未来を担う技術革新(その2)…カーボンニュートラルを柱としたグリーン成長戦略

グリーン成長戦略の策定

 2020年に菅政権が日本の目標として掲げた「2050年カーボンニュートラル」を達成するためにグリーン成長戦略が作成されました。今後、産業として成長が期待され、なおかつ温室効果ガスの排出を削減する観点からも取り組みが不可欠と考えられる分野として、14の重要分野を設定しています。

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 温暖化対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的に成長の機会と捉える時代に入りました。積極的な対策を行なうことが産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながります。「経済と環境の好循環」をつくる産業政策がグリーン成長戦略です。

 実行は並大抵の努力ではできません。ビジネスモデルや戦略を根本的に変える必要がある企業が数多く存在するからです。しかし、イノベーションを起こす企業の前向きな挑戦を政府は全力で応援すると宣言しました。成長が期待される産業14分野で高い目標を設定しています。

 電力部門の脱炭素化が大前提となっています。再生可能エネルギーは最大限導入し、洋上風力・蓄電池産業を成長分野にするという内容です。水素発電も選択肢として最大限追及しています。火力は必要最小限、使わざるを得ません。

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 原子力は可能な限り依存度を低減しつつ引き続き最大限活用されます。また、安全性に優れた次世代炉を開発するべきとしています。

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 電力部門以外は電化が中心です。戦略により2030年で年額90兆円、2050年で年額190兆円程度の経済効果が見込まれています。

2050年カーボンニュートラルの実現

 電力需要は産業・運輸・家庭部門の電化で現状より30~50%増加(約1.3兆~1.5兆キロワット時)します。全電力需要を100%再生エネで賄うことは困難と考えるのが現実的です。多様な専門家の意見を踏まえ、2050年には発電量の約50~60%を再生エネで賄うことを参考値とします。水素・アンモニア発電10%程度、原子力・二酸化炭素(CO2)回収前提の火力発電30~40%程度を議論を深める参考値としています。

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グリーン戦略の枠組み

(1) 企業の現預金240兆円を投資に向かわせるため、意欲的な目標を設定しています。
(2) 新エネルギー産業技術開発機構(NEDO)に10年で2兆円の基金を造成します。民間の研究開発・設備投資を誘発(15兆円)し、野心的なイノベーションを促します。世界のESG資金3千兆円も呼び込み、日本の将来の食い扶持(所得・雇用)の創出につなげるとしています。

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(3) 大胆な税制改革で企業の脱炭素化投資を後押しし、10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を見込みます。バリ協定実現には世界で最大8千兆円必要との試算もあります。
(4) 市場メカニズムを使う経済的手法(カーボンプライシングなど)に躊躇なく取り組むべきです。政府が上限を決める排出量取引は排出量の割り当て方法などが課題です。炭素税は専門的・技術的な議論が必要です。温暖化対策に消極的な国との貿易は、国際的な公平性を図るべく諸外国と連携するべきです。

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成長期待高い14分野の支援

 政府は2020年12月25日、2050年の温暖化ガス排出ゼロに向けた実行計画「グリーン成長戦略」をまとめました。脱炭素化を進める企業の技術革新を後押しし、環境と経済の好循環を狙います。特に成長を期待するとした14分野の支援方法や現在の課題を探ります。

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(1) 洋上風力発電…40年に最大4500万キロワット

 四方を海に囲まれた日本は洋上風力の潜在力が大きいと言えます。政府は今回、2030年までに1000万キロワット、40年までに3000万~4500万キロワットの導入目標を掲げました。一足飛びの拡大を見込んでいます。風車は部品が数万点と多く、関連産業への波及効果は大きいと考えられます。経済効果を生むため、国内での供給網の構築を目指します。産業界は国内調達率を40年に60%にする目標を掲げました。普及の鍵となるコストは30~35年に1キロワツト時当たり8~9円と国際平均並みを目指します。風車のタービンメーカーは欧州や中国勢で9割を占め、部品は輸入に頼らざるを得ません。欧州と日本の間では輸入に50~60日程度かかります。三菱総総合研究所によると、1航海あたりの運賃は総額で約10億8千万円に上り、1キロワツトあたり2万7200円のコストが生じるといいます。

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(2) 水素…発電コスト、火力以下

 日本は2017年に他国に先駆けて水素戦略を策定した世界有数の水素先進国です。欧州や韓国も急ピッチで活用拡大を検討する中、政府は今回の戦略で水素を「キーテクノロジー」と位置付け、2050年に2000万トン程度とする新目標を掲げました。2030年時点は当初1,000万トン規模で検討していましたが、最終的に300万トンとしました。水素の場合、コスト引き下げが課題です。新戦略では導入量の拡大を通じ、発電コストをガス火力以下に低減する方針を明記しました。2050年には化石燃料に対して十分な競争力を持つ水準にするとしています。輸入時の輸送にかかるコストの引き下げや水素ステーションの設置促進で燃料電池車の拡大を狙います。

