パンでミックの脅威(その2)…新型コロナウィルスの怖さを知る
新型コロナウィルス感染症は、2020年3月11日に世界保健機関(WHO)が「パンデミック」、すなわち世界的大流行と表明し、2023年5月5日にこれを終了すると発表しました。結局3年に亘って世界が苦しめられたことになります。世界全体での感染者数5億人、死亡者数650万人です。
各国政府は対応に追われました。人類は天然痘、インフルエンザなど、多くのウィルスと戦ってきました。自然破壊が進み、経済がグローバル化する中、ヒトが免疫を持たない新たなウィルスは今後とも出現し続けると言われています。
ウィルスは肺炎などの感染症を起こす病原体で、肉眼で見ることができない微生物の一種です。病原体となる微生物には真菌(カビ)、細菌(バクテリア)などがありますが、ウィルスは最も小さく、マスクでも防げません。
細菌は自力で複製し、子孫を残す能力がありますが、ウィルスは自力で複製することができません。従って、ウィルスはほかの生物の細胞に感染、寄生することでしか生きながらえず、子孫を残すことができません。結核など細菌による感染症には抗生物質が著しい効果を発揮しますが、ウィルスには効き目はありません。
ウィルスは自分の遺伝子を細胞内に放出し、自身の遺伝子やたんぱく質を作らせて増やします。乗っ取られた細胞は、死んで炎症などを引き起こします。増えたウィルスは体外に出て感染を広げます。
世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的な大流行)を宣言した新型コロナウィルスの感染拡大や流行は長期化するとの見方が強いようです。謎が多いウィルスの正体解明は治療薬開発の短縮化や長期的対策の立案まで網羅的な支援につながりそうです。
最近、新型コロナウィルス感染症の治療の難しさを克服する手掛かりが見えてきつつあります。ウィルスの侵入時の結合の強さや体内での増殖のしやすさなどに関与する研究成果が相次いでいます。これらの成果は、欧州にみられるような爆発的患者急増(オーバーシュート)への警戒が各国で強まる中、流行の予測や治療薬開発を後押ししそうです。
高齢者の重症化防止や、水面下での感染者の小規模集団(クラスター)形成の防止に向け、ウィルスが人に感染するメカニズムの解明が克服への焦点の1つとなっています。
新型コロナウィルスは、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)と持っているゲノム情報の8割は同じです。だが、無症状の人から感染し、軽症から重症までの症状にばらつきがあるなど、SARSとは違う点も目立ちます。「長期間定着する可能性もあるやっかいなウィルス」です。
具体的な研究として、クラスター形成の原因の1つとされる感染力の強さに関するメカニズムの解明につながりそうな成果が出て来ています。米テキサス大学などが米科学誌サイエンスに公表した成果によると、新型ウィルスの表面にある突起のたんぱく質が、人の細胞に侵入する時の入り口となるたんぱく質と結合する力が、SARSなどと比べて強いことがわかっています。人から人へのうつしやすさや感染拡大のしやすさなどにかかわっている可能性があるとのことです。群馬大学の神谷教授は「ゲノム配列が似ていても、ウィルスのたんぱく質などが違えば、症状や免疫反応などに変化が出る可能性がある」と指摘します。
感染すると重症化する人が多いSARSに対し、症状にばらつきが出る謎に迫る成果もあります。メキシコ国家科学技術審議会は、無症状の感染者や患者のウィルスから増殖に必要な遺伝子の一部がSARSと異なることを突き止めました。人によって微妙に異なる可能性もあり、どのような人が重症化し、軽症にとどまるのか突き止める手掛かりになる可能性があるとのことです。
一方、新型コロナとSARSの酷似性もウィルスの構造から確実となり、治療薬開発への道が得られました。ウィルスの細胞への侵入経路は、新型コロナとSARSは共に「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」を利用し、一致していることを米国立衛生研究所の研究グループが突き止めました。さらに、ウィルスが細胞の中で増えるときに最も重要なたんぱく質の立体構造を中国の上海科技大学などが解明し公開しました。東京工業大学の関嶋教授らによるとSARSのたんぱく質とよく似ているといいます。
SARSは発生から半年で終息したため、治療薬やワクチン開発が中断しました。当時途中まで研究が進んでいた薬候補を臨床試験などにつなげれば、開発期間を短縮できます。すでにSARSの治療候補の1つだったカレトラは、国内の患者の治療のために試験的な投与が行われました。
2020年末には新型コロナウィルスに対し、「メッセンジャーRNA(mRNA)」技術と呼ぶ新手法を使ったワクチンが開発終盤で相次ぎ高い有効性を示しました。米製薬新興モデルナと同大手のファイザーが共に90%を超える高い数値を達成しました。mRNAは他の感染症予防やがん治療にも応用が利きます。対コロナでの研究努力が医療のイノベーションを促しています。
新型コロナウィルスは、細菌とは異なり、他の生物の細胞に感染し、寄生するという特殊な動きをします。このウィルス独特の動きを抑えておくことが非常に重要に見えます。皆さんはどう思われますか。