パンデミックの脅威(その6)…mRNAを活用した新型コロナワクチンの新技術開発

DNAの存在場所と基本構造

 私たちの体は、約60兆個もの細胞からできています。この細胞が分裂して増える時、「染色体」というX形の構造が現れます。

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 染色体の大きさは、約100分の1ミリメートルだから、高倍率の光学顕微鏡で観察できます。この染色体をほどいて拡大してみると、「ヒストン」というタンパク質に巻きついたひも状のDNA(デオキシリボ核酸)が見えてきます。このDNAこそが私たちの設計図です。すなわち、染色体はDNAがタンパク質に巻きついたものと言えます。

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 DNAが持つ一通りの遺伝情報を指して「ゲノム」と言います。1つ1つの細胞の中には、このゲノムのセットが2セット分、46本の染色体に分かれておさまっています。

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 DNAをさらに拡大していくと、1本の糸ではなく、2本の糸が対になってぐるぐると螺旋を形成しているのが見えてきます。この二重らせんの直径はわずか2ナノメートル(ナノは10億分の1)しかありません。

 DNAを拡大していきますと、1本1本のひもは、糖と塩基とリン酸の結合した化学物質が、順につながった構造をしていることがわかります。DNAを構成するこの1つ1つの化学物質(基本単位)は「ヌクレオチド」と呼ばれます。


 DNAは、正確にはデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)といい、デオキシリボースという糖と、リン酸、そして塩基という三つの成分で構成される非常に長い鎖のような高分子です。さらにDNAに使われる塩基にはアデニン(A)チミン(T)シトシン(C)グアニン(G)という4種類があり、このA-T-C-Gの並び方で遺伝子が決定されます。DNAは通常二本鎖が一組となる、らせん階段のような構造をしています。

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mRNAの作られ方

 DNAとRNA違いは、糖の成分がDNAではデオキシリボースなのに対し、RNAはリボースです。また塩基の4つ目がDNAではチミンなのに対し、RNAではウラシルです。その役割を見てみますと、DNAは主に遺伝情報の蓄積や保存の役割を担うのに対し、RNAはその情報をもとにタンパク質の合成に関わるなど、動的な役割を担っています。

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 DNAの設計図から、一体どの様にしてタンパク質は作られるのでしょうか。まず、DNAはRNA(リボ核酸)の形にコピーされます(転写)。RNAの基本単位もDNA同様ヌクレオチドであり、DNAとRNAは非常に良く似ています(但し、糖の種類が違います)。コピーの方法も、基本的にはDNAの複製と同じ方法です。但し、RNA鎖では、塩基「T(チミン)」の代わりに「U(ウラシル)」を使います。この様にして、細胞の核内でコピーされたRNA鎖は、「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ばれています。mRNAは、タンパク質の工場「リボソーム」へと向かい、ここでmRNAには「トランスファーRNA(tRNA)」と呼ばれる別の種類のRNAが結合します。

 tRNAは3つのヌクレオチドと、その反対側に1個のアミノ酸を持っています。tRNAは、自分の持つ3つのヌクレオチドで、mRNA上に並ぶ塩基3つ分を認識し結合をします。mRNAの隣の塩基3つにも同じ様にtRNAが結合して行きます。この様にして、アミノ酸が順に繋がっていき(翻訳)、最終的にタンパク質ができあがるのです。「DNAからRNAを経てタンパク質へ。この流れは、すべての生物の細胞に共通のものである。」と言われています。

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新型コロナウィルスに対するmRNA技術の有効性

 新型コロナウィルスに対し、「メッセンジャーRNA(mRNA)」技術と呼ぶ新手法を使ったワクチンが開発終盤で相次ぎ高い有効性を示しています。米製薬新興モデルナと同大手のファイザーがこのほど共に新型コロナに対する有効性が90%を超える高い数値を達成しました。mRNAは他の感染症予防やがん治療にも応用が利きます。対コロナでの研究努力が医療のイノベーションを促しています。

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 両社のワクチンは遺伝子に働きかけるmRNAの性質を使って体内で新型コロナのたんぱく質を作り出します。それを免疫細胞が捕捉し記憶し、本物のウィルスが侵入した際に素早く排除し感染を防ぎます。この仕組みはインフルエンザなどに使われる一般的なワクチンとは全く別物です。通常のワクチンは鶏卵などの動物細胞を使ってウィルスを培養した後、病原性をなくして使用します。ウィルスを扱うため厳重な設備が必要で製造に時間がかかります。mRNAは遺伝子配列さえ分かれば、素早く安全にワクチンを製造できるメリットがあります。

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 新薬コロナ向けmRNAワクチンの実用化が進めば、他の医療分野にも技術を転用しやすくなります。国内でワクチンを含むRNA医薬品を開発するナノキャリアの秋水士郎取締役は「あらゆる感染症に応用が可能だ。mRNAはワクチンのゲームチェンジャーとなる可能性がある」と話しています。例えばインフルエンザのような既存の感染症にも対応できるほか、新たなパンデミックが起きた際に短期間でワクチンをつくることが可能になります。人の細胞に働きかける作用を使い、がん細胞への免疫力を高める治療もmRNA技術でできるようになります。

 mRNAは細胞の核の中にあるDNAから情報を読み取り、細胞内で様々なたんぱく質を作らせる指令を出す物質です。遺伝子の配列さえ分かれば人工的に合成できます。mRNAに特定のたんぱく質を作らせる仕組みを活用し、感染症のほかにがん、心臓や筋肉のたんぱく質に異常が起こる難病まで様々な疾患に対する医薬品開発が進んでいます。皆さんどう思われますか。



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