インフレについて考える(その11)…インフレ時の資産運用の基本的考え方

 インフレは利上げとの絡みで、また利上げは景気との絡みで目がはなせません。景気が良くなれば、株式は上昇し、景気が悪くなれば株式は下落します。また、インフレが長引くのか、一時的なものかは、不動産や金商品との絡みで重要になってきます。長引くようであれば、不動産や金商品を考えなくてはなりません。

 今回のインフレの要因は2つあります。1つは2020年1月に始まったコロナ禍での供給制約や経済の再開に伴う需要増加による原材料価格の上昇が挙げられます。さらに、2022年2月に入ってからのロシアのウクライナ侵攻の緊迫化に伴い、ロシアが主要輸出国となっている原油や天然ガス、小麦をはじめとする穀物などの商品価格が上昇し、燃料や原材料価格が上昇していることです。世界主要50ケ国の消費者物価の上昇率は2022年3月、27年ぶりに7%を突破しました。物価高騰が家計を直撃し、各国政府はインフレとの戦いを強いられています。

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インフレの先行きをどう見るのか

 今回のインフレ要因の1つであるコロナ禍の問題はようやく最終段階に入ろうとしています。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーの需要の高まりと相俟って、世界経済は今後10年間、コロナ禍の反動と金融・財政政策の効果から、潜在成長率をやや上回る成長が続くと考えられます。世界の中央銀行はこれまで低成長率によるデフレに悩まされて有効な手を打てない状態だったため、インフレ率が高まってもわざわざ冷や水をかけるような厳しい姿勢で臨まないだろうという思惑が働いています。ニューヨークでは人々のイベントなどに戻りつつあります。

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 もう1つの要因であるロシアのウクライナ侵攻ですが、侵攻から10ケ月がたちました。紛争は長期化する様相を呈しており、短期間で収まりそうにありません。ウクライナもロシアも妥協の用意があるとは思えません。停戦すればロシアが再武装し戦況を立て直す機会になりますので、停戦が望ましいとも思えません。ロシアは核兵器を使わないと思われます。使用すれば米国、北大西洋条約気候(NATO)が直接介入する可能性が高いからです。ウクライナに勝てないロシアが、米国、NATOに勝てるはずがありません。通常兵器による戦争継続が最もあり得るシナリオです。従ってインフレは長期を覚悟する必要がありそうです。

 また、ロシアによるウクライナ侵攻で、長期的なサステナビリティ(持続可能性)の優先順位が変わっているという証拠は何もありません。長期的に見てESGに十分配慮した企業行動をとっているかはますます重視されています。株主だけでなく従業員や顧客、地域社会など全てのステークホルダー(利害関係者)に配慮している企業は価値があり、投資家に選ばれています。ロシアの侵攻に伴い、多くの西欧企業が制裁対象でなくても自主的にロシア事業から撤退しました。ステークホルダー資本主義によって企業が正しいと思う行動をとるのが重要だと示されました。

 脱炭素化の推進はエネルギー安全保障の強化につながります。欧州連合(EU)を見ても他国の化石燃料に依存することが、安全保障上いかに問題かというのが明らかになりました。ロシアのウクライナ侵攻でガソリンや天然ガス、石炭の価格が上がれば、中期的には相対的に割安になったクリーンエネルギーの拡大を加速させる材料になります。

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 従って、米連邦準備理事会(FRB)は今後2~3年で政策金利を2%程度まで引き上げるという穏当なペースとなると予想されます。今後10年の年平均のインフレ率は米国が2.3%、欧州は1.5%、日本は0.7%と予想されています。穏やかなインフレを前提に運用すべきだろうと言う見解が多いと言えます。

どのような資産に投資すべきでしょうか

 インフレ時には不動産やインフラといった、伝統的な株式や債券ではない代替(オルタナティブ)資産に投資するのが良いと言われます。これら代替資産には。インフレ耐性があることに加えて、コロナ禍からの回復局面でも株式ほど価格が急騰しません。低流動性というリスクを負いますが、まだ割安感がありますし、債券よりも安定的で高い利回りも確保できます。また、インフレで価格上昇しやすい金などのコモディティーも有効です。

