コーヒーブレイク…磁気冷凍技術とヒートポンプ技術の凄さ

ガス液化冷凍技術

画像の説明

 水を温めて蒸発するには、100℃という一定温度の下で分子間の結びつきを弱めてかつ切り離して空気中に自由に飛び出させるための気化熱という潜熱が必要です。従って、反対に水蒸気を100℃という温度下で液体に戻すと、蒸気になった段階ですでに外に仕事をしてエネルギーを放出しているので、液体に戻す時には放出した熱量に相当する分温度が下がります。このように、ガスを液化させる時に液体の温度は潜熱分だけ下がるという原理をガス液化冷凍技術は用いている訳です。

 図は種々の液化ガスの温度とその温度下で気体が液体に変わることのできる蒸気圧を示、しています。蒸気圧とは、分子の運動により、液体が気体になろうとする圧力のことです。

 ◯印は臨界温度を示し、気体に圧力をかけて液体にできる最高の温度を指します。従って、それぞれのガスは、この臨界温度より低温では、その温度に見合う圧力で液体になることを示しています。高圧下では分子の動きが制限され、エントロピが低い状態で、外部に仕事をしてでも圧力を下げようとします。従って、低圧になれば外部に仕事をした分だけ温度が下がります。

画像の説明

 具体的に例えばCH4の線を見てみます。190KはCH4ガスが液化できる限界温度であり、その時の圧力は50kg/cm2です。190K以下では、CH4ガスを加圧してやればそれに見合った温度でガスから液体になることを示しています。100Kまで温度が下がれば0.3気圧という低い圧力で液化できます。

 このように、常温で加圧液化したガスを1気圧に戻して得た低温で、次のガスを加圧液化して、また1気圧に戻せば、さらに低温に到達できます。臨界温度の順にガスを並べて、次々に液化しては低温に降りていこうというのがガス液化冷凍のカスケードです。

画像の説明

画像の説明

 エントロピーとは、インクの拡散や熱が高温から低温に向かってしか流れないといった、自然の不可逆な一方通行の現象を指します。高圧に置かれたガスが外部に仕事をしながら低圧に移る現象もエントロピーの増大となります。多数の分子の集団が、多数のパターンを持つ確率の高い状態へ次々と移って行く至極自然な現象です。エントロピーは、その時その時の温度で出入りした熱量をそれぞれの温度で割った量の積分なのですが、「エントロピーは常に増大する」と表現して、自然の一方通行の物理法則として確立されました。

 このように、ガス液化冷凍では、液体からガスへの状態変化が一定温度で生じ、かつ気化熱といった潜熱が必要であることがポイントとなります。このように潜熱とは、融解熱や蒸発熱のように状態変化のために使われて、温度変化として現れない熱量のことを指します。

逆カルノーサイクル

 カルノーサイクルは高温から熱量を入れて、低温に一部を流しながら、外部に仕事を取り出すサイクルです。一方、逆カルノーサイクルは、外から機械エネルギーを注ぎ込んで気体を圧縮し、圧縮下で温度上昇させ、低温から熱を引き出して、高温に流せるようにしたものです。すなわち熱を低温から高温に汲み上げることに相当し、低温側を冷凍として使用します。

 図は逆カルノーサイクルを図示したものです。

画像の説明

 まずBからAにガスを圧縮します。V(体積)が小さくなってP(圧力)が高くなり、T(温度)が上がるのを外から水をかけてやります。実は外に熱を取り出しているのであって等温圧縮に相当します。

 AからDですが、圧縮でエントロピーが減ってしまって、今度は膨張したがるのを自前でやりなさいというのがこの行程で、断熱膨張に相当します。ここでは運動のエネルギーを消耗してでも仕事をし、温度がT2に下がります。エントロピー増大の法則を逆手にとった蒸発の潜熱の利用と全く同じメカニズムとなっています。

 蒸発の潜熱の利用とは、液体状態にある水分子の結びつきを解いて、分子同士が大きく動ける気体状態に100℃の温度下で進みます。これはエントロピーの増大であり、これを進めるには潜熱が必要です。一方、その潜熱を与えた側では運動のエネルギーが消耗して温度が下がります。

 DからCは、低温での等温膨張を続ける過程です。膨張に伴って本来ならば温度は下がりますが、外から熱を流れ込ませて等温に保っている訳です。

 最後にCからBですが、断熱圧縮でもとの高温に戻して、冷凍マシンのサイクルが完成します。ここで外部から機械エネルギーを注いでいることになります。

磁気冷凍技術

 ガス分子を等温的に高圧にして(圧縮する際に発生する温度上昇を逃してやる)、断熱的に低圧に膨張すると、気体から液体への状態変化が起こり、その際に膨張時に仕事をした分だけ潜熱の分温度が下がるのがガス冷却です。

 一方、磁性体中の磁気モーメントに等温的に磁場をかけて(磁場をかける際に発生する温度上昇を逃がしてやる)、磁化した後、断熱的に磁場を消去すると、磁気モーメント系の温度は下がります。これが磁気冷却です。

