貿易事業と為替問題(その9)…宝石エメラルドに秘められた価値

ブラジルとの貿易

 ブラジルのミナス・ジェライス州とエスピリト・サント州の境界にクリスタルサンドという町があります。2010年頃、花崗岩の採掘をしていた際に、偶然、エメラルドとダイヤモンドの鉱脈が発掘されました。

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 会計士Aと弁護士Bの2人が、これを機にA7 STONESという会社を起ち上げ、エメラルド原石の販売を開始しました。現在は、この会社へ投資家M氏が50%出資して運営がなされています。この投資家M氏の弟が現在日本で生活し、10年以上滞在しています。この関係を活用して採掘したエメラルドやダイヤモンドを日本に流通できないかを考えることになりました。

 ブラジルは、複数の関税があり、輸入と輸出で税金体系が異なっているため、ブラジルと日本間での貿易はほとんど進んでいません。ブラジルではポルトガル語が使われ、言葉の問題も大きく、通貨も円をドルに変換し、そしてレアルへ変換せねばならず、結構複雑です。2019年1月1日より、ブラジルではルナ元大統領がボルソナロ新大統領に交替し、経済政策等が大きく変わろうとしています。これを機に、特別な交易ルートで日本とブラジル間で貿易を行なえないかが検討されました。

 日本へエメラルドを輸入する際には、ブラジル税関を通すために、日本のバイヤーが日本国内の銀行内に口座を準備し、デポジットをする必要があります。一方、日本の商品をブラジルへ輸出する場合には、ブラジル税関に輸出商品の登録を500万円程かけて行う必要があります。このように日本とブラジル間の貿易はなかなか一筋縄では行きません。

エメラルドという宝石

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 エメラルドは、ベリリウム鉱物(Be3Al2(SiO3)6)の一種で、それらの最上級に位置付けられています。ベリリウム鉱物の他のものとしては、アクアマリン、モルガナイト、ヘリオドラス、ゴシェナイト、ビクスバイトがあります。エメラルドは宝石として尊ばれ、カラット当りの価格は世界の宝石の中で最も価値のあるものとなっています。この価値を損なうものは、エメラルドの中にしばしば見つかる介在物です。エメラルドは人の魂の中に存在する悪魔に対抗して、人を悪魔から守ってくれると信じられて来ました。すなわち、エメラルドは輝かしい将来を導く魔法の宝石なのです。ちなみに、五大宝石とは、ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア、真珠のことを言います。エメラルドの主要埋蔵地はコロンビアです。他には、ブラジル、ロシアのSerra da Carnaiba-Bahia, Campos Verdes Goias、ジンバブエ、アフガニスタンでも見つかっています。

エメラルドの歴史

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 その昔BC950年頃、古代イスラエル国王ソロモンのもとを、エジプトとエチオピアを支配していたシバの女王が訪問しました。その際、シバの女王からソロモンへ、感謝の印としてエメラルドが贈られました。その時の模様は下記の様に記されています。

 「シバの女王は、ソロモンの知恵の噂を伝え聞くと、多くの随員を伴って、香料、大量の金、宝石などの贈り物をラクダで運び、難問をもって彼を試そうとエルサレムを訪問しました。女王はソロモンに数々の質問を浴びせますが、ソロモンに答えられないことは何もありませんでした。また、宮殿、食卓の料理、居並ぶ臣下、神殿の燔祭(ハンサイ)などの様子を目の当たりにした女王は感嘆し、ソロモンが仕える神を称え、金200キカル(1キカル=約34.2kg)と多くの香料や宝石を贈りました。ソロモンも女王に対して贈り物をした他、彼女の望むものを与えました。こうして女王一行は故国に帰還した。」という内容です。ミュージカルにシバの女王という曲がありますが、素晴らしい曲ですので、まずは聴いて下さい。

https://www.youtube.com/watch?v=uoJ-aZeygiU

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 一方、ソロモン王は、旧約聖書の「列王記」に登場する人物です。父はダビデ、母はバト・シェバで、古代イスラエル3代王でした。政治の功績としては、12の部族結合を解除させ統一し、軍備の拡張をしています。更に、フェニキア人の協力を得て、エジプト、アラビア、紅海や地中海沿岸諸国との交易により、経済や文化においても繁栄をもたらしました。

