パンデミックの脅威(その3)…各種新型コロナウィルス検査キットの使い分け
日本では2020年3月半ばから新型コロナウィルス感染症が広がりました。また、2020年3月11日には、世界保健機関(WHO)が「パンデミック」、すなわち世界的大流行と表明しました。早期終息は見通せなくなり、各国政府は対応に追われました。そして、2023年5月5日にこれを終了すると発表しました。結局3年に亘って世界が苦しめられたことになります。世界全体での感染者数5億人、死亡者数650万人です。
新型コロナウィルスの検査について、現在
・ PCR検査…Polymerase Chain Reaction test
・ 抗原検査…Antigen test
・ 抗体検査…Antibody test
の3つがあります。これら検査の特徴と使用方法について比較調査をしてみました。
Ⅰ.PCR検査
PCRとは(Polymerase Chain Reaction : ポリナーゼ連鎖反応)の略語で、ポリナーゼとはDNAやRNAというウィルス遺伝子を構成する一部を指します。PCR検査は、ある特殊な液体に検体を入れ、ウィルス遺伝子の特徴的な一部分を切り取り、連鎖反応で増幅させる検査です。つまり、患者から取ってきた検体を特殊な液体につけることで、もしそこに新型コロナウィルスがいれば、その中の特有の一部分を見つけ、その部分を切り取り増幅させることで、新型コロナウィルスがいるかどうかを判定できる、という検査です。
PCRを利用すれば、ごく微量な検体/サンプル(血液、組織、細菌、ウイルス等)であっても、そこに含まれるわずかなDNAから、特定の配列だけを短時間で増やすことで目的の微生物や遺伝子配列が存在しているかを知ることができます。このPCRの特性を活かして、体内や食品などに潜む細菌やウイルスを検出し、遺伝子の研究や、DNA鑑定など幅広い分野で利用されています。
DNAは、正確にはデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)といい、デオキシリボースという糖と、リン酸、そして塩基という三つの成分で構成される非常に長い鎖のような高分子です。さらにDNAに使われる塩基にはアデニン(A)チミン(T)シトシン(C)グアニン(G)という4種類があり、このA-T-C-Gの並び方で遺伝子が決定されます。DNAは通常二本鎖が一組となる、らせん階段のような構造をしています。
この2本の鎖は、熱を加えると離れて一本鎖になり、冷やすと二本鎖として元の配列同士が結合する特性があります。PCRはこのDNAの特性を利用しています。PCRでDNAを増幅させる工程は大きく3つのステップから成ります。これを”サイクル”と呼び、PCRの基本的な単位になります。
ステップ1(熱変性)
DNAに熱を加える(通常95℃程度)と、2本の鎖が分離し、1本ずつの鎖になります。
ステップ 2(アニーリング)
次に徐々に温度を下げていきます(通常55℃~65℃、プライマーの長さや配列による)。これにより、ステップ1で一本鎖にしたDNA鎖のターゲット部分にあらかじめ反応液の中に入れておいたプライマーが結合します。一般的に、プライマーは15~30塩基の長さからなる一本鎖の短い合成DNA断片です。元の長い鎖同士も再結合しようと試みますが、プライマーの方が短く、圧倒的に量が多いので、元のDNA同士が結合するよりも早く反応が進みます。
ステップ 3(伸長)
再び、温度を上げます(72℃位)。DNAポリメラーゼが作用して新たなDNA分子が合成されます。プライマーを起点として、下流方向に向けてそれぞれの鎖を鋳型に、対となる鎖が作成されるのです。
ステップ1~3の”サイクル”によって一組の二本鎖DNAから二組の二本鎖DNAができる計算になります。したがって、このサイクルを繰り返すことで、DNAを2倍、4倍、8倍と、増幅させることができます。
PCR検査は、保健所で行っており、現時点ではクリニックや病院を通じてでないと、保健所でPCR検査ができないことになっています。新型コロナウィルスのPCR検査の結果(感染している人を調べた場合、陽性と出る確率)は70%と言われています。また、陰性率(感染していない人を調べた場合、陰性と出る確率)は99%ほどと言われています。つまり、感染していても30%の人は陰性となり見過ごされてしまい(偽陰性)、感染していなくても1%の人は陽性(偽陽性)と誤った診断を下されてしまうのです。
