地政学リスクの高まり(その5)…ロシアの動きに即応するNATO

NATO(北大西洋条約機構)とは

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 NATOの特徴は、加盟国のどこかの国が武力攻撃を受けた場合、全加盟国への攻撃とみなして共同で守ると決めていることです。このように自国が攻撃されなくても、自国と密接な関係にある国が攻撃されたとき、防衛のために共同で立ち向うことを「集団的自衛権」といいます。外務省によりますと、現在、NATOに加盟している国の軍事費は合計で1兆485億ドル(約120兆5775億円)、軍隊は約332万人(ともに2021年推計値)です。

 NATOは1949年に設立されました。当初はアメリカ、イギリス、フランスなど12か国でした。当時、世界は自由な経済を支持するアメリカを中心とした西側諸国と、土地や工場などの生産手段を国が管理する社会主義を掲げる旧ソ連(現在のロシアなど)を中心とした東側諸国が「冷戦」と呼ばれる睨み合いをしていました。NATOは冷戦下、西側諸国の安全を守るために生れましたと言えます。

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NATOの最近の動き

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 2022年2月24日のロシアによるウクライナへの侵攻を受け、米欧が東欧防衛の強化を急ことになりました。ベラルーシがロシア軍の拠点になったことに加え、ウクライナにロシア軍が常駐する事態になれば、国境を接する東欧諸国への脅威は格段に高まるためです。北大西洋条約機構(NATO)は防衛目的で即応部隊を初めて派遣し、東欧での抑止力強化を急ぎました。




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 NATOの即応部隊の派遣決定を受け、米軍は部隊を参加させる用意があると、米国防総省は2022年2月26日、ツイッターで強調しました。更にNATOのストルテンベルグ事務総長は2022年2月25日、最大4万人から構成する多国籍の即応部隊の一部を東欧諸国に派遣し始めたと明らかにしました。米軍も参加し、陸海空の防衛力を強化します。同盟国の防衛を目的とした即応部隊の派遣は初めてとなります。特にポーランドドやルーマニア、バルト3国への増派を繰返しています。ポーランド駐留米軍は9000人規模と2倍以上に増え、東欧には最新ステルス戦闘機F35や攻撃型ヘリコプター「アパッチ」を新たに配備しました。1月下旬にフランスはルーマニアに部隊、オランダはブルガリアへ戦闘機をそれぞれ送ることを決めています。

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 米欧が東欧防衛を強化するのは、ロシアの脅威が高まっているからにほかなりません。ロシアがウクライナ侵攻を始める前から、ストルテンベルグ氏はロシアの行動について「欧州のニューノーマル(新常態)と指摘し、軍事侵攻が東欧にまで広がるとの懸念を示していました。実際、今回のウクライナ侵攻ではロシアが近年強めてきたベラルーシへの影響力が浮き彫りになりました。ロシアはベラルーシに3万人規模の部隊を送り、ウクライナ侵攻の拠点の一つとしました。ポーランドのラウ外相は2022年2月上旬、米メディアのインタビューで「ロシアのベラルーシでの軍増強は恒久的なようだ」と語っています。

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 ベラルーシはロシアによる核兵器配備の受け入れにも前向きな姿勢を示しています。ベラルーシの国営メディアによるとルカシェンコ大統領は2022年2月17日、外部からの脅威に直面した場合、自国への核兵器配備を容認することもあり得るとの認識を示しました。2022年2月27日に行う憲法改正案に関する国民投票を経て、核兵器の受け入れに向けた法整備を進める方針です。ベラルーシにロシアの核兵器が配備されれば、欧州への安全保障上の脅威はさらに高まります。米国務省高官は2022年1月中旬、記者団に対し「極めて重要な問題で注視している」と語っています。

 ルカシェンコ政権は過去には欧州とロシアのいずれとの関係も重視するバランス外交を展開していましたが、2020年の国内の大規模デモの抑圧でロシアの協力を得てからは、一気に同国への傾斜を強めています。これに加えてウクライナもロシアの影響下に置かれれば、東欧とロシアとの間の大きな緩衝地帯がなくなることになります。NATOによる東欧への増派にはロシアが猛反発するのは必至です。NATOとロシアの部隊が近くで向かい合う局面が増えれば、不測の事態が起こるリスクも高まります。

フィンランドとスェーデン北欧2ケ国、NATO加盟

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 フィンランドとスウェーデンが2022年5月15日、北欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への加盟を正式に加盟しました。NATOにとっては北方の守りを固めるうえで重要な意味を持ちますが、ロシアと接する境界が約2倍に増えることで有事の衝突リスクも高まります。膨らむ国防費をどう捻出していくかも課題となります。

 「歴史的な瞬間だ。この機を逃してはならない」。北欧2ケ国の加盟申請セレモニーでNATOのストルンベルグ事務総長は述べました。ロシアのウクライナ侵攻で欧州の安全保障環境が揺らぐなか、冷戦後に東方へ拡大してきたNATOは北方にも拡大することになります。北欧2ケ国の加盟はNATOにとって軍事作戦上の利点があります。バルト海に面する両国が加わることで、ロシアの飛び地カリーニングラードを拠点とするロシアのバルト艦隊への圧力を強められます。

 フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、ロシア本土とカリーニングラード、ベラルーシに囲まれたバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の安全保障にも資することになります。もっとも、ロシアとの国境が約1300kmにも及ぶフィンランドの加盟が実現すれば、NATOが接するロシアとの境界線は現在の約2倍に達することになります。NATOとロシアを隔てていた「中立国」がなくなることで、両陣営が直接対峙する構造が強まります。

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集団的自衛権

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 北大西洋条約の第5条は、NATO加盟国が武力攻撃を受けた場合、全加盟国に対する攻撃とみなし反撃する集団的自衛権を明記しています。加盟国への攻撃に対する抑止力になる一方、加盟国と第三国の間に偶発的な衝突があれば地域紛争が各国を巻き込む事態にエスカレートする可能性もあります。国際法を無視してロシアがウクライナ侵攻を続けるなか、NATO加盟各国が財政支出を増やして、軍備を厚くすることも求められます。NATOは2024年までに各加盟国の国防費(GDP)の2%以上とする目標を掲げますが、NATO資料によると2021年時点で条件を満たしたのは米国や英国、ポーランドなど8ケ国にとどまります。

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 フランスのマクロン大統領は4月の大統領選公約で国防費増を掲げました。ドイツのショルツ首相も早期に2%以上とする考えを示しています。とはいえ、新型コロナウィルス禍で講じた大規模な経済対策が財政を圧迫するなかで大幅な増額は容易ではなさそうです。スウェーデンのストックホルム国債平和研究所(SIPRI)によると、2021年時点のフィンランドとスウェーデンの国防費のGDP比は2.0%と1.3%でした。



 ロシア外務省はフィンランドとスゥェーデンのNATO加盟に「軍事的な対抗手段を講じるかは、外国軍の基地を受け入れ、攻撃システムを配備するか次第だ」との声明を出しました。この後どの様に事態は展開して行くのでしょうか、皆さんはどう思われますか。



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