 他にも色々とエメラルド伝説は残っています。例えば、
・ ユダヤ人はイスラエルの12の種族を示す首輪の上にエメラルドを飾りました。
・ キリスト教会では、伝説的な聖杯(最後の晩餐でイエスキリストが用いた杯)の上にエメラルドを飾っています。
・ また、エメラルドはローマ法王の三重冠や、国王の王冠や、マハラジャのターバンに飾られています。さらに、王妃のレースや彼女たちの高貴な指を飾りました。
・ ローマ人は、エメラルドを着けると、悲しみを魔法で取り除き、痛みを歓びに変えると信じていました。
・ かつて船乗りたちは静かな海の上での良好な航海を祈って、首の周りに魔除けとしてエメラルドを着けていました。
・ またエメラルドは、神話上のギリシャの物理学者アスクレピアスが医学に通じる植物栽培の熟練者であったこともあって、医学を象徴する宝石にもなりました。

 インカ文明が栄えた当時、エメラルドが大量に採掘されインカが保有していましたが、スペイン人による開拓時代には、スペインの支配下で没収されました。一方、ブラジルでは、これらの宝石の探査がフェルナオ・ディアス・パエス(Leme)によって行われました。この探査はエメラルドハンターという言葉で知られています。Lemeはエメラルドを採掘すべく、サオパウロからの大いなる探検を指揮し、森林区画を旅して奥へと進みました。その地域住民への礼節をわきまえて探索を進めるため、地域住民にとって聖域となっていたマイナスジェラスのセルタオへ無暗に入ることはしませんでした。しかし、彼の息子は、Lemeを裏切って陰謀を図ったため、絞首台にかけられる羽目に陥ります。

エメラルドの鑑定

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 エメラルドの鑑定は、米国宝石協会(GIA)によって用いられている標準的な規則と手順に準拠しています。原石は研磨される前の段階であり、個々に封印されたセキュリティボックスに納められなければなりません。サンプルの中に存在する緑色の鉱物が六方晶であり、以下の要素が観察されることがエメラルドの証明条件となります。

1) 物理的特性の分析:
・鉱物色 ・色の勢い・靭性 ・特別な重さ
・輝き・割れ・破壊面・くせ・透明度

物理的特性を同定するために用いられる一般的な器具は下記となります。
・バランス計・キャリパー計・双眼鏡(倍率:×10)・チェルシーフィルター

物理的特性評価結果
・ 色…緑
・ 色のぶつかり…白
・ 密度…2.74
・ 結晶…六方晶とその変形型
・ 靭性…7.5
・ 裂け目…不貫通
・ 破壊面…貝殻状

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2) 光学的分析結果
・ 光学特性・屈折率・吸収スペクトル
 
光学的特性の同定に使用される一般的な器具
・ 偏光器・屈折計・分光光度計
光学的特性評価結果
・ 透明性…透明である
・ 多色性…認識できる
・ 蛍光性…僅かにピンク
・ 光学特性…Uniaxial negative
・ 反射率…1.565-1.603-(0.006)
・ 吸収スペクトル…683.5E、681Eで2本強い線、637, 630, 580Eで弱い線
          全て吸収紫

3) 同定結果
  分析された試料は、エメラルドのベリリウム変種で、化学式はBe3Al2(SiO3)6である。同定物質は、ベリル(緑柱石)、多様性エメラルドである。

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エメラルドの分類

用いられるパラメータ:
国際市場でのエメラルドの分類では、重量、色、純度の3つが重要である。以下の分類法は、エメラルドは、GIA(米国宝石協会)の“色付き石評価システム”を基本にしたもので、色合い、トーン、色彩が用いられている。このシステムでは、通常1文字あるいは文字の組合せで区分し、更に2つの数字が後に続く。文字は、色と色合いを示す略号であり、最初の数字はトーンあるいは特定の石の明るさ/暗さを示し、続く2つ目の数字は、宝石の色の収束レベルを示している。

(1) GIAタイプ色スケール:

 以下の表は、1文字または文字の組合せで区分されたGIAシステムである。これに続いて2つの数字が添えられる。

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(2) GIAトーン及び彩度スケール

 これは特定の宝石の明るさまたは暗さの決定の基本となるものである。トーンは宝石における色の深さを正しく理解するために考慮されている。宝石が良好な適度の色を持つとしても、仮にトーンがあまりにも明るいと、宝石として十分でないと判断される。反対に、トーンがあまりにも暗いと、輝きと透明度を犠牲にしてしまい、これも宝石として十分でないと判断される。

GIAタイプトーンスケール

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 彩度は、宝石を通して彩られている色の量や平坦さを理解するために、色やトーンと一緒に考慮される。

