未来技術予測(その1)…新技術で予測超える未来

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 2019年にノーベル化学賞を受賞した技術研究組合リチウムイオン電池材料評価センター理事長吉野彰博士の「新技術で予測超える未来」と題した記事が2021.10.31の日経新聞に掲載されましたので紹介します。



環境革命への期待

 国連が持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ、国際社会は地球環境の保全や格差のない社会の実現へと歩みを強めています。目標達成へカギを握るのは「環境革命」を起こせるかどうかです。今まさにその準備期間にあり、2025年ごろから環境革命の成果が表れ始めると見られています。

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 IT(情報技術)革命の始まりは1995年でした。パソコンの基本ソフト「ウィンドウズ95」が発売され、リチウムイオン電池が携帯端末向けに普及し始めました。吉野博士が新型2次電池の研究を始めたのは1981年。およそ15年の準備期間をへてIT革命が花開きました。

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 環境革命はいつから準備期間に入ったのでしょうか。2010年だったとみています。ひとつの根拠は「サスティナブル」という言葉です。国際標準化機構(ISO)がこの年、「現在の世代だけでなく将来世代も1人ひとりが豊かな暮らしを築けること」と定義し、多くの人が口にするようになりました。

 日本の自動車メーカー2社が量産車としては世界初の電気自動車(EV)を市販したのも2010年でした。EVは急速に普及しつつあり、2025年ごろには車の主役になるでしょう。

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 環境革命によって社会はどのように変わるのでしょうか。イノベーションの特徴は予測不可能なことが非連続に起きることです。リチウムイオン電池がモバイル社会を導くとは当初想像できなかったように、未来は現在の延長線上では予測できません。温暖化対策や食糧問題などでは常識を覆す新技術が登場すると考えられます。

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 国立研究開発法人の産業技術総合研究所(産総研)に「ゼロエミッション国際共同研究センター」が2020年に創設され、私・吉野がセンター長に就きました。センターは温暖化ガスの排出ゼロに向け次世代の太陽電池や人工光合成、合成燃料などの研究に取り組んでいます。


 ここで進めている興味深い研究をひとつ紹介します。二酸化炭素(CO2)を吸着する鉱物の話です。産総研の歴史は1882年創設の農商務省地質調査所に始まります。その伝統を受け継ぐ地質グループから、CO2を効率よく吸収する鉱物が日本国内に無尽蔵に存在し、温暖化対策に活用できると提案がありました。これぞ産総研の伝統の底力か、と驚きました。

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 2021年のノーベル物理学賞は大気中のCO2濃度が気候に与える影響を数値で解明した真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員らに贈られます。日本生まれの研究者の受賞は喜ばしいことです。脱炭素の技術でも成果が続くことを期待したいものです。

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 電池の未来はどうでしょうか。私・吉野は10年から大阪府池田市に本部がある技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)の理事長も務めています。ここには電池や電池材料、自動車メーカーが参加し、電池の材料の性能評価に使う「標準電池」モデルや手順書・基準書が10種以上もできました。研究開発を効率化でき、ここから多くの新型電池が誕生しつつあります。

 環境革命の成果が現れ始める2025年はちょうど大阪万博の年です。1970年、故郷で開かれた大阪万博は、研究者の道を歩み始めたばかりの私に夢と希望を与えてくれました。それから半世紀以上がすぎ、次の万博はどのようなメッセージを発信するのでしょうか。新型コロナウィルス感染症の教訓も受け止めて、そこから環境の世紀を担っていく若者たちが育って欲しいと思います。

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 気候変動、新型コロナウィルスの感染拡大、サイバー攻撃、半導体不足、デジタルトランスフォーメーション(DX)による技術革新 ---。あらゆる業界の産業行動が抜本的に変わりつつあります。しかし、それ以上に、企業経営の前提となる競争のルールが大きく変わるゲームチェンジが起きていることに留意が必要だと思いますが、皆さんはどう思われますか。



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