地政学リスクの高まり(その8)…脱ロシアと脱炭素を両立させる戦略

EUが脱ロシアと脱炭素に係る具体案提示

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 2022年2月下旬にロシアがウクライナに侵攻したのを受けて、欧州連合(EU)の欧州委員会が、ロシア産エネルギーからの脱却に向けた具体策を示しました。再生可能エネルギーのエネルギー消費に占める割合を2030年に45%に引き上げるなど気候変動対策との両立をめざす内容です。急激なエネルギー構造の転換には、加盟国から異論も出そうです。

 「ロシアの化石燃料からできるだけ早く自立するために、野心をもう一段階高めていく」とフォンデアライン欧州委員長は演説で力説しました。ロシアがウクライナに侵攻してから、ロシア産エネルギーへの依存度が高い欧州ではエネルギーの供給構造を見直す機運が高まっています。3月中旬のEU首脳会議では、ロシアの化石燃料への依存を段階的に解消することで合意しました。欧州委が提示したのはその具体案です。こだわったのが気候変動対策を後退させないことでした。その中、ガスや石油などの価格が高騰し、エネルギー供給に懸念が出る中、一部の加盟国からは環境対策を一時棚上げすべきだとの声が出ていました。

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 だがこの気候変動対策の推進はフォンデアライエン氏が2019年の就任以来掲げてきた1丁目1番地の重要政策です。方向転換とみられるわけにはいかず、エネルギー供給と温暖化対策を両立する道を探っています。欧州委幹部は、記者団に「再生エネを増やせば、その分ロシアだけではなく、世界の化石燃料を使わなくて済む」と強調しました。

 とはいえ、急激なエネルギー転換には反発も出そうです。そもそも欧州委は30年の排出削減目標を1990年比40%減から55%減に引き上げ、2021年7月に再生エネや省エネの目標も見直したばかりでした。エネルギーのロシア脱却が急務とはいえ、供給構造の転換には価格高騰や企業の人員削減などの副作用を伴います。ただでさえ、達成は厳しいといわれていた野心的な目標を実現するのは簡単ではなさそうです。

 欧州委の提案について、EU各国は2022年5月末の首脳会議で議論を始める見通しですが、合意には時間がかかりそうです。加盟国はロシア産エネルギーへの依存脱却と気候変動対策という総論ではおおむね一致しているものの、各論では立場は異なるためです。

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 そもそも欧州委は2022年5月初旬にロシア産石油の輸入を年内に停止する追加制裁案を公表しましたが、加盟国はいまなお合意に至っていません。ロシア産石油への依存度が高いハンガリーが反発しているためです。EUは水面下の調整でハンガリーを含む一部の加盟国向けに禁輸までの期限を延ばす譲歩案を示したようですが、ハンガリーは納得していない模様です。

 ロシア産エネルギーの依存解消と制裁は表裏一体です。EUはロシアのエネルギーに年間約1000億ユーロ(約13.3兆円)を支払い、ロシアの戦費を間接的に負担していると批判されています。欧州委は依存解消を急ぐために、新型コロナウィルス対策で設けた復興基金の資金を活用できるようにする案も提示しています。

ウクライナ侵攻の影響、脱炭素に商機

 2022年3月7日の日経新聞に掲載された記事の内容です。

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 ロシアがウクライナに侵攻し、新型コロナウィルス禍からの回復を探る世界経済に冷や水を浴びせかけました。そこで、エネルギー価格の高騰や物流停滞の影響について、三菱重工業の社長に聞きました。

 脱炭素の動きをどう見ていますかの問いに、「省エネや脱炭素に向けた投資意欲は旺盛です。将来は水素も燃料として使えるガスタービンの引き合いが増えています。欧州連合(EU)が定める基準では、ガス火力は水素を混ぜるか、水素だけで燃焼させることを視野に入れないと新設できません。三菱重工は燃料に水素を30%混ぜて燃焼させる技術にめどをつけました。2025年には100%燃焼させる技術を用意したいと考えています。」との回答が得られました。

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 次に脱炭素の潮流は止まるのかの問いに対し、「顧客の投資判断の基準が変わってきています。経済合理性だけでなく、経済と環境を両立させるために必要な投資だとの考え方が登場しています。そのために必要となる水素やアンモニアの燃焼や二酸化炭素(CO2)を回収して処理する技術・製品を提供するのが我々の責務だと考えています。」「ただし、水素なら燃やすだけでなく、つくり、運び、貯めて使うという一連の技術がつながらなければ成り立ちません。パートナーと組み、これらをシステムやバリューチェーンに統合していかなければなりません。2023年度から高砂製作所で水素の製造から発電まで一貫して実施する検証を始めます。」との回答を得ました。

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 原発の役割はの問いに対し、「政府は30年度に電源に占める原発の比率を20~22%と定めています。次の世代を考えるとこの目標を達成した後に、原子力をどう位置付けるのか国のビジョンが必要ではないかと考えています。小型モジュール炉(SMR)や核融合など、その先の技術にもチャレンジが必要です。三菱重工はなんとか踏みとどまっても、協力企業はある程度仕事がなければ技術伝承を含めて厳しくなると予想されます。」という回答が帰って来ました。

 脱ロシアと脱炭素に係る具体案提示はEUが最前線で頑張っています、日本もエネルギー安全保障は大きな位置づけにあり、脱炭素問題と絡めて進めて行くべきであると考えますが、皆さんはどう思われますか。



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