画像の説明

 図のように磁性体は二つの構成要素から成ります。1つは、磁気系であり、物質を作っている1つ1つの原子の位置に1つ1つの小さなミクロな磁石(磁気モーメント)が置かれて構成されている1つの体系です。

画像の説明








 磁性体を磁場の中に入れると、ミクロの磁石達は自分が乗っている原子の位置の運動とは別に皆一様に揃って磁場の方向に並びます。地場ゼロのもとで、温度が高いというのは、磁気モーメントの向きがばらばらになっている状態であり、磁場がかかり温度が低いというのは、磁気モーメントがきちんと揃っている状態です。エントロピーは低い状態にあると言えます。

磁気冷凍の実証試験

 米国NASAのブラウン博士は1975年に磁気冷凍の可能性を初めて具体的に示しました。その実験を紹介すると以下の様になります。

 図の(a)で、磁性体に7テスラの磁場を加えると、磁気モーメントは整列します。このことは、磁気エントロピーが減少するということで、磁性体は余分な磁気エントロピーを熱の形で放出し、磁性体そのものの温度は低下します。このため、魔法瓶の中の上部液体の温度が上昇します。これが冷凍サイクルの第一の磁性体の磁化放熱過程です。

 次にこの7テスラの一定の磁場を加えたまま、断熱容器をゆっくり引き上げ、(b)を通って(c)の位置まで持ってきます。これは等磁場過程と呼ばれ、この過程では、中部および下部の冷たい水とアルコールの混合液に熱を与え続けながら磁化が進んで、エントロピーはさらに減少します。

 こうして、この二つの過程を経た後では、断熱容器の上下方向に温度勾配ができています。上部は室温より高く下部はほぼ室温と見たらよいでしょう。さらに(c)位置のまま、今度は磁場をゼロに戻して行きます。磁性体の磁気エントロピーは増加しなければなりませんが、この増加分を熱の形で外部(液)から取り込むため、下部液温が降下します。消磁冷却過程です。

 最後に外磁場はゼロのままの状態で断熱容器をゆっくり降ろして(d)を通って(a)の状態に戻せば冷凍の1サイクルが完結します。

画像の説明

 この(c)⇒(d)⇒(a)の過程では、ガドリニウム金属は磁化ゼロに戻されて、エントロピーは増加した状態になりますので、温度は下部および中部の液体より低くなります。従って、磁性体は液から熱、それは(b)⇒(c)の間の等時性過程で磁性体から放熱して液にためておいた熱、を取り出しながら、磁化は減少し、エントロピーは増大してもとに戻ります。

 (a)に戻った状態では、上部液体およびガドリニウム金属の温度は出発の時の室温ではなく、はじめの過程で上部液体が上昇した温度にほぼなっています。したがって、液の上下方向の温度勾配はさらに大きく広がっています。すなわち、格子系の熱容量をまるまる磁気エントロピーで背負う代わりに、水+アルコールの混合液(蓄冷液)にそれをため込んだり、放出させたりする作用をさせるのです。

 以降、このサイクルを繰り返すと上下方向の温度勾配はますます大きくなります。ブラウンは50回繰り返して、上部は55℃、下部はマイナス25℃の状態を作ることに成功しました。

高効率熱利用を実現するヒートポンプ

 日本では1980年代にビル用のマルチエアコンが誕生し、1台の室外機で複数の室内機を個別制御できるヒートポンプが注目を浴びました。最近では、このヒートポンプを温泉のボイラーシステムに置き換える試みが検討されています。

 温泉は、通常は灯油やC重油をボイラーで焚いて35℃程度の源泉を42℃程度に温めるのが一般的です。しかし、最近では、温泉運営の効率アップを図るため、ヒートポンプシステムを温泉のボイラーシステムに置き換える試みが検討されています。

画像の説明

 上図は、温泉に使用されたヒートポンプの1例です。これまで使用されていたボイラーを使用しなくても、42℃までの温熱を発生させることが可能となっています。右側のヒートポンプシステムでは、温水ユニットにヒートポンプを内蔵し、低温側では温泉の排水を利用して熱エネルギーを取り込み、高温側では冷媒を活用して、35℃の温泉湯を42℃の温泉湯に温めています。この装置では、源泉湯加熱ユニットにヒートポンプを内蔵し、源泉湯を直接加熱しています。ボイラーで蒸気を作り、その蒸気で源泉湯を加熱する従来の加熱システムと比べて、CO2排出量を約70%程度削減することが可能と試算されています。

 ヒートポンプで熱を汲み上げる原理は、一般的に温度と圧力の関係を利用しています。すなわち、「気体は圧力がかかると温度が上がり、圧力をゆるめると温度が下がる。」(ボイル・シャルルの法則)、「熱は温度の高い方から、低い方に流れる。」(熱力学第2法則)という、二つの基本的な性質を利用します。

