金利操作テクニック(その7)…日銀の異次元金融緩和とアベノミクス

 2012年末に発足した第二次安倍政権は、「三本の矢」と呼ばれる三つの基本政策を掲げました。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略です。金融政策と財政政策は需要喚起策です。これにより景気は回復し、その回復が続いてバブル崩壊後の長期低迷から抜け出せるかもしれないとの期待を持たせました。

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大胆な金融政策(緩和)でデフレ脱却を目指す

 アベノミクス以前から金利はゼロでしたし、異例の大規模金融緩和も行われていました。しかし、安倍首相は、従来の金融緩和では不十分だとして、より大胆な金融緩和を打ち出したのです。そこで黒田日銀総裁は、消費者物価上昇率2%の目標を2年で実現するため、マネタリーベースを2年間で2倍にする政策に踏み切りました。巨額の国債を銀行から購入することで、日銀から銀行に出て行く資金の量を猛烈に増やそう、という政策です。

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 結果としては、物価はアベノミクス開始後4年半が経過してもほとんど上昇せず、目標の2%に達する目処も立っていませんでした。しかし、金融緩和のおかげでドルや株が値上がりし、景気の回復に寄与したのですから、金融政策に効果があったことは間違いありません。

機動的な財政政策(公共投資増額)は、当初は効果を発揮

 アベノミクスにより公共投資が増額され、景気の回復に寄与しました。公共投資増額の結果、財政赤字が増加することが懸念されましたが、景気回復にともなう税増収などにより、財政収支は改善しました。ここまではよかったのですが、ほどなく建設労働者が不足するようになり、公共投資の増額が景気刺激効果を発揮できなくなってしまいました。

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成長戦略は、供給側の強化を狙ったものだが力不足

 第一の矢、第二の矢が、需要を増やそうという景気対策であるのと対照的に、第三の矢は、供給側を強化しようというものです。経済が成長していくためには、需要と供給がバランスよく伸びていく必要があるので、両方の政策が盛り込まれていることは、意義深いものがありました。

 しかし、金融政策、財政政策が太い柱である一方、成長戦略は数多くの施策の寄せ集めで、全体として供給側を強化しようというものでした。「矢ではなく、千本の針である」と言う人もいるほどです。たとえば、「保育園をつくれば、子育て中の女性が働きに出ることができるようになり、労働力不足が緩和されて日本経済の生産力が増える」といったものが多数あるのです。もっとも専門家たちの見解は、「いずれも力不足で、全部合わせても、それほどの効果は見込まれない」ということのようでした。一方、規制緩和の方は、規制によって利益を受けている人々の抵抗が強いため、なかなか容易ではありませんでした。

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労働力不足なのに賃金が上がらず

 景気の回復で、労働力不足になりました。これは、少子高齢化で長い期間をかけて少しずつ現役世代の人口が減少していることに気づかなかった人々を驚かせました。それは経済成長率がそれほど高くないのに、長期にわたる失業問題が一気に解決しましたが、代わりに労働力が不足する時代になったからです。

 現役世代人口が減ってきたことに加え、高齢化により医療や介護といった労働集約的な産業が伸びたこと、デフレからの脱却で企業が値下げ競争からサービス競争に舵を切り、それが多くの労働力を必要としたこと、なども影響していると思われます。

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 労働力不足になったことから、賃金の上昇が期待されましたが、これは期待外れでした。非正規労働者の時給は上昇していますが、正社員の給料は上がっていないのです。これは「正社員は終身雇用と年功序列なので、賃上げをしなくても辞めないだろう」という会社側の読みだと思われます。実際、年功序列で今後の給料増が見込まれる人が転職することは少ないと考えられます。

 もっとも、労働者の状況が改善していることは間違いありません。最も恵まれない失業者が仕事にありつき、高齢者や主婦などで職探しを諦めていた人さえも仕事が見つかり、非正規労働者として生計をたてている「ワーキング・プア」と呼ばれる人々の待遇が多少はまともになり、ブラック企業の社員も転職先が見つかりやすくなりました。これは、アベノミクスの最大の成果です。

 2012年12月に第2次安倍内閣が発足し、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を3本の矢と称した一連の経済対策「アベノミクス」を開始して以来10年が経過しました。当初はバブル崩壊後の長期低迷から抜け出せるかもしれないとの期待を持たせましたが、結果は色々なひずみが生じているように思えますが、皆さんはどう思われますか。



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