日本国民の1/100の100万人が検査を受けたとしても、誤って陽性と判断された1%、すなわち1万人(偽陽性者)に対して病院のベッドやホテルの部屋が必要となります。全国のベッドが13,000であるのに対してかなり大きな割合を占めます。
新型コロナウィルスのPCR検査は、現時点では1日から数日かかります。現在研究が進んでおり、数時間で結果が出るPCR検査も開発されています。
検査方法としては、インフルエンザの検査と同じく、鼻から綿棒を入れて、鼻咽頭の拭い液から検査を行ないます。唾液から検査できる方法も今後行われることになり、検査者の負担がかなり軽減されます。日本では医療体制確保の観点から、このペースで検査を絞って医師が必要と判断した患者のみPCR検査を行う方法が良いとされています。一方、ブラジルではできるだけ多くの人に主として抗体検査を行っています。
2.抗原検査
我々に馴染みのあるインフルエンザの簡易検査が抗原検査です。抗原とは、体内に侵入したウイルスや細菌、異物などのことで、免疫細胞が認識し、働きかけることができる分子のことです。
鼻咽頭から検体を採取し、ウィルスに特有の物質をくっつく物質が入った液体に入れます。数分で結果が出ます。インフルエンザウィルスの検査はかなりの確率で偽陰性や偽陽性が出ます。つまり感染していないのに陽性を出したり、感染しているのに陰性を出したりします。新型コロナウィルスでも抗原検査はPCR検査と比べてかなり正確性は劣るようです。抗原検査は、PCR検査よりも正確性に劣ることは間違いなく、PCR検査を補う検査の位置付けということになります。
3.抗体検査
抗体とはウィルスが体内に入ってきた時に、ウィルスを体内から除去しようと、身体が作り出すたんぱく質です。ウィルスに結合することで、ウィルスを排除します。抗原ウィルスが体内に入ってから数日から数ケ月して抗体が作られます。抗体を体内に持つことで、再度同じウィルスが体内に入ってきても、抗体がウィルスにくっついて排除してくれます。
抗体検査の方法ですが、細い針を指先に刺し、数滴血を検査キットに垂らします。数分待てば結果が出て、陰性か陽性かがわかります。
抗体検査が陽性の意義ですが、抗体検査が陽性だと、以前に新型コロナウィルスにかかったことが証明されます。また今後、同じ新型コロナウィルスが入ってきても、抗体が排除してくれて感染しないとされています。軽症でかかった場合と重症になった場合とでは、作られる抗体の量が違います。軽症でかかった場合でも、生涯抗体が継続してくれれば良いといえます。
抗体検査は正確なのかという点ですが、抗体検査を受けて結果が陰性の場合、今後もなるべく人混みを避けて生活していく必要があります。抗体検査が陽性の場合、二度目はかからないという前提の上では、仕事に出社しやすくなるし、人混みを避ける必要もなくなります。
抗体検査では、過去の経歴も現在感染しているかどうかも分ります。過去の経歴についてはIgM抗体が、現在の感染についてはIgG抗体によって検出可能となります。ただ、抗体は感染してすぐには作られません。発症してしばらくは血液中の抗体を測定しても検出されない時期がありますので、これが問題です。
ウィルスのどの期間の抗体なのかによって微妙に異なりますが、新型コロナウィルスでは発症から概ね2週間くらいで8割の人が、概ね3週間くらいでほぼ全ての人がIgMまたはIgGが陽性になります。しかし、この図を見てお分かりの通り、発症して間もなくは抗体を測定しても検出されない方が多いので、新型コロナの抗体検査が陰性であっても発症して2週間未満であれば、「新型コロナではないとは言えない」ということになります。
一方、ワクチンですが、抗体を作るために打つ注射がワクチンなのです。身体に害のない範囲で弱毒化した新型コロナウィルスを体内に注入し、抗体を生産させます。
国によってどの方法を検査に使うかは、人口との兼ね合いで考え方が異なります。人口1.2億人の日本では最も精度の高いPCR検査を指定しています。一方、2.2億人のブラジルは抗体検査を指定しています。皆さんはどう思われますか。