GIAタイプ彩度スケール

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(3) GIA透明さのスケール

 GIAカラー宝石システムでは、3つの宝石タイプに分類されている。“TypeⅠ”“TypeⅡ”“TypeⅢ”である。すべての自然宝石は、介在物を有する。通常語られる透明度は、単純にどれだけの“介在物”が宝石の内部にあるかで評価される。“介在物”が少なければ少ないほど、それらの価格は高くなる。これは不完全性が少ないものほど希少価値が高くなることを意味する。エメラルドの場合は、“TypeⅡ”に区分されている。下記表は透明性区分けの詳細説明である。
 
TypeⅡ-透明性スケール

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VVS, TypeⅠ…このタイプの宝石は、TypeⅠに属する宝石の内、ほとんど疵のない特別のものである。適度な照明条件の下で、10倍に拡大しても何等介在物が認められない、あるいは、10倍に拡大した時、何等内部欠陥が観察されない場合である。しかし、僅かな表面欠陥を持つが石を貫通していない、そして/あるいは、10倍に拡大した時に宝石鑑定士でなければ発見できないような小さな介在物を有する場合もこれに含める。

VS、TypeⅠ…このタイプの宝石は、TypeⅠに属する宝石の内、ほとんど疵のないものである。適度の照明条件の下で、10倍に拡大した時に宝石鑑定人でなければ観察できないような非常に小さな介在物を有するレベルのものである。これらの小さな介在物は、裸眼ではほとんど観察できないレベルのものである。但し、エメラルドカットしたものや大きな宝石では観察される場合はこのタイプに含める。

SI、TypeⅠ…このタイプの宝石は、ごく僅かな介在物を含む場合で、拡大しない場合にはほとんど認められない。これらの介在物は、TypeⅠに属する宝石に対して、何とか商品として通用するレベルのものである。適度な照明条件の下で、10倍に拡大した時には、小さな介在物が確認できるレベルのものである。宝石鑑定人であれば拡大せずとも観察できるレベルのものである。エメラルドカットしたものや大きな粒の宝石では良く観察されるが、これに含める。

I1 to I2、TypeⅠ…このタイプの宝石は、中から大の大きさの介在物(ピケ)を持つもので、通常は宝石鑑定人であれば裸眼で確認できるレベルのものである。Ⅰ1は、側面に介在物を有するものであり、Ⅰ2は中央部に介在物を有するものである。10倍に拡大した時には、鑑定人でなくとも小さな介在物を観察できるレベルのもの。

I3、TypeⅠ…このタイプの宝石は、かなり明瞭に介在物が確認できるもの。拡大しなくとも裸眼で十分に観察できる。この等級のものは、色々な問題を抱かえるので、できたら商品にしない方が良い。

分類方法

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 エメラルドの箱を分類するために325.640カラットの原石は幾つかに分割され、30%まで磨かれて97.692カラットの研磨石となりBox01に納められる。これらの石は、さらに幾つかのロットに分けられる。

 エメラルドとしてすでに確定された原石は、完全に洗浄された後、中間色の背景の上にベルトで保持される。そして、宝石鑑定人は、一般に約18インチ(45cm)の距離から表側を上にして眺める。…石の上方10インチ(25cm)位の所に乱反射する、強い日差し相当の照明を置く。

 石を前後に全体で30°程度揺らし、トーンや色合いや彩食の評価を行う。最初に、彩色レベルが評価される。彩色は宝石が何色の色を持つかということである。仮に、全くの灰白色や茶色がかった色が現れなければ、この宝石は生き生きとした彩色を有すると判定できる。彩色はまた、色変化、多色性、色ゾーンや多色表示といった各種付加的な要素がある。

同定…自然ベリリウム、多様性エメラルド
重量…97.692 カラット
中間サイズ…1.5 カラット
透明性…VS-SI、Type(Ⅱ)、非常に良好
色…VSLBG-5/2 色 ごくわずかな青色-緑色
トーン…中間-暗色
彩色…わずかに灰色

US$での1カラット当り小売価格

 ここでは価格ガイドをどう読むか、どう理解するかを示す。

GIA宝石群はすべて等級化されている。評価は色合い、トーン、彩色、透明性の評価でなされる。宝石鑑定書での色合い、トーン、彩色数値は、下記の表の特別、良好、良を示す欄の色合い、トーン、彩色の数値と一致する。

 これは、あらゆる宝石に色等級を与えるものである。

 次に、宝石鑑定書での透明度評価を用いて、同一の透明度を有する価格表を探し、適当な色等級を持つ宝石のカラット重量に一致させる。そうすれば、これに1カラット当りの価格を掛けてやれば良い。エメラルドの卸売販売価格は、小売価格の10%程度である。

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 エメラルドは人を悪魔から守ってくれる宝石と言われています。従って、真摯な気持ちでこの宝石に対応しなければ、災いを背負うことになりますが、皆さんどう思われますか。



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