金利操作テクニック(その5)…米国政策金利の動向予測

楽観的な予測と悲観的な予測

 2023年の世界経済は、米国でくすぶるインフレと景気後退への懸念がきっかけに、同時不況に入るかどうかが焦点となります。利上げを続けてきた米連邦準備理事会(FRB)は危機リスクを抑え込みながら難しい舵取りを迫られています。FRB副議長を務めたアラン・ブラインダー氏と、ハーバード大教授のカーメン・ラインハート氏に米金融政策の展望を聞いた記事が、2023年1月12日日経新聞に掲載されました。悲観論と楽観論が対比して紹介されており有意義な内容でしたので紹介します。

元FRB副議長アラン・ブラインダー氏(楽観論者)

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 米連邦公開市場委員会(FOMC)は米国の2023年の経済成長率を0.5%とし、景気後退を回避できるとみています。景気の軟着陸(ソフトランディング)の可能性は5割以下だと思いますが、1~2ケ月前より可能性が高くなっています。仮に景気後退になったとしても穏やかなものになる理由がいくつも見受けられます。

 利上げの到達点はFOMC参加者より少し低く、4.75~5.0%あたりと予想してます。インフレ率の上昇についても、かなり楽観的に見ています。理由として景気の減速により供給網(サプライチェーン)のボトルネックは劇的に解消していることが挙げられます。

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 2023年にFRBが利下げに転じる可能性については、はほぼゼロと見ています。2023年に深刻な景気後退に陥るなら政策金利を引き下げるでしょうが、ただ不況にならないか、非常に小さな景気後退なら、そんなに早く利下げはしないと考えられます。

 海外のリスクですが、欧州は深刻な景気後退に陥る可能性があります。米経済の大きな輸出先である日本は、超短期金利操作(イールド・カーブ・コントロール)を放棄したらどうなるのか、これもFOMC参加者なら考慮すべきリストに入れるべきです。日銀は日本経済を支え続けることをためらってはいけません。日本のインフレ率は世界のほとんどすべての地域より低いわけですから、短期間であれば2%のインフレ率が3%になったとしても破壊的な出来事にはなり得ません。これからは日本の輸出先の海外経済が減速し、いくつかは景気後退に陥ります。それは日本の輸出に影響を与えると考えます。

 もし米議会が物価目標の引き下げを強く要求したら、FRBは抵抗できるかについては、答えはイエスです。単に抵抗するのではなく、法制化させない十分な数の議員を説得するということです。米国では政治がインフレ目標を決め、中央銀行にそれを追求させる自由を与えるべきでしたが、これまで米議会にはその意欲がありませんでした。そこで、仕方なくFRBが空白を埋めるために2%目標を作った経緯があります。議会が連邦準備法を改正して別の目標を作ればFRBはそれを追求する義務がありますが、議会がそんなことをするかどうかは疑わしいと考えられます。

ハーバード大教授、カーメン・ラインハート氏(悲観論者)

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 世界同時不況が来る可能性は非常に高いと考えています。欧州は非常に厳しい状況にあり、米国はまだ金融引き締めの効果が十分に現れていません。過去の金融引き締め期で経済の軟着陸(ソフトランディング)が実現できたケースはほとんどありません。

 米国では家計や企業が健全なので、景気後退は深刻ではないという専門家もいますが、リスクを過小評価するのはあまりいい考えではないと思います。急速に引き締めた金融財政政策を修正する必要がありますが、そこには過去にはなかったようなリスクが潜んでいます。ソフトランディングは可能だという考えは、「今回は違う(大丈夫)」症候群に陥っている証拠です。

 企業や家計のバランスシートはリーマン危機時より健全ですが、前回高インフレ時に金融引き締めで景気後退に陥った1981~82年よりはるかに悪いと言えます。家計の負債は1980年代前半のほぼ2倍となっています。市場は早く金融緩和に転じると希望的観測に浸っているように思えます。これまでの引き締めが十分かというと答えはノーです。その証拠にパウエル議長はFRBが労働市場を冷やすのは難しいと明確に示しています。そのためより長く引き締めなければならないという感触を持っています。

