パンデミックの脅威(その5)…新型コロナ禍の経済への影響

 新型コロナウィルス感染症は、2020年3月11日に世界保健機関(WHO)が「パンデミック」、すなわち世界的大流行と表明しました。その後3年間猛威をふるいますが、2023年5月5日にこれを終了すると発表しました。結局3年に亘って世界が苦しめられたことになります。世界全体での感染者数5億人、死亡者数650万人です。

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 新型コロナウィルス感染症の蔓延は、日本の経済社会に多面的な影響を及ぼしました。その中で、当初予想されていたことが、どの様な結果になって行ったのかを今回は追いかけてみました。

1. 景気のV字回復はありえないという予想

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 GDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、「国内総生産」のことを指します。1年間など、一定期間内に国内で産出された付加価値の総額で、国の経済活動状況を示します。付加価値とは、サービスや商品などを販売したときの価値から、原材料や流通費用などを差し引いた価値のことです。極めてシンプルに例えるならば、付加価値とは儲けのことですので、GDPによって国内でどれだけの儲けが産み出されたか、国の経済状況の良し悪しを端的に知ることができます。

当初の予想

 第一線のエコノミストの将来予測を集計する日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(2020年6月)によりますと、国内総生産(GDP、前期比年率)は2020年1~3月期▼2.2%のマイナス後(実績)、4~6月期は▼23.0%の大幅マイナスとなり、その後7~9月期は+9.1%、10~12月期+4.8%と一転して高い成長と予想していました。

実 績

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 コロナ下の日本のGDPは、2020年1~3月期実績▼2.2%の後、4~6月期は▼27.8%(予想▼23.0%)、7~9月期は▼0.3%(予想+9.1%)、10~12月期+3.0%(予想+4.80%)でした。更に、2021年1~3月期は東京都などへの緊急事態宣言の発令による個人消費の落ちこみが全体を押し下げGDPは▼1.3%とまたまたマイナス成長に転じてしまいました。この様に、実績は予想に及ばず、V字回復は起こりませんでした。






2. 東京五輪の開催は中止されるのではとの予想

当初予想

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 2020年開催東京五輪ですが、楽しみにしている人は多いなか、開催中止になるのではとの予想が広がっていました。2020年末時点で全世界では依然、1日15万~20万人規模で新規感染者が増え、5千人以上の死者が出続けていました。ワクチンが行き渡るのもまだ先になりそうでした。世界各地で五輪の予選を行うのは難しいし、観客も集まらないのではという状況でした。一方で、今後さらなる経済対策も求められるだろうし、ワクチンの全国民摂取のための財源も必要になりそうです。残念ではありますが五輪の東京開催は諦め、浮いた人的資源、財源をコロナ対策に振り向けるべきではないかというのが大方の予想でした。

実 際

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 東京五輪は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行を受け、2020年夏の開催日程(同年7月24日開会)から1年延期して2021年に開催されました。大会延期により開催年は変わりましたが「東京2020」の名称に変更はありません。開催の延期は近代オリンピック史上初めてのことであり、そして、奇数年に開催されたのも夏季・冬季問わず史上初となりました。


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 2020東京オリンピック・パラリンピックは2021年9月5日ですべての日程を終え、総括する大会組織委員会の記者会見が開かれました。橋本会長は「コロナによって分断された世界だからこそ、スポーツの力で世界を一つにするという大会の価値と開催の意義を多くの方に理解してもらえたのではないか」と大会開催の意義を強調しました。そのうえで「社会や地域が融合しなければ、この大会はオールジャパンでできなかったと思う。日本が大会を開催する力を持っている国なんだということを世界に発信することができたのは大きな意義があった」と述べました。また、ほとんどの会場が無観客になったことで、財政面の負担増加が見込まれどこが負担するのかが大きな課題として残されたことについて、武藤事務総長は「国や東京都と意見交換しながら解決策を見いだしていきたい」と述べました。

