為替問題と貿易事業(その12)…ブラジル貿易の難しさをどう克服するか

 2008年(平成20年)から三重大学産学連携コーディネーターとしての第2の人生がスタートしました。所属は創造開発センター(後の社会連携研究センター)の四日市フロントでした。2011年2月のある日、四日市フロントにNPO法人ハートピア三重の佐野理事長が県会議員の稲垣氏と一緒に現れました。そこから彼との付き合いが始まりました。下の写真はその際に四日市フロントで撮ったものです。左端から、伊藤、相可、石神、佐野、稲垣、佐藤の順です。

画像の説明

 NPO法人ハートピア三重は、日系ブラジル人の生活面での支援をしていましたが、三重県物産をブラジルのサンパウロ市の日系ブラジル人に届けるという企画が持ち上がり、検討を始めました。2014年の初め、日本酒、酢、かぶせ茶、大矢知ソーメン等のサンプルを送付し、信用状の準備まで進め、さあこれからという段階で、ブラジルの通貨レアルが従来の半分位まで下落したので断念することになりました。あまりにも日本製品が高値となってしまったわけです。

画像の説明

 その後、2019年1月1日より、ブラジルではルナ元大統領がボルソナロ新大統領に交替し、経済政策等が大きく変わりました。そこでこれを機に、今度は特別な交易ルートで日本とブラジル間で貿易を行なおうとする企画が再度持ち上がりました。

ブラジル貿易の基本的戦略

 次に企画した貿易事業は次の通りです。我々グループのブラジル企業が鉱山を所有していて採掘権を有すると同時に宝石原石の所有者となっていました。宝石原石をあるルートから仕入れて、これにマージンを付けて販売する単なるブローカーとしての商いではなく、高級資産が我々の手元にあるという強みを目一杯活用したいと考えました。この場合、問題は売り先をいかにして獲得するかという点です。

 ブラジルとの貿易は、
(1) ブラジルでの税金体系が非常に複雑であること
(2) 輸出と輸入システムが大きく異なること
といった様に手続きが煩雑で、中小企業が取り組むには難しいという問題が横たわっています。従って、これまでブラジルと日本間での貿易はほとんど進んでいません。また、ブラジルではポルトガル語が使われ、言葉の問題も大きく、通貨も円をドルに変換し、そして更にレアルへ変換せねばならず、結構大変です。

 例えば、日本へエメラルドを輸入する際には、ブラジル税関を通すために、日本のバイヤーが日本国内の銀行内に口座をまず準備し、デポジットをする必要があります。一方、日本の商品をブラジルへ輸出する場合には、ブラジル税関に輸出商品の登録を500万円程かけて行う必要があります。このように日本とブラジル間の貿易はなかなか一筋縄では行きません。これを成功させればOnly Oneとなれそうです。

画像の説明

高級宝石を輸入する場合の具体的な手続き

 基本的な実務知識として、次の3点が重要です。すなわち。
(1) ものの流れ
(2) お金の流れ
(3) 書類の流れ 
です。以下、順に見て行きます。

(1) ものの流れ

Step1. 価格設定と登録
 宝石をブラジル国外へ出す場合には、通関税を支払うために、鑑定士による査定を行い価格設定し、輸出手続きを行ないます。加工品と原石では価格が大きく異なります。原石は加工品の10%程度です。

Step2. 通関手続き
 ブラジルの税関を通すには、事前に通関関連税(法人所得税:15%、社会貢献税:9%)合計24%を支払う必要があります。但し、
・ 現品確認の場合…相手国の通関業者の保管庫での現品確認となりますが、確認後持ち帰ればブラジル国内での話と見做され、事前に支払った通関関連税は戻ってきます。また、ブラジルへ直接行って、現品確認する場合には、鑑定士を派遣する必要があります。米国へ、高級原石を売った際は、この方法を採用しています。
・ 引き渡しの場合…バイヤーが消費税を通関業者に支払うことによって外部に持ち出せます。その後、銀行でESCROW決済をすることになります。