 新型コロナウィルス禍の前は実質的なマイナス金利が続きました。実質金利のマイナスが続けば公的債務のさらなる増加につながる現実的なリスクがあります。実質金利のマイナス下では企業のレバレッジも上昇しました。負債の規模が大きくなると、中銀は金融の安定性を懸念して引き締めを行うことがより難しくなります。本来あるべき水準より金利を低く保とうとしますと、結果的に中銀は独立性を失いインフレと闘う能力を失ってしまうのではないかと思います。これは本当に心配なことです。

 直近の大きな出来事との類推でこれから起きることを考えてしまうのは非常に間違いです。次に来る問題は前の問題と同じにはなりません。金融システムには規制が強化された中核的な部分の外にも多くのリスクが存在します。ロシアの戦争や中国の内向きの政策など地政学的な緊張も続いています。高インフレで政策対応が難しいというリスクもあります。2023年はあらゆる種類のリスクが顕在化してくると見なせます。

FRB米政策金利を0.25%に縮小する新たな動き

 歴史的なインフレに対応する米連邦準備理事会(FRB)の利上げが、停止期間を探る局面に入りました。2023年2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は利上げ幅を前回の0.5%から0.25%に縮小しました。記者会見したパウエル議長は「インフレ鈍化のプロセスが始まった」と物価高の勢いが落ちてきたことを認めました。市場では年内利下げ観測が広がりますが、FRBは楽観論をけん制しており溝は大きいようです。

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 2022年3月以来8会合連続の利上げで、政策金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利はリーマン・ショック前の2007年10月以来の4.5~4.75%となりました。2022年12月の前回会合でFOMC参加者が見通した到達点の中央値は5.1%。0.25%ずつ利上げを続ければ次々回の5月会合で最後となる予定です。

 FOMCは声明文で「継続的な利上げが適切」との従来表現を残し、市場で浮上していた次回の3月会合での打ち止め観測をけん制しました。パウエル氏は「十分な引き締め的な水準にするには、あと2回ほどの利上げが必要だ」と説明しました。


 SMBC日興証券が世界84の中銀の政策金利を加重平均したところ、2022年末は5.24%と2008年9月以来の高水準でした。新型コロナウィルス下のサプライチェーン(供給網)の混乱などを起点とした世界同時利上げは一定水準に達し、利上げ効果を見極める段階に差し掛かかりつつあります。

 FRBが物価目標として重視する米個人消費支出(PCE)物価指数は2022年12月で前年同月日5.0%上昇となり、3ケ月連続で鈍りました。一方で失業率は12月も3.5%と低いままです。景気後退を避けながら2%の物価目標に到達するFRBの軟着陸シナリオはこれまでのところ順調といえます。パウエル氏は「労働市場に打撃を与えることなく物価鈍化の兆しが出てきたことは良いこと」と述べました。

 先行きについては「勝利宣言や勝負がついたとするシグナルを送ることには慎重になる」と語っています。当面は新たな経済見通しを示す3月会合に向け、経済や物価の動向を慎重に見極める考えも改めて強調しました。インフレが早期に沈静化し、引き締めが想定ほど厳しくならないとみる市場の楽観論を警戒したかたちです。

 「会見中に「ディスインフレ(インフレ鈍化)」に10回も言及しました。市場は継続利上げを示唆した声明文よりも、ディスインフレのピーク越えをあっさりと認めたパウエル氏の変化に反応しました。「3月の利上げを最後に一時停止する可能性が想定より高まった」との声もありました。

 年内利下げを市場が織り込んで金利が下がれば、引き締め効果がそがれる懸念が出てきます。「歴史は金融緩和への転換を早まらないよう戒めている」。パウエル氏は決まり文句を繰り返し、高インフレの長期化を招いた1970年代の再来はないとする決意を強調しました。

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 最近の日本の株式の変動は米国の株式変動にべったりになっているように思えます。したがって、2023年は米国がインフレに対し、うまくソフトランディングできるかどうかにかかっています。本当に目が離せませんが、皆さんはどう思われますか。



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