未来を担う技術革新(その13)… 次世代通信規格6Gを目指す日本の未来図

 2020年3月、国内携帯大手3社はそろって次世代通信規格「5G」サービスを始動させました。「5G」サービスが始まると日本でもようやく高速大容量の通信環境を実感できるようになりました。ただ、5G端末の開発競争で日本は出遅れました。そのため、その先の「6G」に向け官民は巻き返しを図ることが期待されています。日本は世界を牽引する通信インフラをつくれるのでしょうか。今回はこの辺の問題を取り上げたいと思います。

「6G」と「5G」との違い

 5Gの商業化は、2020年にスタートしたばかりです。デジタル時代の大量のデータから、新たな価値創造が行われ、必要なモノ・サービスを、必要な人、必要な時、必要なだけ提供することで様々な社会課題解決する「Society 5.0」が実現しました。

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 早くも世界各国では6G実現に向けて必要な通信技術について議論を始めています。通信規格の標準化は約10年のスパンが必要となるため、6Gは2029年には標準化し、2030年代に商用化されると言われています。

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 6Gの世界は5Gが浸透するとともに、AIやIoTの社会実装が進み、私達の社会は現実世界とサイバー世界が一体化します。この空間は「サイバー・フィジカル・システム (CPS )」と呼ばれます。Cyber-Physical Systemの頭文字を取った略称で、「フィジカルシステム」と呼ばれる現実世界において、センサーシステムによって収集した情報をサイバー空間にあるコンピューター技術で解析します。経験や勘に頼る方法ではなく、定量的な分析で様々な産業へ役立てる取り組みのことです。

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 一番事例として分かりやすいのは、自動運転でしょう。自動車のセンサーが現実世界の様々な情報を収集します。そして、AIやIT技術によって分析し、駆動系(フィジカル)を動かします。自動車だけでなくロボットやドローンなども活用される概念です。

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 日本はテクノロジーで再び存在感を発揮できるのでしょうか。5Gを経て6Gの入り口に向かう2020年代は、重要な10年間になります。急速に進歩する人工知能やIoT、ロボットなどと通信インフラを融合し、新市場や事業モデルを編み出さなければなりません。通信会社に限らず、あらゆる業種の企業が突き付けられるテーマです。日本はポテンシャルがあるという点では多くの人の意見は一致しています。さまざまな産業に知識やノウハウ、技術力の蓄積があります。反転攻勢の土台や突破口になり得ます。
 
 いまテクノロジー分野は米国と中国の企業が牽引しますが、データ収集などでみせた強引さがプライバシーや安全保障の問題を招いています。人や社会のあり方を世界に示すことが、米中に並ぶ第三極として日本に期待されていることではないかという考え方もあります。

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 東京大学大学院情報学科の中尾教授は次の様に述べています。第1世代(1G)から第5世代(5G)までの標準仕様は、通信事業者や大手通信機器メーカーなど限られたプレーヤーが決めてきました。こうしたアプローチはトップダウンになりやすく、技術革新の可能性を狭めてしまいます。6Gの仕様はボトムアップで決めていったほうがイノベーションを起こしやすいと言えます。

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 携帯電話は40年をかけて進化してきました。
第1世代は、1979年~で、自動車電話サービスが開始されました。
第2世代は、1993年~で、デジタル化され、データ通信も可能となりました。
第3世代は、2001年~で、通信速度が高まり、音楽を聴いたり、ゲームをしたりできる様になりました。
第4世代は、2010年~で、スマホが普及し、動画視聴も手の中で行える様になりました。
第5世代は、2019年~で、夏頃に先行サービスが開始され、IoTや自動運転にも応用される様になりました。




 そして、5Gがターゲットとするのは、「2020年代の社会を支えるモバイルネットワーク」です。「すべての端末とすべてのアプリケーションのための技術」と言えます。5Gの長所は高速・大容量に加え、低遅延、同時多数接続にあり、幅広い社会課題を解決するための機能が拡張されました。そのような進化した通信の機能をどう生かし、どのような使い方を編み出すかは、企業や自治体など課題に直面している現場で考えるのが望ましいと言えます。

 5Gから6Gへ、次の世代の通信仕様は、限られたプレーヤーが決めるよりも、こうした現場からの革新的な賢いやり方です。総務省は今年、6Gに向けた戦略を立案する有識者会議を立ち上げました。すでに欧州や中国をにらみながら6Gの本格的な議論を開始しています。遅れた日本がまず手をつけるべきことは、諸外国に勝つための分析です。日本の強みどういった分野にあるのかといったリソースマップを作る必要があります。

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 カギになると思うのは「ローカル5G」です。2019年12月に申請受付が始まった地域版5Gのことで、地域限定で企業や自治体が5Gの電波を使って重要課題の解決に取り組もうというものです。通信事業者が持つ携帯電話の技術を幅広い産業や自治体が自ら使えるようにするという点で「通信の民主化」だといえます。また、産業や自治体のニーズに沿って独自の仕様を作り易いというメリットもあります。

 うかうかしていると、諸外国のプレーヤーに主導権を取られます。6Gの競争が始まると、具体的な戦略を考える時間もなくなる。戦略づくりでは大学をうまく使ってもらい、産学で役割を分担することも必要です。大学自身も経営の感覚を磨き、技術研究をどう社会に還元するか考えていく必要があります。

 かつて日本は技術立国を標榜していて、何が何でも一から自分自身で技術を開発して、という姿勢が強かったように思います。しかし、相手の技術を認めて、それを上回る技術を開発するという姿勢がこれからは必要かもしれません。皆さんはどう思われますか。



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