。預金封鎖は政府にとっても諸刃の剣(もろはのつるぎ)であり、その実施は日本国の息の根を止めかねないのです。そのため、預金封鎖は国家破産の末期に実施されることが多いのです。ハイパーインフレの嵐が吹き荒れる大混乱の最中、もはや打つ手がなくなり預金封鎖の実施に追い込まれるのです。

 今回は、浅井隆氏が予想する日本国破綻の後にどの様な結果が待ち受けているかについて紹介しましたが、皆さんはどう思われますか。



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