未来を担う技術革新(その7)…EUでの合成燃料使用エンジン車販売容認

EUが合成燃料条件にエンジン車の販売継続認める

 2023年3月、欧州連合(EU)が2035年以降は内燃機関(エンジン)車の新車販売をすべて禁じるとしてきたこれまでの方針を撤回しました。温暖化ガス排出をゼロとみなす合成燃料を利用する場合に限り販売を認めることになりました。合成燃料は二酸化炭素(CO2)を原料とするため、燃焼で出るCO2の大部分を相殺できます。発展途上の技術で、実用化への課題も多いようです。普及の可能性はあるのでしょうか。

画像の説明

 合成燃料とは、二酸化炭素と水素を化学反応させてつくる燃料で、この方法でメタノールやガソリン、軽油をつくることができます。現在、材料の炭素を大気中のCO2から得ることで地球温暖化防止につながる燃料として注目されています。

画像の説明

 右図のように、合成燃料は、再生可能エネルギー由来の水素と、発電所や工場から排出される二酸化炭素や大気中の二酸化炭素を使って製造することから、従来の化石燃料と違い、ライフサイクル上で大気中の二酸化炭素を増やすことがなく、カーボンニュートラルな燃料と言えます。合成燃料は、石油と同じ炭化水素化合物の集合体で、ガソリンや灯油など、用途に合わせて自由に利用できます。合成燃料のなかでも、再生可能エネルギーを用いて製造した水素を用いたものは、Eフューエルと呼ばれています。

日本への影響は

 エンジン車の新車販売の禁止を目指していたEU=ヨーロッパ連合は、二酸化炭素の排出が実質ゼロとされる合成燃料の使用を条件に販売の継続を認めることで、域内最大の自動車生産国のドイツと合意しました。これについて日本の各社は、今回の合意の内容を注視することにしています。EUは、脱炭素社会の実現に向けて2035年までにハイブリッド車を含むエンジン車の新車販売を事実上、禁止することを目指していましたが、ドイツとの間で2023年3月25日、合成燃料の使用を条件にエンジン車の販売の継続を認めることで合意したことを明らかにしました。

画像の説明

 電動化をめぐっては、日本の自動車メーカーはEVの投入を進める一方で、地域の特性にあわせてハイブリッド車などにも力を入れる戦略をとっていて、日本自動車工業会の三部敏宏副会長は2023年3月23日の会見で「多様化した世の中には多様な選択肢が必要だ」と述べていました。日本の各社はEVの投入を加速させる方針を示していましたが、EVの普及をいち早く打ち出したEUが方針転換した形となる中、今後、販売戦略にどのような影響を及ぼすか注視することにしています。

画像の説明

 一方、経済産業省はハイブリッド車を含めて、2035年までに新車販売で電動車の比率を100%にするという目標を掲げていて、今回の合意は「日本と方向性が近い」という見方も出ています。ただ、合成燃料は、既存のエンジン車などで利用できるもののコストが高いのが課題で、商用化への支援を加速させる方針です。

画像の説明

合成燃料開発の進み具合は

 まだ商用化はほとんどされていませんが、世界各地で実用化に向けた取り組みが始まっています。独ポルシェは2022年12月、チリで合成燃料の工場を稼働させました。まずレースなどで使い、2025年までに年5500万リットルを生産する計画です。通常のガソリンに比べ、CO2の排出量を9割減らすことができるとしています。

画像の説明

 合成燃料普及を目指すドイツのロビー団体、e-Fuel Alliance には部品大手の独ボッシュやマーレが主要メンバーとして参加しています。マツダや米エクソンモービルも加わっています。日本ではENEOSホールディングスが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに採用され、開発を進めています。

メリットは

 ガソリン車やディーゼルの技術、ガソリンスタンドなどのインフラをそのまま生かせます。内燃機関車のサプライチェーン(供給網)が発達した国では雇用や工場を維持できる期待もあります。合成燃料は水素と炭素を化学反応させてつくります。まず再生可能エネルギー由来の電気で水素をつくります。回収した二酸化炭素(CO2)と合成し、ガソリンやディーゼル油などと同じ成分にします。エンジンで燃やせばCO2や窒素酸化物(NOx)を排出しますが、全体としてCO2排出はゼロとみなされます。

画像の説明

 新車販売が全て電気自動車(EV)になったとしても、市中の自動車の大半が内燃機関である状況は当面変わりません。全国石油商業組合連合会の試算では、日本のガソリンに合成燃料を5%混ぜることで、EV約300万台を新規導入するのと同じCO2削減効果があると言います。

普及への課題は

 ポルシェは2021年時点でプラント稼働当初の生産コストを1ℓ10ドル(約1300円)と想定していました。再生可能エネルギーの価格下落やCO2回収技術の発展でコストは下がるとみられていますが、本格的に量産が始まっても同2ドル程度かかるとされ、ガソリンより高くなります。生産量の問題もあります。合成燃料の生産に水素が必要ですが、水素は様々な分野で需要があります。電化が難しい船舶や航空機向けを優先した方が早いという意見もあります。

画像の説明

 EUは、脱炭素社会の実現に向けて2035年までにハイブリッド車を含むエンジン車の新車販売を事実上禁止し、すべてEV車で進めることを目指していました。しかし、ここに来て合成燃料によるエンジン車の販売を認めたわけで、オールEV戦略はなかなか達成が難しいことを示した形です。皆さんどう思われますか。



コーディネーター's BLOG 目次