パンデミックの脅威(その1)…世界における感染症の歴史

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 感染症とは、寄生虫・細菌・真菌・ウイルス・異常プリオンなどの病原体の感染により宿主に生じる病気の総称を指します。感染症体内に微生物が侵入し、増殖することでおこります。感染症は、歴史を通じて人々の生活や社会に大きな影響を及ぼしてきました。天然痘、コレラ、ペスト、スペイン風邪、そして最近では新型コロナウイルスなど、感染症は時代を超えて私たちの歴史に名を刻んでいます。これらの感染症がもたらした影響は、単なる健康問題だけでなく、社会や文化、さらには国際関係にまで及ぶものでした。感染症の予防や治療には、ワクチンの開発や抗生物質の使用が主要な手段として取り入れられています。しかし、病原体の変異や抗生物質耐性の問題も浮上しており、新たな課題として注目されています。

感染症の歴史の重要性

 人類の歴史を通じて、多くの感染症が過去に大流行し、多くの命を奪いました。しかし、これらの危機を乗り越えることで、人類は医学や社会の進歩を遂げてきました。特に、感染症との戦いは、医学の発展や社会の変革に大きな影響を与えてきました。

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 異なる時代や文化背景の中での感染症の役割や影響は多岐にわたります。中世ヨーロッパではペストが大流行し、多くの人々の命を奪いました。また、20世紀初頭のスペイン風邪は、世界中で数千万人の命を奪いました。これらの感染症は、当時の社会や文化に大きな影響を与え、人々の生活や価値観を変えてきました。感染症の歴史を通じて、私たちはその時代の社会や文化の背景を理解してきました。

ペスト(14世紀)

 14世紀のペスト(黒死病)は、ヨーロッパの人口の約3分の1を死亡させる大流行となりました。1346年~47年にかけて、コンスタンティノープルから地中海各地に広がった疫病の流行は、マルセイユ、ヴェネツィアに上陸、1348年にはアヴィニヨン、4月にはフィレンツェ、11月にロンドンへと西ヨーロッパ各地に広がり、翌年には北欧からポーランドに、1351年にはロシアに達しました。発病すると高熱を出し、最後は体中に黒い斑点が出来て死んでいくので「黒死病(black death)」と言われました。恐ろしい伝染力を持つこの疫病は、現在ではペストと考えられています。

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 ペストの大流行の発生源は解っていませんが、ペスト菌を媒介するノミがクマネズミから人間に移り、伝染させます。クマネズミはもともとヨーロッパにいなかったのですが、十字軍の船にまぎれ込んで西アジアからヨーロッパに移り住んできたのだと言われています。

スペイン風邪(1918年)

 一般的に1918年から1920年にかけ全世界的に大流行したH1N1亜型インフルエンザは、初期にスペインから感染拡大の情報がもたらされたため、この名で呼ばれています。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によるインフルエンザ・パンデミック重度指数(PSI)においては最上位のカテゴリー5に分類されています。

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 全世界で5億人が感染したとされ、 世界人口(18億-19億)のおよそ27%(CDCによれば3分の1)とされており、 これには北極および太平洋諸国人口も含まれます。死亡者数は5,000万-1億人以上、おそらくは1億人を超えていたと推定されており、人類史上最も死者を出したパンデミックのひとつです。現状の歴史的・疫学的データでは、その地理的起源を特定できていません。また、なぜ終息したのかも、依然として研究対象となっています。パンデミックが始まった1918年は第一次世界大戦中であり、世界で情報が検閲されていた中でスペインは中立国であったため戦時の情報統制下になく、感染症による被害が自由に報道されていました。一説によると、この大流行により多くの死者が出たことで徴兵できる成人男性が減ったため、第一次世界大戦の終結が早まったといわれています。

SARS(2002年)

 重症急性呼吸器症候群は、SARSコロナウイルス (SARS-CoV-1) によって引き起こされるウイルス性の呼吸器疾患です。動物起源の人獣共通感染症と考えられています。ウイルス特定までは、その症状などから、新型肺炎、非定型肺炎などの呼称が用いられました。

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 2002年11月から2003年7月にかけて、中華人民共和国南部を中心に起きたアウトブレイクでは、広東省や香港を中心に8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡しました(致命率9.6%/WHO発表)。このアウトブレイク終息後は、封じ込め宣言後いくつかの散発例がありましたが、現在に至るまで、新規感染報告例はありません。

新型インフルエンザ(2009年)

 インフルエンザとは、インフルエンザウイルス急性感染症を指します。上気道炎症状・気道感染症状、呼吸器疾患などを呈します。流行性感冒、略して流感とも呼ばれます。

 病原となるインフルエンザウイルスにはA型・B型・C型・D型の4種類があり、そのうちA型・B型は季節性インフルエンザの病原ウイルスです。季節性インフルエンザは全ての年齢層に対して感染し、世界中で繰り返し流行しています。日本などの温帯では、冬季に毎年のように流行します。通常、11月下旬から12月上旬頃に最初の発生、12月下旬に小ピークを迎えます。学校が冬休みの間は小康状態で、翌年の1-3月頃にその数が増加しピークを迎えて4-5月には流行は収まるパターンですが、冬季だけに流行する感染症では無く夏期にも流行することがあります。A型は平均相対湿度50%以下になると流行しやすくなると報告されています。

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 全世界では毎年300万人から500万人が重症化し、呼吸器症状により29万人から65万人の死者を出しています。先進国における死者は65歳以上の年齢層が最も多くなっています。2009年に豚由来インフルエンザであるインフルエンザウイルスA(H1N1)pdm09が世界的に流行した当初は、世界平均で1957年のアジアかぜ(0.5%)と類似する死亡率でした。

エボラ出血熱(2014年)

 エボラ出血熱またはエボラウイルス病は、感染者が必ずしも出血症状を呈するわけではないため、国際的には呼称がエボラ出血熱からエボラウイルス病へ切り替わりつつあります。主にアフリカで発生します。

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 ヒトに感染し、治療開始が遅れると致死率は80 - 90%に上ります。また、仮に救命できたとしても重篤な後遺症を残すことがあり、リスクグループレベル4ウイルスの1つです。一方、毒性や致死率があまりにも高く、遠出する機会を得る前に患者が死亡してしまうことが専らであることから、世界的流行には至っていません。この点が、致死率が比較的低いため軽症の患者が遠出しやすく世界的大流行を引き起こした新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症との違いとなっています。

新型コロナウィルス感染症(2019年)

 2019年に発生した新型コロナウイルス感染症は、COVID-19の正式名称で呼ばれ、SARSコロナウイルスがヒトに感染することによって発症する気道感染症です。2020年に入ってから世界中で感染が拡大し、2022年8月までに感染者数は累計6億人を超え、世界的流行(パンデミック)をもたらしました。2023年5月5日、世界保健機関(WHO)は、ワクチン普及や治療法の確立によって新規感染者数や死者数が減少していることを踏まえ、2020年1月30日に宣言した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を終了すると発表しました。緊急事態宣言に法的強制力はありませんが、各国に対して防疫体制の強化などを勧告するものであり、緊急事態宣言が解除されたことで各国がウイルスへの警戒度を下げた上で対策を緩和することとなります。

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 2024年4月の時点ですが、新型コロナの感染拡大の懸念は収まっているものの、まだまだマスクを着用している人も多く見られます。3~4年にわたる行動制限が解除され、本当に一息ついているこの頃ですが、皆さんは如何でしょうか。



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