パンでミックの脅威(その4)…PCR検査で誤りが起こる確率

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 本論説は「PCR検査の精度、より具体的には同検査の【偽陽性】と【偽陰性】に関して」と題して、2020年9月21日版日経新聞Analysis欄に、滋賀大学の竹村彰通教授が述べたものです。



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 PCRとは(Polymerase Chain Reaction : ポリナーゼ連鎖反応)の略語で、ポリナーゼとはDNAやRNAというウィルス遺伝子を構成する一部を指します。PCR検査は、ある特殊な液体に検体を入れ、ウィルス遺伝子の特徴的な一部分を切り取り、連鎖反応で増幅させる検査です。つまり、患者から取ってきた検体を特殊な液体につけることで、もしそこに新型コロナウィルスがいれば、その中の特有の一部分を見つけ、その部分を切り取り増幅させることで、新型コロナウィルスがいるかどうかを判定できる、という検査です。
 
 【偽陽性】は「感染していない人が検査で陽性と出てしまう誤り」であり、より日常的な用語を用いれば「誤検出」です。逆に、【偽陰性】は「感染している人が検査で陰性と出てしまう誤り」であり「見逃し」です。

 検査は完璧でないから誤りは一定の確率で起きます。偽陽性率、偽陰性率は、これらの誤りがおこる確率(割合)です。データサイエンスの観点から興味があるのは、PCR検査の偽陽性率、偽陰性率の実際の値ですが、実は正確にはわかっていないようです。2020年7月6日の政府の第1回新型コロナウィルス感染症対策分科会の資料では、「偽陰性率は30%、偽陽性率は1%」と「仮定」して、PCR検査の拡大の影響を論じていますが、数字の根拠は与えられていません。

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 PCR検査で注目されるのは、感染していない人が陽性となる偽陽性率が低い、すなわち誤検出がまれであるという点です。これは新型コロナに特徴的な遺伝子を増幅するというPCR検査の原理からも理解されます。ただし、偽陽性率の実際の値がなぜ1%なのかは、PCR検査の拡大の影響を論じる際には重要です。

 もし、偽陽性率が1%ならば、陰性の人を1万人調べると100人が陽性と誤判断され、無駄な隔離などの措置が必要となります。日本ではこのことをもってPCR検査の拡大は必ずしも望ましくないという議論がなされているわけで、偽陽性率が0.01%であれば医療体制への負荷は大きくはなりません。

 香港では、12万8千人を検査して陽性が6人だったというデータも発表されており、偽陽性率は1%よりはかなり小さいと考えられます。なお、最近では様々な簡易的な検査が利用されるようになっていますが、それらの偽陽性率については、まだ十分なデータが得られていないと思われます。

 一方で、PCR検査の偽陰性率は30%程度で、実際は感染しているのに見逃しが3割程度あると考えられています。これでは「陰性証明書」の信頼性は低いと言えます。実は偽陰性率は、ウィルス量や感染からの日数によることが観察されており、単一の数字では表せないことがわかっています。今後、さらなるデータと研究成果の蓄積が求められます。

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 偽陰性率が大きいことへの対処法は、検査の繰り返しが考えられます。実際、厚生労働省の新型コロナ感染症患者の退院基準(6月12日)では、24時間以上の間隔をおいて2回の検査で続けて陰性となることを退院の基準の1つとしています。

 日本は新型コロナウィルスの感染有無を判断する方法としてPCR検査を用いています。PCR検査は他の検査方法である、抗原検査、抗体検査に比べ検査精度は高いと言われています。それでもその検査精度が色々と問題になります。

条件付き確率の問題として偽陰性を考える

 高校で学ぶ数学Aの領域に確率があります。確率の中で条件付き確率という項目があり、そこで扱っている内容は、まさに新型コロナ感染における判定の誤り、すなわち、
・偽陽性…感染していない人が検査で陽性と出てしまう誤り
・偽陰性…感染している人が検査で陰性と出てしまう誤り
という問題を数学的に扱うものです。以下、具体的にその扱い方を紹介します。

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 「1億2千万人を擁する日本国内では、新型コロナ感染者数は3千4百万人に達しました。感染していない人の割合72%に対し感染している人の割合は28%です。一方、日本で行われたPCR検査では感染しているのに陰性と診断された偽陰性の人が30%であり、感染していないのに陽性と診断された偽陽性の人は1%との結果がでました。現実的には、感染しているのに陰性と判断された偽陰性の人に対する入院ベッドが後に必要になるのでこれが問題です。」

 これを図で示すと下の様になります。

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 病気に感染している事象を X、病気に感染していない事象をXバーで表します。
陽性であると診断される事象Y、陽性でないと診断される事象をYバーで表します。

(1) 病気に感染している人の確率、および感染していない人の確率は、次の様になります。

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(2) 病気に感染している人が正しく陽性であると診断される確率、および誤って陰性であると判断される条件付き確率(偽陰性)は、次の様になります。

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(3) 病気に感染していない人が誤って陽性と診断される確率(偽陽性)、および正しく陰性と診断される確率

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(4) ここで陽性である人は、感染している人が陽性となる場合と、感染していない人が陽性となる場合の2通り考えられるので、陽性となる確率は

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 従って、陽性と診断される確率は

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 また、陰性と診断される確率は

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(5) 従って、陽性と診断された人が、本当に新型コロナに感染していた確率は下記となります。

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(6) また、陽性でないと診断された人が、本当は新型コロナに感染していた確率は下記となります。

 まず、陽性でなく、かつ、感染している人の割合は

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 従って、陽性でないという前提のもとで、新型コロナに感染している人の割合は

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 結局、陽性でないと診断されているのに、本当は新型コロナに感染していた人の割合は1/100でした。従って、人口1億2千万人に対し、120万人いることになり、これらの人は後に入院が必要となるので、ベッドの確保が大変なこととなります。また、検査方法によって求められる確率は大きく異なるように思えます。他の国々は、この辺の判断をどの様に取り扱っているのでしょうか、気になりますが皆さんはどう思われますか。



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