未来を担う技術革新(その8)…主役に躍り出たリチウムイオン電池

リチウムイオン電池

 今、至る所でリチウムイオン電池が登場します。再生可能エネルギーの蓄電池しかり、ハイブリッド車でのバッテリーしかり、更には携帯、パソコンのバッテリーとしても登場してきます。

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 化学電池には、1次電池、2次電池(蓄電池)、燃料電池、特殊電池の4つに大別できます。今回取り上げる蓄電池は、2次電池に区分されるもので、放電してしまった活物質を再びもとの状態に再生(充電)することにより、繰り返し充電・放電できるものを言います。乾電池の様に、放電のみを行って活物質が消費されてしまうと、その電池の寿命が終わってしまう1次電池とは、大きく使い勝手が異なることが分かります。

 我々が携帯電話やパソコン用電池として使用しているのは、正にこの蓄電池です。近年は、電気自動車の電源として使われるなど、大容量化が進みつつあり、また量産化によって生産コストも下がって来ています。この蓄電池には、右図に示します様に、色々な種類があります。古くから使用されている代表的なものに「鉛蓄電池」や「ニッケル・カドミウム蓄電池」があり、最近実用化されてきたものに、ニッケル・水素電池やリチウムイオン電池があります。この中で、小型化・軽量化という観点から眺めると、リチウムイオン蓄電池が他を引き離しており、現在最も注目されているのが理解できます。

 2~3年の内には、リチウムイオン電池を利用して、例えば、ビル1棟分の電力を賄うような規模の大きな蓄電システムが実現すると考えられます。課題は、リチウムイオン電池の材料として、希少な金属であるコバルトが使われていることです。但し、コバルトを使用しない方式の電池の開発も進められています。あるいは、国内でのリサイクルの徹底化によって、この問題は克服できるかも知れません。

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 リチウムイオン電池は、リチウムイオンが炭素素材とコバルト酸リチウムの間を行ったり来たりしているだけで、化学反応は起きていないところに大きな特徴があります。そこのところをもう少し詳細に、その仕組みはどうなっているのかという点から眺めてみます。

 一般的なリチウムイオン電池は、正極側にコバルト酸リチウム、負極側に特定の結晶構造を持った炭素素材を使います。リチウムイオン電池は、プラスの電気を帯びたリチウムイオンが、コバルト酸リチウムと炭素素材の間を行ったり来たりするのに伴って、電子が回路を通って正極と負極の間を行き来することになり、回路に電流が流れる仕組みです。

 充電中は(左図)、外部の電極に繋いで、正極と負極に電位差をつくります(電圧をかける)と、正極から負極へと電子が移動して行きます。これに伴って、リチウムイオンも、本来なら安定であるコバルト酸リチウム側から炭素の側へと移動します。

 フル充電に到達すると(右図)、リチウムイオンは炭素の層の間に挟み込まれて留まっている状態で、回路を繋がなければ、この状態が維持されます。

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 放電中は(左図)、回路を繋ぐと、炭素の層の間に留まっていたリチウムイオンが電解質を通ってコバルト酸リチウムの方に移動します。リチウムイオンにとっては、炭素の間に挟まれているよりも、コバルト酸リチウムの層に挟まれている方が安定した状態にあるため、この様な移動が起きます。これに伴って、負極から正極へと、電流を通って電子が移動します。電子は電解質を移動することはできません。この電子の移動が電流に他なりません。

 完全に放電した状態では(右図)、リチウムイオンはコバルト酸リチウムの層に移動し、安定しています。

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 地球温暖化の脅威が迫り、地球は2050年までに温暖化ガス排出の実質ゼロを決意しました。化石燃料に代わる再生可能エネルギーの電気を電気自動車(EV)や家庭生活で使いこなすには大量の蓄電池が必要です。EVの価格が100万円台まで下がればリチウムイオン電池普及の追い風になります。それには電池の価格が1キロワット時あたり5千円程度を下回るのが理想とされます。米ブルームバーグNEFによりますと、リチウムイオン電池の価格は2021年に同132ドル(約1万6千円)と10年比で9分の1ですが、まだ高いと言えます。今後は自動運転化などで消費電力も増えて行きます。

 太陽光や風力は天候によって発電量が大きく変化するため、作った電気を蓄電池などにいったんため、受給に合わせて電力網に流す量を調整する必要があります。リチウムイオン電池はリチウムやコバルトなどの希少な材料を使うため高くなります。ひとつの解が安価な代替材料を使う高性能電池の開発です。

