地政学リスクの高まり(その12)…ロシアの全面撤退が前提となる停戦

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 2023年12月1日に日本経済新聞社がキーウの大統領府にてウクライナのゼレンスキー大統領にインタビューを行いました。ゼレンスキー大統領はロシアとの停戦について、ロシア軍が全領土から退くことが前提との立場を強調しました。大きな課題であるミサイル防衛の体制づくりについては、日本との技術協力に期待を示しました。

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 さらに、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が深まり、「世界の関心が中東情勢に移ってしまった」と指摘し、主要国によるウクライナ支援が後退することに懸念を示しました。ただ、「将来、平和と安全を得られるのは、ロシア軍が我が国の領土からいなくなった場合だけだ」とも言明しました。「我が国の領土を、ロシアのものだと認めることはない」として、あくまでも全領土の奪回を目指す考えを繰り返しました。

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 戦闘が膠着するなか、米欧などの一部には停戦を促す声が出ていますが、交渉には応じない姿勢を改めて鮮明にした格好です。最近の戦況に関して「何列にもわたって要塞が築かれている領土を奪還するのは、非常に難しい」と指摘しました。武器が足りない上、「ロシア軍が空を完全に支配していると語り、苦戦を強いられていることを認めました。

 停戦に否定的な理由としては、2015年のミンスク合意をはじめ、ウクライナと交わした数々の停戦合意をロシアが破ってきた経緯を挙げました。このため停戦が成立しても、軍事力が回復すれば、ロシアは再び侵略してくると結論づけました。停戦交渉に代る和平への道筋では、10月下旬、マルタで3回目の会合が開かれたウクライナ和平会議を挙げました。その中で、早急に首脳級の会合を開き、ロシア軍の全面撤退などをうたった自らの和平案への支持を広げる方針を示しました。マルタ会合には60ケ国以上が集まり、ウクライナの和平案を議論しました。ただ、ロシアは参加しておらず、どこまでロシア軍の撤収につなげられるかは不透明です。

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 因みにミンスク議定書は、2014年9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印しました、ドンバス地域における戦闘(ドンバス戦争)の停止について合意した文書です。これは欧州安全保障協力機構(OSCE)の援助の下、ベラルーシのミンスクで調印されました。以前から行われていたドンバス地域での戦闘停止の試みに添い、即時休戦の実施を合意しています。しかしドンバスでの休戦は失敗しました。そして2015年2月11日にはドイツとフランスの仲介によりミンスク2が調印されました。

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 2021年から2022年にかけてロシア・ウクライナ危機が対立の激しさを増し、ついに2022年2月21日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領はドンバス地域の独立を承認しました。翌22日の会見で、ミンスク合意は長期間履行されずもはや合意そのものが存在していない、として破棄されました。2022年2月24日にはウクライナの非軍事化を目的とした特別軍事活動を承認し、ロシア軍によるウクライナへの全面侵攻が開始されました。

 2022年12月7日、ドイツの『ツァイト』誌に掲載されたインタビューのなかで、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相が、「2014年のミンスク合意は、ウクライナに時間を与えるための試みだった。また、ウクライナはより強くなるためにその時間を利用した」と述べました。そして、ミンスク合意やミンスク2によって時間を稼いだことにより、ロシア側からの侵略は度々あったものの、アメリカを始めとする西側諸国からの様々な軍事的支援を受け取ったり、ウクライナ軍やウクライナ国家親衛隊に対し軍事訓練を施したりすることが可能となったことも事実です。

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 日本との協力を巡っては、デジタル化やエネルギー、インフラ分野に期待を示しました。同時に、ミサイルやドローン(小型無人機)攻撃への防空体制が、緊急の課題だと説明しました。「防空問題についても日本側に話した。将来のため(協力を)検討する必要がある」と述べました。中国に求める役割では「和平の道筋にもっと強力に関与するよう、強く望む」と迫りました。いかなる軍事支援も、ロシアに提供しないでほしいとも要請し、殺傷兵器だけでなく、軍事技術も渡さないよう求めました。

 最近、北朝鮮がロシアへの軍事支援を強めていることにも、深い懸念を示しました。「約100万発の砲弾供与が話題になっていることを知っている。極めて大量だ」と不安を示しました。

 ゼレンスキー大統領が示す停戦の最低条件は「ロシア軍の全面撤退である」とする意思は相当固いものと思えます。これに対し今後欧米、日本はどう対応して行くのでしょうか。皆さんはどう思われますか。



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