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インフレ下の株式をどう見るか

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 インフレになると中央銀行はインフレを抑制するために利上げをします。すると融資を頼りにしている高成長企業には当然借入金の利払いコストがのしかかり、設備投資が抑制されて大きな成長が望めなくなります。従って、インフレ時にはグロース市場は低迷することになります。


インフレ下の債券はどう見るか

 中央銀行によるインフレ抑制のための利上げにより、国債の価格は大きく下落します。高インフレ下では国債は負け組になります。利回りの獲得のみを目的とするなら投資を控えるべきです。多くの国債の利回りがインフレ率を下回り、実質リターンのマイナスが続いている状況です。社債はまだ投資妙味がありますが、期待リターンは引き続き低水準です。

 英国では低金利を前提にリスクが潜む運用に傾斜した年金基金が、国債価格の急落で金利スワップの評価損が膨らんだうえに国債など担保価値も目減りし、取引相手方の金融機関にマージンコール(追加担保の差し入れ要求)を突き付けられました。年金は追加担保のために国債売却を余儀なくされました。低金利下でたまったひずみが歴史的なインフレであぶり出された格好です。超低金利が続く日本にも危機の芽が潜んでいる可能性があります。この「最終利回り」は、「長期金利」とも呼ばれます。国債価格が上昇すると「最終利回り」下がり、「長期金利」も下がります。また、国債価格が下落すると「最終利回り」は上昇し、「長期金利」も上昇します。このことが、債券では重要です。

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通貨についての見通しはどうか

 米国は多額の財政赤字を抱かえています。金融政策の正常化を進めても他の国も追いついて来ます。このことから、米ドルは現時点で割高になっていますが、徐々にドル安が進むと考えられます。今後、日本円、ユーロ、人民元、スイスフランなどが高くなり、地域的な通貨価値のばらつきが縮まっていくと考えられます。

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 世界の金利上昇の潮流から日本が取り残されています。インフレ抑制で欧米が金融引き締めに動き、資本流出を恐れた世界の新興国も追随しています。欧州は金融緩和時代の象徴だったマイナス金利から脱却してきました。一方、日銀は大規模緩和を維持しようと金利を抑えいますが、海外との差が円安を招くジレンマに陥っています。

金商品相場

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 米連邦準備理事会(FRB)による利上げは、金利の付かない金に投資する際の機会損失が増えることを意味し、金価格低下の要因となります。しかし、一方で各国の中央銀行の金の買い増しはスローダウンの兆しが見えますが、依然として調達の方が多くなっています。このことから、金は1800ドル付近でもみあう展開になっています。

 消費者の金の購入が価格を支えています。消費者の需要は景気浮揚の時期になるほど伸びます。今年は世界的に増加し、新型コロナウィルス危機の前に近いレベルまで回復しています。最大消費国の中国では、「ヘリテージゴールド」(伝統的な加工が施された宝飾品)の需要が顕著です。特に若者からの人気が高く、投資への関心も高まり、金の上場投資信託(ETF)への流入が増えています。金取引のプラットフォームの整備も進んでいます。

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 利上げを想定した場合の金相場への下落圧力はあくまで短期的な動きです。中長期的にはインフレが価格上昇の最も大きなドライバーになります。インフレ傾向が今後も続く場合、機関投資家の金保有に対する関心も高くなると予想されます。過去にインフレが起きたときの金投資の利益率は、例えば米国の消費者物価指数の上昇率が3%だった場合は年間で15%でした。

 エネルギー価格などの上昇で、景気停滞と物価上昇が併存するスタグフレーションの懸念も指摘されています。スタグフレーションは株式市場にとってマイナスである一方、金は買われやすいと言えます。ボラティリティ(変動率)が高い時期は、富の保全という観点から投資家が金に高い関心を持ちます。価値が目減りしにくい安全資産を確保する意味で、金が選ばれやすくなります。

 米国では、今回のインフレは物価高が連鎖的に賃金を押し上げ、サービス価格の値上げが続き、1980年代以来の「粘着インフレ」との指摘があります。どうも長期戦を覚悟しなければならないようですが、皆さんどう思われますか。



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