(2) お金の流れ

 現金と品物の直接交換では、銀行でESCROW決済と、手数料の配分、送金を行なうことになります。しかし、ピンクダイヤモンドの様な高級宝石については、鑑定書や写真があっても、現品の確認がなければ取引は成立しません。そのため、高級宝石については、まず、現品確認のために日本へ持ち込む準備をする必要があります。

 ESCROW決済は、商取引の際に信頼の置ける第三者を仲介させて、取引の安全を担保する第三者信託です。手順は下記です。
Step1. 買い手は、エスクローエージェントに代金を預けます。
Step2. 売り手は、エスクローエージェントへの入金を確認し、買い手に商品を発送しまこす。
Step3. 買い手は、送付された商品を確認し、エスクローエージェントに商品の到達を報告します。当初の取引内容と異なる場合は、商品の返送または取引破棄をすることができます。
Step4. エスクローエージェントは、売り手に代金を送金し、売り手は代金を受領します。(取引の終了)。

&show(): File not found: "escrowservicemie_1.jpg" at page "Blog20231121";

 仲介するエスクローエージェントは、手数料を取ることで利益を得るわけです。日本では、銀行口座を利用したエスクローサービスが使われるケースが多いようです。これは取引銀行がESCROWサービスを扱っていることが前提となります。信託に比べると手続きが簡略な一方で、買主またはエスクローエージェントが倒産した場合に売主が金銭を受け取れないリスクがあります。

 通常、高級宝石の場合には、取引決済の前に、現品確認のために高級宝石をブラジルから日本に持ち込む必要があります。その時には、ESCROW決済とは別に、下記の現品確認のためのステップを経なければなりません。

Step1. ブラジル国内において、高級宝石の価格を設定して、国に登録します。
Step2. ブラジルの税関を通すために、事前に通関税(約20%)を国に支払う必要があります。10億円高級宝石であれば、2億円程度となります。
Step3. 通関業者に依頼して日本に運びます。その際に、保険料、運搬料、保管料が必要となります。 全体の1.5%程度。
(1) 保険料…1,000Ctsエメラルド 775万円
(2) 往復運搬料 20,000$×2=220万円×2=440万円
(3) 保管料…6,000$/週=66万円/週 66万円/週×1ケ月(4週間)=264万円
    合計 保険料+運搬料+保管料=1,479万円=1,500万
Step4. 日本での現物確認が終了してブラジルに戻って来た場合に、事前に支払っていた通関税(約20%)は戻ってきます。

画像の説明

 今回、ミエメイブツJapan合資会社(社長:諸戸タカノリ)は、日本に本社をブラジルに支社を設置しました。これにより、現物確認をするために、高級宝石を日本に持ち込む際支払っていた、通関税の事前納付の必要はなく、後日納付で済むようになりました。

(3) 書類の流れ

 商品を輸出する場合、商品が相手先に届いて、現品確認してから決済では、輸出側は不安です。従って、あらかじめ輸入側銀行から輸出側銀行へ信用状の発行を行なっておくと物事がスムーズに運べます。すなわち、信用状を確認して商品を発送でき、商品が相手側に届く前に信用状に基づいた決済が行えるからです。

 従って、信用状が発行できる銀行を選ぶ必要があります。商品を受け取る企業が信頼のおける企業であれば、メインバンクも喜んで信用状を作成してくれます。しかし、信用状取引は、ある程度貿易が進んでからの話でしょう。

信用状の流れ

 輸出側が商品を発送して向こうについてからの決済では、長期になるため資金不足となる可能性があります。そこで、輸入業者側にお願いして、取引のある銀行に信用状を発行してもらいます。そうすれば、輸入業者側の銀行から輸出業者側の銀行へと信用状を送ってもらい、これによって自分の取引のある銀行から支払いを受けることができます。信用状の流れは下の図のようになります。