リチウムイオン電池を超えるイオン電池はあるのか

1. フッ化物イオン電池

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 「電気を蓄える容量はリチウムを超える」と九州大学の研究チームは、新たな主役のデビューを心待ちにしています。新型の電池は電気を生むイオンに、リチウムとは違うフッ素を使います。フッ化物イオン電池と言います。歯磨き粉でなじみのフッ素3個を鉄と組み合わせてまずは電極を作りました。蓄電池の容量は1グラムあたり579ミリアンペア時です。電池ができれば、リチウムイオン電池の3倍を狙える計算です。EVの航続距離が伸びるほか、電池の大きさを据え置けば、EV価格が2割安になる見通しです。

 容量が一気に増えるのは、正極と負極を行き来するフッ化物イオンが電線を通じて3個の電子を同時に受け取れるからです。多くの荷物を一度に運び、蓄えておくイメージに近いと言えます。リチウムイオンが動かせる電子は1個にとどまります。ほかに塩素や臭素も有望だと言います。それぞれ3個のイオンがビスマスのイオンと組み合わされるとリチウムと同様に電子が動きます。研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けています。

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2. ナトリウムイオン電池

 東京理科大学の駒場慎一教授らは、電気を蓄える能力がリチウムイオンを上回る「ナトリウムイオン電池」を開発しました。ナトリウムは地球上に豊富に存在します。実用化すれば、リチウムイオン電池に比べて費用を1~2割安くできるとみています。ナトリウムイオン電池は次世代電池の有力候補と目されていますが、蓄えられる電気の量がそれほど多くなく、装置が大型で重くなりがちという欠点があります。駒場教授らは負極に使う炭素に微細な穴を無数に作ることで、電気を蓄えられる量を従来より14%引き上げました。駒場教授は「充電速度が速いため、さらに性能が上がれば大きく普及するのではないか」と話しています。

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3. 鉛蓄電池を大幅に性能向上させる技術

 古河電気工業と古河電池は自動車バッテリーに古くから使われてきた鉛蓄電池を大幅に性能向上させる技術を開発しました。「バイポーラ型」と呼ぶ技術で、これまで正極と負極を別々に生産して電池に組み立てていましたが、基板の表と裏に正極と負極を取り付けて一体生産するようにしました。従来の半分ほどの大きさで同じ性能を発揮します。2021年度に試験出荷を始めます。鉛はもともと安価ですが、さらに量を減らしました。導入費用はリチウム電池の約半分以下になる見通しで、量産時は1キロワット時あたり2万~4万円を目指します。リチウムイオン電池は、発熱するため、空調を使った温度管理が必要で、間隔を空けて設置する必要があります。鉛蓄電池はこうした問題がなく、場所をとりません。

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放 電

① 負極のPb板はイオン化傾向の関係でPb2+が溶け出します。その際に2e-が発生し、正極に向かって流れ、モーターを回すなどの仕事をします。一方、溶け出したPb2+は、硫酸溶液中のSO4-とくっ付き、負極棒表面にPbSO4を形成します。
② 正極のPbO2側では、2e-が流れ込んで来て、PbO2が還元されてPb2+が形成されます。     
      (PBO2+4H+ +2e- ⇒ Pb2+ + 2H2O)
③ できたPb2+が溶液中に溶け出し、硫酸溶液中のSO42--とくっ付き正極棒表面にPbSo4を形成します。

充 電

① 外部電源の-極から出た電子e-が負極のPb板に流れ込みます。負極ではすでにイオン化傾向の関係でPb2+が溶け出し、負極棒表面にPBSO4を形成しています。これと流れ込んだ電子が反応して、下記式で元のPb板に戻ります。
       (PbSO4+2e- ⇒ Pb + SO42-)
② 正極では外部電源の+極に向けて電子が放出されます。すなわち、
       (PbSO4 + 2H2O ⇒ PbO2 + 4H+ + SO42- + 2e-)
となり、元のPBO2が形成されます。

 この様に、放電と充電で元に戻ります。

テスラの技術開発

 電気自動車(EV)向けの技術を生かし、電力貯蔵用でも価格破壊をもくろむのが米テスラです。リチウムイオン電池の材料の見直しや内製化によって、製造コストの約6割削減を目指しています。2021年9月の事業説明会で、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、「1キロワット時あたりのコストを現状よりも56%削減する」と説明しています。

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 地球環境産業技術研究機構(RITE)によると温暖化ガス排出を50年までに実質ゼロにするには、社会の電動化が欠かせません。少なくとも最大で累計100兆キロワット時の蓄電池が要ることになります。矢野経済研究所によると移動の手段となるEVの世界販売は30年に5026万台と、20年比で9倍になると言われています。そしてこれを支える蓄電池の技術開発の重要性を皆さんどう思われますか。



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