未来を担う技術革新(その6)…米国における充電スタンド不足問題

 EV車は充電して走るクルマを指し、モーターで走行します。肝心の走行能力は、1回の充電で走行距離300km程度です。EV車では充電をどうするかが問題です。家庭で時間をかけてやる方法と充電ステーションで短時間でおこなう方法があります。

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 今EVの販売が好調な米国で「充電スタンド不足」が課題になりつつあります。EVを購入すれば、ドライバーはどこかで充電する必要が出てきます。つまり、最新の電動スポーツカーのような華やかさには欠ける「インフラ整備」という問題が生じてしまうのです。

 米国では現在、EV所有者のおよそ90%が自宅か職場で充電できています。しかし、気候変動対策の目標を達成するには、もっと多くの人にEVを購入してもらうことが極めて重要となってきます。米国の全住民の3分の1以上が集合住宅で暮らしていることを考えますと、個人が自宅に充電設備を設置することは難しいことになります。

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 米エネルギー省によると、国内に設置されているEV用公共充電スタンドは50,000カ所足らずです。これに対してある分析結果によりますと、州政府や連邦政府が掲げるガソリン車の新車販売禁止を35年までに実現するには、49万5,000カ所の充電スタンドが必要になるという試算が出ています。設置コストは、充電器1台あたり10万ドル(1,300万円)を超えることもあるようです。

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 充電スタンド不足解消のために米国政府は多額の資金を投じていますが、その注目度は低いようです。2021年には超党派のインフラ投資法案が、2022年夏には気候変動法案とも呼べるインフレ抑制法案が可決され、合わせて75億ドル(1兆円)もの資金が州間高速道路沿いにEV用充電スタンドを設置する目的で投じられる予定です。多額の税額控除も盛り込まれ、企業は独自の充電設備をより安く購入・設置できるようになります。これだけの措置を講じれば、今後5年間に公共充電スタンドを50万カ所に設置するには十分だとされます。

 まず、連邦政府は2023年中に、高速道路沿いにEVの充電スタンドを設置するための助成金15億ドル(2,000億円)を州政府に支給する計画です。農村部や低所得者層が住む地域に設置を希望する場合には、さらに25億ドルが上乗せされます。これだけの資金が投じられるにもかかわらず、充電スタンドという新たな大型インフラをいかにして素早く構築できるかは、いまだ不透明です。

 クルマ社会の米国であまり苦労せずにガソリン車からEVへ移行するには、公共充電スタンドの普及がどうしても必要になります。この切実なニーズと、連邦政府による多額の資金投入がうまくかみ合えば、EV充電整備計画は気候変動対策の過程でひとつの時代をつくりあげられるかもしれません。

 政府の介入がありがたいのは、現状の充電スタンドには規格の面でのばらつきがあるからです。すべてのEVに対応していないところも少なからずあり、充電速度もまちまちで、信頼性の問題もあります。一体化した政府の支援により、政府機関、電力会社、自動車メーカーなどが一致団結し、誰もがいつでもどこでもEVを充電できるような公共充電スタンド網を構築することが可能となります。

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 米国が抱える問題のひとつは、設置済み充電スタンドの信頼性が低いことです。ドライバーからは充電器が故障しているという苦情が頻繁に寄せられ、EVで旅行中に充電スタンドが見つからず、立ち往生したという話がメディアを騒がせています。常に充電可能な充電スタンドがどのくらいあるのか確かな数を把握するのは難しいのですが、サンフランシスコ・ベイエリアで実施された調査では、公共高速充電スタンドの4台に1台が常時故障中であることが判明しています。

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 故障の原因はさまざまです。しかし、新しい技術を備えた設備が風雨に晒されているとなれば、原因の多くは驚くに値しません。例えば「ケーブルが切れている」、「電力変換がスムーズにいかない」、「支払い画面が故障で消えている」、「誰かのいたずらにより充電口が塞がれている」、「スズメバチが巣づくりをしている」といったことなどのトラブルが発生しています。

 早期に充電スタンドを生産して運営を継続している企業のなかには、維持管理を義務づけられていないところもあります。しかし、インフラ投資法で支援される新たなプログラムに参加を希望する企業は、すべて維持管理について一定の要件を満たさなくてはなりません。充電器の維持管理基準とすべき内容は、いまだにプロジェクトを進める連邦政府と州政府が策定している最中です。しかし、連邦政府からの助成金で充電器を生産・運営する企業は一様に、使用状況、信頼性、維持管理コストを詳述したデータを提出する必要があるようです。連邦政府は実際、公共充電スタンドの助成金に申し込む州に対し、維持管理を担う新規要員へのサポート体制について詳細な計画案を提出するよう義務づけています。

 このように充電スタンドの設置には手続きを含め、時間がかかります。一方で、多くの充電スタンドの設置を進めていかなくてはなりません。こうしたもたつきの一因は、不可欠だが退屈きわまりない許可取得の手続きのせいです。

 EVに搭載されたバッテリーを1時間で満充電にできる高速充電器は、設置にかなりの手間がかかります。地下に埋め込む作業そのものは設置場所によってほとんど大差はなく、電力会社と連携して道路を掘削して設置します。ところが、工事許可の取得手続きは、管轄区域や市によって大幅に異なります。充電器メーカー側は、さまざまな設置場所に適用できる合理化されたプロセスが必要だと訴えています。一例としては、EVの充電器がそれぞれの設置場所の安全法規に準拠しているかどうか、調査確認を自動化することが挙げられます。エネルギー省が太陽光パネル設置プログラムに助成金を出したときのようなシステムを求めているのです。

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 充電スタンドの設置に向けて綿密な計画を立てたとしても、実際に稼働できるようになるまでには、政府やEVの所有者が考える以上に時間がかかります。持続可能な充電器ビジネスを目指すには、連邦政府による資金のばらまきが終わったあとも、事業者側がビジネスを維持・継続していくためにコストがかかることを認識していなければなりません。

 EVがかなり普及してくれば、当然ながら儲かるようになると思うかもしれませんが、いつそうなるのか、どうすればそうなるのかは不明です。皆さんはどう思われますか。



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