3. 長期的な課題である財政再建問題の後回し

当初予想

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 コロナショックの中で、これまでは与野党ともに積極的な財政支出に熱心であったため、財政再建問題は政治的には言及されていませんでした。後始末は増税を意味するから、当然多くの国民は拒否反応を示します。それが分かっているので政治的アジェンダ(政策における重要課題)にはならなかったのです。しかし、大盤振る舞いのツケは誰かが払わなければなりません。いずれは東日本大震災の時のような増税が必要になると予想されると言われていました。






実 際

 内閣府は、2021年1月21日開かれた経済財政諮問会議で、財政の健全性を示す「基礎的財政収支」の最新の試算を示しました。2020年度は69兆4000億円の赤字となり、赤字額は新型コロナウイルスの感染拡大前の1年前に示した試算から4倍以上に膨れ上がりました。財政再建への道のりは一段と険しくなっています。

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 政府は政策にあてる経費を国債などに頼らず、税収などでどれだけ賄えるかを示す国と地方をあわせた「基礎的財政収支」という指標を2025年度に黒字化する目標を掲げていました。しかし、コロナ禍の中、今後の見通しについては、実質で年間2%程度の高めの経済成長が続く想定でも、政府が黒字化を目指す2025年度は7兆3000億円の赤字で、黒字化の実現は目標より4年遅れて2029年度になるとしています。

4. 金融市場の混乱

コロナショツク時点

 新型コロナウイルスについては、2020年の2〜3月時点では未知のウイルスがどこまで拡散し、経済や相場への影響を及ぼすか予想が非常に困難でした。過度に保守的な対応を行う投資家が続出したため、株式などリスクの高い資産は急速に売却され、株価の下落が助長されてしまいました。こうして株価は2〜3月にかけて急落し、アメリカなど主要市場では3月の後半に底値を迎えました。

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現 実

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 今回のコロナショックを取り巻く相場変動の一つの特徴は、株価の回復も非常に早かったことにあります。例えば米国株では、S&P500で底値から約5カ月後の8月中にコロナショック前の高値を回復しました。実はこの急回復は、次の様な要因がありました。

 第一は、スピーディな対応の効果です。株価底値からの切り返しに真っ先に作用したのは、アメリカをはじめ世界中の金融政策・財政政策により、世の中にお金が出回りやすくなったことにあります。

 第二は金利の引き下げです。アメリカでは、金融政策による対応は3月にすでに始まっていて、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)は、3月中にもともと1.75%だった政策金利を0%まで引き下げています。「金利が高いと世の中にお金が出回りにくい」という原理は、逆に言うと「金利が低いと世の中にお金が出回りやすくなる」ということです。アメリカで実施された史上最低に並ぶ0%の政策金利で、企業などは低コストでお金を借りられるようになるため、世の中に多くのお金が出回るようになる、というメカニズムです。

 第三は資産買い入れです。アメリカでは金利引き下げと同時期に、大胆な資産買い入れ政策も発表されました。資産買い入れ政策とは、主に金融機関に対して行われるものです。金融機関が持っている債券など特定の有価証券を、FRBが買い取って、金融機関に現金を支給する政策です。金融機関は自身が保有する有価証券を減らし、代わりに現金を受け取ることになります。金融機関はこの政策によって資金が潤沢になるので、より積極的に貸し出しなどを行えるようになります。

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 第四は財政政策の実施です。コロナショック後の株価回復は「金融政策+財政政策」の合わせ技によって起こったと考えられています。例えば米国政府では2020年3月以降、現在に至るまで何度か財政政策を実施するのですが、株価反発(株価上昇)の大きな契機になったのは2020年3月27日に成立した政策でした。この時の政策では国民への現金給付や失業者への給付の上乗せ、中小企業への支援などが盛り込まれ、コロナショックによって企業や国民が被るダメージの緩和に役立つ内容でした。

 新型コロナ感染の世界的蔓延という厳しい状況の中、2020年3月の後半以降、中央銀行・政府が協調する形で政策が打たれたことが、株価回復につながりました。発表された政策自体がポジティブだったことが寄与したのはもちろん、今後コロナウイルスの感染がさらに拡大したとしても、「中央銀行・政府が適切に政策を行ってくれるだろう」という期待感が市場に醸成されたことが、株価回復の原動力になりました。皆さんはどう思われますか。



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