 以下、ヒートポンプを使ってお湯を沸かす例をもとに図で原理を説明します。

 1の蒸発器には、外気より低い5℃の液体が入っています。この蒸発器の液体は、30℃の外気で温められ、蒸発して10℃の気体になります。

 次に、10℃の気体は2のコンプレッサで圧縮され、温度が80℃まで上昇し、3の凝縮器に入ります。この凝縮器の外側に10℃の水を流します。凝縮器の中の80℃の気体は、水で冷やされ50℃の液体となります。一方、水は温められ、60℃のお湯ができます。

 ヒートポンプは、このように外気の熱を取り込み、水に伝えることでお湯を作ります。

 最後に、50℃の液体を4の膨張弁を通して急激に圧力を下げます。急激に圧力を下げると、膨張弁を通った液体も、50℃から5℃まで温度が下がります。

 そして、また1の蒸発器に戻ります。

画像の説明

 ヒートポンプを使うと、どれ位経済的かについての目安ですが、電気ヒーターは1kwの電気が入って来れば、1kw分の熱を発散しておしまいです。しかし、ヒートポンプシステムは、1kwの電気を使って、空気の熱を3kw分汲み上げられるので、電気で暖める時の4倍(1+3)の熱を生み出すことができます。

 これはまさに冷媒の潜熱を上手く使っていることに他なりません。潜熱とは、「液体から気体」「気体から液体」への変化の様に、相変化のある場合には、気化熱、液化熱という熱の働きがあるのでこれを利用することになります。

 基本的に冷媒の臨界温度の高いことがポイントとなります。「臨界温度が高い」という性質は、冷媒の潜熱を使う目安になります。この臨界温度が、ヒートポンプ運転時の凝縮温度より高い場合には、より多くの潜熱が利用できます。「液体から気体へ」や「気体から液体へ」の変化の様に、相変化がある場合の潜熱利用によって、有効な冷却能力を取り出せます。

松本のモブロン設計事務所

 松本のモブロン設計事務所には、2002年(平成14年)7月と2002年(平成14年)8月20日に訪問しています。訪問の際には、社長の大井川宣次さんから「磁気冷凍の原理」や「磁気冷凍の応用」について幾つか面白い話を聞けましたので紹介します。

 実験の出発温度を、液体ヘリウムの1°Kとします。この温度で電磁石に電流を通し、磁性体を強く磁化すると、磁性体は発熱します。この磁化熱はヘリウムガスの熱伝導で外側の液体ヘリウムに運ばれて、1°Kでの等温磁化が完成します。ばらばらに向いていた磁気モーメントが磁場の方向に向きを揃えて、エントロピーの減少した状態が実現します。

 強く磁化した磁性体を断熱状態にしてから磁場を消して行きます。この等温消磁過程では良い熱伝導状態にするために入れたヘリウムガスを、上部のコックを開けて高真空に排気します。断熱状態になったところで磁場を消して行きます。

 磁性体は断熱消磁によりその温度を更に低めて行きます。こうして磁性体の温度は、出発温度が低ければ低いほど、磁化するための磁場が強ければ強いほど、低温に到達します。消磁した後の磁場がゼロに近ければ近いほどより低温に到達します。

画像の説明

高温磁気冷凍が実用化されない理由

 まずは磁気エネルギーの一般的な考え方についてですが、低温の磁性体は超電導コイルの部分の磁場に引き付けられて回転し、磁場によって発熱します。発熱すると磁性体の磁力が消失するので、回転しやすくなります。後はこれの連続となります。

画像の説明

 出発温度が高くなるほど、等温磁化して磁気系のエントロピーを減少させる際に、磁気系に加える外磁場はより大きくなります。高温になるほど格子系の熱容量が大きくなってその分だけ大きい冷凍能力、磁気エントロピーが必要となります。

磁石の挙動に関する興味ある現象

 永久磁石とボンド磁石を組合せると面白い現象が得られます。

画像の説明

 ある距離までは、ボンド磁石の存在により、同じ極同士の作用で反発力があります。しかしある距離を超えて押し付けると、介在する液の温度上昇でボンド磁石の磁性が消え、もともと存在する永久磁石の極性が得られます。隙間には1気圧でも十分に温度が上昇する媒体(フロン、メチルクロライド1ataで110℃)を入れておきます。押し付けを解除して通常の永久磁石になると、上昇していた温度は今度は常温に戻り、ボンド磁性体の磁力が回復します。後は同じ様に力を加え接近させるという動作を繰り返してやります。永久磁石にコイルを配置しておけば、磁束の変化により電流が流れます。

画像の説明

 磁気冷凍やヒートポンプは「熱の移動」技術です。熱を移動させることにより温熱を生成すると同時に一方で冷熱を生成させるという、とてもユニークな特徴を有しています。この磁気冷凍やヒートポンプについて皆さんどう思われますか。



コーディネーター's BLOG 目次