 水素発電の商用化も急務です。火力発電の燃料として水素を使い、燃料を燃やす際に排出する二酸化炭素(CO2)の排出を抑えます。政府は年間5,000万~10,000トンの需要を見込みます。日本では三菱パワーなどが手掛け、2018年には天然ガスと混ぜて水素を30%燃焼させるタービンを開発しました。

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 再生エネ発電から水素を生成する「グリーン水素」への期待も高いものがあります。太陽光や風力などの電力を水素電解装置につなぎ、水を水素と酸素に分離します。CO2を排出せずに水素を生成します。消費時だけでなく生産時のCO2排出を抑えられるため、より環境負荷が低いとされます。日本では東芝エネルギーシステムなどが福島県浪江町で世界最大級の水素電解装置を活用しています。

(3) カーボンリサイク…回収技術シェア3割へ

 温暖化ガスの排出を減らすため、二酸化炭素(CO2)を回収し、資源として再利用する技術に注目が集まっています。火力発電をある程度使う以上、CO2の排出は避けられず、それらを利活用しながら減らす取り組みも欠かせません。政府は日本に競争力がある分野と位置付け、技術開発の支援に力を入れます。将来有望とされるのは、CO2を地下に埋めたり再利用したりする「CCUS(CO2の回収・利用・貯留)」と呼ばれる技術です。国際エネルギー機関(IEA)は、2070年にCCUSにより世界で年間69億トンのCO2削減できると予測しています。

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 政府は回収技術の市場規模が50年に世界で年10兆円に拡大すると見込み、そのうち日本が3割のシェアをとる目標を掲げました。大気中から直接CO2を取り除く「ダイレクト・エア・キャプチャー」と呼ぶ技術も50年の実用化を目指します。すでに開発されている技術にも磨きをかけます。回収したCO2を吸収させて造るコンクリートは、公共調達の拡大などで価格を引き下げます。同じ様にCO2を吸収させて育てた藻類を使ったバイオ燃料も、CO2の吸収効率を高め、航空機への活用をしやすくするとしています。

(4) 住宅…30年に新築の排出ゼロへ

 温暖化ガス排出を減らすには、住宅や建築物のエネルギー消費削減も必要になります。国内の温暖化ガス排出量の15%は家庭からです。政府は新戦略で新築住宅の排出量を2030年にゼロとする目標を掲げました。エネルギー収支が実質ゼロの「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」をどこまで普及できるかがカギを握ります。

 ZEHは家庭で使う電力を太陽光発電などの再生可能エネルギーで賄い、温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする住宅です。発電した電気をためる蓄電池や断熱材などを生かし、最小限のエネルギーで暮らせる家をめざします。国内メーカーも導入に前向きです。積水ハウスは2019年度に手掛けた一戸建ての87%がZEHです。2020年度の8割目標を前倒しで達成しました。大京や穴吹工務店もZEHマンションの建設を進めています。ただコストは高くなっています。ZEHの初期費用は戸建ての場合、通常よりも200万~300万円ほどかさむといいます。日本は暖房費や除雪費などエネルギー消費量がかかる寒冷地での普及が進まない面もあります。

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 政府はこのほか、高性能建材のコスト低減や木造建築物の普及拡大、窓ガラスなどの性能評価制度の拡充などを新戦略に盛り込みました。エアコンの制御や充電を効率化するエネルギーの最適利用の仕組みを検討する必要があるとしています。建材・設備の開発を巡っては、ビルの壁面に設置できる次世代型太陽電池の実用化を急ぎ、導入を拡大するとしています。

(5) 原子力…依存減らし次世代炉

 原子力は依存度を下げて最大限活用するとした一方、次世代炉の開発に取り組む方針を明記しました。新戦略に位置付けた四世代炉は小型モジュール炉(SMR)と高温ガス炉(HTGR)、核融合の3つです。いずれも化石燃料を燃やさず二酸化炭素(CO2)排出量が少なくて済みます。

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 最も研究が進んでいるのはSMRです。現在主流の出力100万キロワット級の原発より小型の10万~30万キロワットを考えています。炉心が小さく事故時に冷却しやすいとされます。主要機器を工場で組み立てることでコストを削減します。運転効率は大型の原発より下がる可能性があります。新戦略では2020年代末の運転開始を目指します。海外の実証事業に日本企業の参画を促し、国際展開をはかる予定です。





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 HTGRは冷却材に水を使わず、高温のヘリウムガスを用います。事故時に水素爆発を起こす心配はありません。発電出力は30万キロワット程度ですが、発電しながら熱を利用し水から水素を作ることも可能です。日本は1998年に稼働したHTGRの研究炉(茨城県)で技術を培ってきました。2030年までに要素技術を開発し、2040年までの技術の実証を目指します。




 核融合は太陽内部で起こる核融合反応を地上で起こし、生じた熱で発電します。日本を含む国際協力のもと、核融合実験炉の建設がフランスで始まっており、30年代に核融合実験を始める計画です。必要な技術開発項目が多く、実用化は2050年以降の見通しです。

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 2050年脱炭素社会の実現に向けて、今回制定したグリーン戦略を基に、何とか日本において環境技術革新を起こしてもらいたいと願っている1人ですが、皆さんはどう思われますか。



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