未来を担う技術革新(その9)…全個体電池EVに取り組むトヨタ

 トヨタ自動車は2027年にも次世代電池の本命とされる「全個体電池」を搭載した電気自動車(EV)を投入すると発表しました(2023年6月13日日経新聞掲載)。10分以下の充電で約1200キロメートルを走行でき、航続距離は現在のEVの2.4倍に伸びます。弱点だった電池の寿命を伸ばし、今後は量産化に向けた技術開発を急ぐとのことです。実用化すれば、EV市場の勢力図を塗り替える可能性があります。

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全個体電池とは

 繰り返し充電できるリチウムイオン電池の正極と負極の間にある電解質を液体から個体に切り替えた電池です。電解質が液体の場合に比べて、エネルギー密度が高く、同じ大きさの電池で電気自動車(EV)の航続距離を伸ばせます。固体電解質は液体の電解質より発火しにくく、安全性も高いとされます。

 実用化に向けた最大の技術的課題は耐久性です。固体の電解質と電極を密着させても、充放電で電極が膨張・縮小を繰り返すうちに密着がなくなり性能が低下するのです。足元では改良が進み、充放電時にまったく膨張・収縮しない特殊な電極で、少なくとも数百回、ほぼ劣化せずに充放電できたとの大学での研究成果もあります。固体電解質中では電気を運ぶイオンが動きにくく、急速充電に向かないとされてきましたが、近年は優れた材料も見つかっています。

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 低コストで量産する技術の確立も不可欠になります。電解質を液体から個体に切り替えると電池の製造工程そのものを見直す必要があるためです。電解質が「硫化物系」の場合、水分に触れると有毒な硫化水素が発生します。従って、乾燥状態で生産できる設備が必要になります。また、一般的には全個体電池もリチウムなどの希少金属を使用するため、資源調達にも課題が残ります。

量産技術開発急ぐトヨタ

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 トヨタがこのほど静岡県の研究拠点で開いた技術説明会で方針を明らかにしました。全個体電池の耐久性の課題を克服したとし、具体的な実用化の時期として27~28年をあげ、EVへの搭載を目指すとしています。CTO(最高技術責任者)を務める中嶋副社長は「いい材料が見つかった。世の中に後れを取らず、必ず実用化する」と述べています。

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 一般に全個体電池はEVで主流の液体リチウムイオン電池に対し、電解質が個体になり、充電時間が短く航続距離を伸ばせるのが特徴です。固体の電解質と個体の電極を密着させ、離れないようにする必要があります。充放電によって電極が膨張と縮小を繰り返すと電解質と電極が離れてしまい使えなくなります。これまでは一般的に充放電が数十回~数百回しかできず、実用化に必要な数千回以上が達成できていませんでした。

 トヨタは全個体電池の研究開発で先行し、1000以上の関連特許を持っています。2020年夏には世界で初めて全個体電池を搭載した車両でナンバーを取得し、試験走行しました。当初は20年代前半のハイブリッド車(HV)での搭載を目指していました。トヨタは開発をさらに進め、将来は同じ10分以下の充電時間で航続距離を約1500キロまで伸ばすことも視野にいれています。

 EVの性能は電池に大きく左右されます。現状は充電の長さや1度の充電で走れる距離でガソリン車やHVに見劣りしています。トヨタの現行のEV「bZ4X」向けリチウムイオン電池の充電時間は約30分で、航続距離は約600キロです。日産自動車の「アリア」は約45分の充電で380キロ、テスラの「モデルY」は約15分で最大260キロです。

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 全個体電池の普及にあたっては今後、量産工法の開発がカギとなります。製造コストを下げる技術開発が欠かせません。科学技術振興機構の試算では、全個体電池(硫化物系)の製造コスト1キロワット時当たり6万~35万円で、既存のリチウムイオン電池(同1万4000円)に比べて4~25倍高いという結果となっています。このことから、産業技術総合研究所のK氏は、自動車メーカーが実用化にこぎつけた初期段階では「高級車など一部の車種に限定した形で搭載する可能性が高い」との考えを示しています。全個体電池はリチウムイオン電池の「次」として注目され、各社が研究開発を進めています。調査会社の富士経済は、全個体電池の市場規模は40年には3兆805億円にまで拡大するとみています。

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 日産自動車は、2028年度までに自社開発の全個体電池を搭載したEVを市場投入する計画を掲げています。2024年度までに横浜工場(横浜市)に試作品の生産ラインを設け、材料や設計、製造プロセスについて検証するとしています。独BMWは2025年までに全個体電池を積んだ実証車輛を公開し、2030年までに量産する計画です。

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 電動車シフトは世界的に鮮明になっており、トヨタは全個体電池の実用化でEVの加速に弾みをつける計画です。EV拡充を打ち出しており、2022年の世界販売は約2万台にとどまりますが、「2026年までに年間1500万台、2030年までには3500万台」を掲げています。

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 トヨタは全個体電池とは別に既存の液化リチウムイオン電池の性能も高めていくことにしています。2026年にも次世代品を等に有する計画で現行のEV「bZ4X」の2倍に当たる約1000キロを走行できるようにする計画です。2027~28年に全個体電池搭載のEVを投入できれば、2030年までには様々な電池を搭載した車種を幅広く取りそろえることになります。いよいよトヨタが動き出したという感じですが、皆さんどう思われますか。



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