貿易事業と為替問題(その3)…急激な円安進行の背景と処方箋

「金利上昇」日本置き去り

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 2022年4月時点で、世界の金利上昇の潮流から日本が取り残されています。インフレ抑制で欧米が金融引き締めに動き、資本流出を恐れた世界の新興国も追随しています。欧州は金融緩和時代の象徴だったマイナス金利から脱却してきました。しかし、日銀は大規模緩和を維持しようと金利を抑えており、海外との差が円安を招くジレンマに陥っています。

 マネーは運用のうえで有利な金利の高い通貨に向かいます。海外金利が上昇基調を強めるなかで日銀が低金利政策を維持すれば一段の円売り要因となるのは当然です。少しでも日銀が円を買い支えようとすればするほど、投資家はこれをチャンスとみて円を売ってくるわけです。

 今回市場関係者は「日銀が円安を気にして予想外の動きを取れば波乱になりかねない」と身構えました。しかし、日銀は結局、オペを実施したうえに、4月21日以降の「連続指し値オペ」も発表しました。「為替水準を無視してでも金利上昇を抑制する姿勢を鮮明にした」格好でした。



日本の低金利がもたらす円安

 日本の金利の低さは世界で際立っています。実際に米国の10年債利回りは3%に迫るほど上昇しました。2021年末にマイナスだったドイツの10年債利回りも2月に日本を上回り、足元では0.9%台まで上昇しました。同様にマイナスの常連だったフランスやオランダなどの10年債利回りは1%を上回るほどです。満期までの期間が短く利回りが低くなりやすい2年債でも、マイナス利回りの主要国はスイス、デンマークなど一部になりました。そのスイスやデンマークですら、10年債利回りは1%前後と日本を大きく上回っています。

 現在、マイナス利回りの債券は急減しており、Quick・ファクトセットによりますと、残高は2.6兆ドル(約340兆円)です。18兆ドルを超えていた2020年12月から85%減少しました。急減の背景には金融引き締めへの転換があります。欧州中央銀行(ECB)は2014年にマイナス金利政策を導入し、ユーロ圏各国の金利は長らくマイナスに沈んでいました。ところが、2021年から天然ガスなど資源価格が急騰し、ロシアによるウクライナ侵攻がインフレに拍車をかけました。金融緩和の柱となる量的緩和政策の縮小を決めており、毎月の債券購入額を段階的に減らしていることが金利上昇に繋がっています。

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 利上げの潮流から取り残され、円は全面安の様相です。2022年4月の対ドルの下落率は5%と主要通貨でもっとも大きくなりました。下落率で次ぐスイスフラン(3%安)やユーロ(2%安)と比べても突出しています。トルコリラやロシアルーブルなど新興国通貨に対しても年初来安値圏にあります。この円安傾向は1年後の2023年5月も同様です。




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 急激な円安進行は毎日の暮らしに暗い影を落とします。円安の影響は立場によって様々です。ただ今回は、輸入価格の高騰が身近な商品やサービスの値上げラッシュを引き起こす「悪い円安」の側面が色濃いものとなっていました。円相場の長期グラフをみますと、これまでも急激な円安が繰り返し訪れています。暮らしを支えるためには、円安が進むたびに節約するしか方法はないのでしょうか。実は保有する通貨の国際分散という手法があります。円預金だけでなく、ドル預金やユーロ預金などにも分散させて保有する考え方です。

ドル建て資産への分散投資

 円安の影響は立場によって変わります。分かりやすいのは企業です。輸出業者は海外販売で得た外貨を円に換えるため、円安が業績を押し上げます。逆に輸入業者は海外から仕入れる商品を買う際に円を外貨に換えるため、円安は業績を圧迫します。実は、個人の場合も影響は様々です。消費者からみれば、輸入品の値段が上がるので円安はマイナスです。ところが外貨資産への投資家の立場だったら、円換算の価値が上がるので円安がプラスに働きます。東京都内に住むN氏は、円安が進み始めた昨年夏から手持ちのドル預金を取り崩して生活費に充てています。1ドル=100円程度の時代に預けたため、円に戻すと手数料などを引いても1~2割ほど増え、商品の値上げを十分吸収できるといいます。

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 消費者にデフレ感覚が染み付いた日本では、企業が買い控えを警戒して製造コストの上昇分をまるごと販売価格に転嫁していません。一方、ドル預金はそのまま円に換金できるので、値上げ分を為替差益で賄いやすいわけです。

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FX(外国為替証拠金取引)の活用

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 取引コストが安い外国為替証拠金(FX)会社を使う方法もあります。FX大手の外為どっとコムの調査では、担保に預けたお金の数倍の金額を取引できる「レバレッジ」を1~2倍にとどめる人が全体の4分の1近くを占めたそうです。レバレッジを上げると手数料が高くなるので、手数料を安くあげて為替差益で稼ぐのがお得のようです。


国際収支に関する基礎知識

 通貨の国際分散保有に取り組むには、円相場の基礎知識を身に付けることが大前提になります。円相場を動かす2大基本材料とされるのは金利差と受給差です。

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 まず金利差ですが、日米の金利を比べると、金利が高いドルに資金が流れやすいと言えます。高金利通貨の方が利息をたくさん受け取れるからです。金融政策が手掛かりになります。FRBが利上げに動きだし、日銀が大規模緩和政策を続ける現状では、金利差が広がりやすい状況となっています。


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 受給差をみるのに最適なのは、財務省が毎月発表する貿易統計と国際収支です。発表時期が早い貿易統計では、日本の輸出額と輸入額が分かります。輸出の方が多い、つまり貿易黒字であれば、円が買われる材料になります。世界全体の金額だけでなく、米国との貿易状況も確認したいものです。国際収支では、貿易だけでなく、株式や債券などの証券投資の状況も分かりますので、日本に入るお金と日本から出るお金を比べる総合データとして活用できます。

 円相場は戦争や経済危機、商品相場などが影響するので注意が必要です。ちなみに現在は日米間の金利差が開き、日本では貿易赤字が続いています。このことが急激な円安の背景にあると指摘する専門家も少なくありません。皆さんはどう思われますか。



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