画像の説明

 信用状決済の長所は下記の様になります。
(1) 輸入者側の銀行が輸出代金の支払いを保証してくれるので、安心して輸出貨物の仕入れの手配・船積ができます。
(2) 信用状があると手形金額全額に対して銀行がすぐに支払ってくれるので、船積とほぼ同時に輸出貨物の代金を回収できます。
(3) 信用状があると、輸出貨物の仕入れ資金を銀行が安心して融資してくれます。

 実際には、信用状の送付連絡を受けて、商品を発送する時に、荷為替手形を銀行に提供し、輸出側銀行はこの手形と船積書類(インボイス、船荷証券、保険証券)を準備して輸入側銀行に送り、これら船積書類を輸入業者側に渡すと、為替手形の決済を行ない、順に決済が行われて行きます。

失敗例

(1) ピンクダイヤモンド取引の失敗例

1. 価格設定の誤り

画像の説明

① ピンクダイヤモンドについては、鑑定書は世界に多く出回っています。従って、世界のBuyer間で価格がほぼ設定されています。今回我々が設定した1,185万$は、標準価格の1,075万$に対し、約10%高目となっていました。

② 小粒エメラルドについては、我々の設定した価格は9,900円/Ctに対し、6,000円/Ctと言われました。結局、屑の部類との判定されました。

2. 現品確認の必要性
① ピンクダイヤモンドの様な高級品については、鑑定書や写真があっても、現品の確認がなければ取引きは成立しません。
② 従って、高級品については、まず日本に持ち込む算段をする必要があります。

3. 業界の事情認識不足
① 高級品の交渉においては、Buyer側が決めた取引日程に合せないと、交渉において足下を観られてしまいます。今回は、契約の前に税金支払を行ったため、決済日が契約の前に確定し、非常に不利な交渉をせざるを得ませんでした。
② 高級品については、Buyerは幾つかの流通ルートを通して情報を取り寄せ価格設定し、より安価な方で成約させます。情報戦と言えます。

(2) 海外からブラジル医療品を輸出する案件の失敗例

認証について

 医療品をブラジルが他国から輸入する場合に考慮しなければならない点は、
1) 医療品としての認証取得(800万円)
2) 税関への商品登録
の2つがあります。

1) 医療品としての認証取得(800万円)
① これは代理店の問題とも関連して来ます。メーカーがブラジルに支店を設置し、この支店がANVISA認証を取得する場合には、ブラジルで認証仲介だけをやっている業者に頼み、手続きを進めます。販売は支店を通して行ないます。
② ブラジルの商社と代理店契約を結べば、代理店がANVISA認証手続きを行ないます。この場合、メーカーは複数の代理店と契約して、それぞれにANVISA認証を取らせて、複数のルートで販売を行ないます。
③ メーカーが、1つの代理店と独占販売契約を結び、ブラジル内では1つのルートのみで販売することもあります。
④ 諸戸氏の場合は、②に相当し、複数の代理店間での値段戦略で流れるルートが決まります。

2) 税関への商品登録について
 支店または代理店が、商品を国外から輸入しようとする場合、税関に商品登録を行う必用があります。商品登録では、価格を設定して、これに対して登録料を支払います。通常500万円必要です。後日、価格を引き下げようとしても、手続きが非常に面倒になります。従って、初めの価格設定が非常に重要になります。

商品を輸出する場合の税金

(1) 所得税(法人税)   IRPJ …15%
(2) 社会貢献税      CSLL … 9%
(3) 輸出税        IE …10%
(4) 工業製品課税   IPI …12%
(5) 社会貢献プログラム税  PIS …2.1%
(6) 消費税         ICMS …18%
      合計    66.1%

 ブラジルから宝石の販売代金1.8億円を日本に持ち出すには、
(1) ブラジルでICMS(消費税)…18%
(2) IRPJ(所得税)      …15%
(3) 日本で       消費税…10%
(4) 所得税          …40%
      合計     83%

 ブラジルと貿易しようとすると、ブラジル側で輸出・輸入それぞれにおいて、面倒な規制があり、本格的に貿易をしようとすると色々な壁が存在します。皆さんはどう思われますか。



コーディネーター's BLOG 目次