地政学リスクの高まり(その10)…ゲームの理論で核戦争の解決法を考える

 現在ロシアがウクライナを侵略して、ロシアと欧米の対立が起こっています。ここでロシアが核を使い、欧米も核を使うことになれば、大勢が死ぬことになるので最悪の選択となります。まさにチキンゲームです。以下このチキンゲームを、典型的なゲーム理論であるナッシュ理論を用いて検討し、ロシアと欧米の対立に当てはめて今後どうすれば良いのかを考えてみます。

チキンゲームの考え方

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 暴走族Pと暴走族Qが下っ端同士の鍔迫り合いから泥沼の抗争に発展し、このままでは収拾がつかないと判断したリーダー同士が話し合い、2人のチキンゲームで決着をつけることにしました。

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 一直線の道路の端と端に車を停め、スタートの合図で全速力で走り出し、互いに向かって正面から突進するゲームです。先にハンドルを切って避けた方がチキン(臆病者)とされ、今後相手の暴走族の傘下に入らなくてはなりません。

 そのまま直進し続けた場合は「腹が据わっている」と賞賛され、暴走族PとQの連合リーダーになれますが、もし両方が直進し続けた場合は間違いなく命を落としてしまいます。

 両方が同時に避けた場合は、今回の抗争を2人のリーダーの引退で手打ちにするということが、双方の幹部会で取り決められました。

 チキンゲームについての利得表は、下図のようになります。

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・ 直進・直進を選んだ場合には、大事故となるため両者-10で(-10、-10)。
・ 1人が直進、1人が回避した場合には、直進した者が+1、回避した方がビビリの判定を受けるので-1。
・ 回避・回避の場合には、気まずいだけなので(0、0)。
 
Aの気持ち(左側に表示)で考えますと、
・ Bが直進を選んだ場合には、自分も直進になると-10なので、-1の回避を選びます。
・ Bが回避を選んだ場合には、直進1、回避0なので、1の直進を選びます。

次にBの気持ち(右側で表示)で考えますと、
・ Aが直進を選んだ場合には、Bは-10と-1で、-1の回避を選びます。
・ Aが回避を選んだ場合には、Bは1と0で、1の直進を選びます。

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 どのプレーヤーも戦略を変更する誘因を持たない、お互いの最適化の組み合わせであるナッシュ均衡は、(1、-1)、(-1、1)の2ケ所できます。ナッシュ均衡とは、相手がある方策で来た場合の当方の最適な対応策を意味します。従って相手の方策が判っておれば自分にとって最適な方策を立てることができます。しかし、相手がどの方策で来るかは分かりませんので、勝負に勝てるかどうかは相手の方策を予測する精度で決まります。


 パレート改善とは、ある集団に対するある資源の分配を変更する際に、誰の効用も悪化させることなく、少なくとも一人の効用を高めることができるように資源配分を改善することを言います。本事例のチキンゲームの場合、パレート改善ができるのは、(-10、-10)から(-1、1)、(1、-1)、(0、0)の変更を指します。

 また、バレート最適とは、ある経済状況において、他の個人の効用を下げなければ、いかなる個人の効用も上昇させることができない状態を言います。本事例のチキンゲームの場合、(1、-1)(-1、1)と(0、0)がパレート最適に該当します。例えば(0、0)を(1、-1)に変える場合は、Aは効用は上がりますが、Bは反対に下がりますので、(0、0)はパレート最適です。

 このチキンゲームでは、ナッシュ均衡2ケ所、パレート最適3ケ所のゲームとなっています。

 チキンゲームでは、とにかく最悪だけは避けなければという例です。死んでしまっては何もなりません。パレート改善は(-10、-10)から(0、0)の選択になると思います。なぜなら、(1、-1)(-1、1)を選択すれば、回避した方がビビったと今後侮られますので、両者が回避する場合の(0、0)が最も好ましいわけです。

ロシアのウクライナ侵攻へのチキンゲームの適用

 チキンゲームでは、争う両者が死んでしまうという最悪だけは避けなければという例でした。現在、ロシアのプーチンはかなり核の使用をにおわせていますが、欧米側はこれに対抗してはなりません。両者が核使用に走れば、最悪の結果を招くことになります。何か別の方法を考えるべきです。

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 ロシアと欧米の交渉の決裂が「最悪の結果」ですので、これを避けるために、相手に譲歩させてこちらに有利な条件をいかに飲ませるかが勝負になるといえます。

 チキンゲームではナッシュ均衡が2カ所ありました。ロシアのケースでは、ロシアが核戦争を仕掛けて欧米が回避する、あるいは欧米が核戦争を仕掛けてロシアが回避する場合がナッシュ均衡に相当します。しかし、これでは予想に反して相手が逆の戦略を採れば一遍に最悪の事態を招きます。これを避けるためにパレート改善を考えることになります。

 因みにパレート最適は、ある経済状況において、他の個人の効用を下げなければ、いかなる個人の効用も上昇させることができない状態を言いました。ロシアの例でいえば、「欧米が回避-ロシアは核使用」、「欧米が核使用-ロシアは回避」、「欧米・ロシアともに回避」は、まさにパート最適でこれ以上の改善はありません。従って、最終結論をここに持ってくるようなパレート改善を考えることになります。

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 チキンゲームでのパレート改善は、ある集団に対するある資源の分配を変更する際に、誰の効用も悪化させることなく、少なくとも一人の効用を高めることができるように資源配分を改善することを言いました。ロシアの例でいえば、両者のいずれかが核使用の戦略を回避あるいはいずれも回避するような交渉の場を作り出すことと言えます。


 その様な状況を作り出す場面では、間に立って交渉の場をセットする第三者が重要な役割を果たすことになります。両方にとって利害関係がほぼ同じで信頼できる国でないといけません。しかし、なかなかこれと言った第三者が見つからないのが現状です。さて、皆さんであればどのような手を打ちますか。



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