パンデミックの脅威(その7)…新型コロナ感染流行の波の特徴
続く変異株の“いたちごっこ“
日本では2020年3月半ばから新型コロナウィルス感染症が広がりました。また、2020年3月11日には、世界保健機関(WHO)が「パンデミック」、すなわち世界的大流行と表明しました。早期終息は見通せなくなり、各国政府は対応に追われました。そして、2023年5月5日にこれを終了すると発表しました。結局3年に亘って世界が苦しめられたことになります。世界全体での感染者数5億人、死亡者数650万人です。
新型コロナウイルスは感染が始まって以来3年間、変異を繰り返していて、現在も感染力が強い新たな変異ウイルスの出現や拡大が懸念されています。
日本国内で初めて感染が確認されたのは中国の武漢で見つかったのと同じタイプのウイルスでしたが、2020年の春以降は変異が加わりヨーロッパで広がったウイルスが国内でも拡大しました。その後、感染力が強まった変異ウイルスが出現して日本国内にも流入し、2021年の春以降はイギリスで見つかった「アルファ株」、その後、2021年の夏以降はインドで見つかった「デルタ株」が広がり、重症化する患者が相次いで医療体制がひっ迫しました。
2022年の初めからは、南アフリカで最初に報告された感染力の強いオミクロン株が国内でも主流の状態が続きました。オミクロン株は「BA.1」というタイプが広がったあと、2022年春以降は「BA.2」が主流となりました。オミクロン株はそれまでの変異ウイルスと比べて特に若い世代では重症化する割合は低いものの、感染が広がるスピードは格段に早くなりました。より多くの人が感染するようになっていることから、亡くなる人も多くなっています。
そしてオミクロン株の中でも免疫を逃れる方向での変異が繰り返されていて、2022年夏以降は「BA.5」が主流となって感染拡大の「第7波」が起き、「第8波」では「BQ.1」の割合が多くなってきました。さらにより感染力が高いおそれがある「XBB.1.5」がアメリカで広がっていて、日本国内でも検出されました。
ウイルス学が専門で東京大学医科学研究所の佐藤佳 教授は「ワクチンを作っても変異株が出てきて逃げてしまうといういたちごっこが続いている。『XBB』系統は最も中和抗体が効かず、変異株との付き合い方は次の局面に入った印象だ。新型コロナには収束といった終わり方はなく、どのような形で流行を許容するのかという議論が必要な段階に入っている。世界的な議論で着地点を見いださなければいけない。」と話しています。
新型コロナの今後の感染対策
政府は、2023年(令和5年)5月8日から、新型コロナの感染症法上の位置づけを、厳しい措置がとれる「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行しました。
これについて松野官房長官は「厚生労働省の審議会で議論を始めたところであり、引き続き感染状況や科学的知見、専門家の議論なども踏まえつつ検討を行っていく」と述べました。
政府分科会の尾身茂会長は次のように話しました。「これから一番重要なことは『経済や社会を動かす』一方で『医療提供体制を維持すること』。その2つの目的を同時に実現することが必要だということです。『2類か5類か』の議論をする前に、この2つの目的を実現するためにどれが一番良い方法か、いまのコロナの特徴を踏まえた対策が必要だと思います。市民がどう考えるか、医療者がどう考えるか、簡単に結論を出すと言うより、深い議論が必要です。『これなら分かる』という納得感と共感がある議論が求められるのではないかと思います」。
以下、新型コロナ感染症の特徴について専門家の見解を紹介します。
一時的に強い集団免疫 東邦大教授 館田一博氏
「第5波」の感染者急減は一つの要因で説明できないような現象が起きました。いろいろな要因はありますが、私はワクチンの効果と基本的な感染対策の徹底が非常に強く出たためと考えています。さらに日本は基本的な感染対策が文化として定着しつつあります。マスクを着用し、密集を避け、十分換気しています。緊急事態宣言解除後も会食を控えるなど対策を一気に緩めていません。人出は増えても多くの人々が用心し続けていることが感染者数を少なくしているといえます。
日本独自の型で変異か 東大名誉教授 黒木登志夫氏
デルタ型は変異を繰返し、より感染力が強いものに置き換わっていきました。すでに天然痘や水ぼうそう並みの、これ以上はないような感染力を獲得しています。特に国内では日本独自のデルタAY・29型が第5波の主流で、これが収束に向かったのではないかと思います。仮説ですが、ある遺伝子領域に変異が追加され、感染性が失われるといったことが起こっている可能性があります。今後、新たな感染の波が起きるとしたら、デルタ型とは異なる新しい変異ウィルスが入ってきたときだと考えています。
変異重ねた末に自滅も 阪大特任教授 松浦善治氏
患者の急減はウィルス側に理由があるのかもしれないと考えています。様々なウィルスのうちで、遺伝情報をRNA(リボ核酸)に載せた「RNAウィルス」は変異を起こしやすいと言えます。新型コロナもその一種です。変異を盛んに起こすことで様々なタイプができ、一部が人間の免疫の仕組みやワクチン、治療薬の攻撃をすり抜けて増えます。強い感染力を持つ新型コロナのデルタ株はあまりに多くの変異を起こしすぎ、人間に感染した時に増えるのに必要な物質を作らせる遺伝情報が壊れるなどして、自滅しつつあるのかもしれません。以前に優勢だった株は、デルタ株の流行に押されて勢力を弱めました。
行動制限の効果は不明 東大准教授 仲田泰祐氏
我々は3つの要因を分析しました。一つ目は。デルタ株の感染力が想定以上に小さかった可能性です。二つ目は、人々のリスク回避傾向です。報道で医療逼迫を知り、感染しやすい行動を避ける傾向が強まった可能性があります。三つめは、周期性です。過去の動向は120日周期の波で統計的には説明できます。問題はなぜ周期が生まれたかです。新しい変異型が生まれることが理由であれば、今後の感染は増えにくいと言えます。今のところデルタ型を超える感染力の強い変異型は出ていないからです。だが、人々の警戒心が理由なら、警戒心が薄れることで再び感染増に転じる可能性があります。
新型コロナ感染は今後どうなっていくのかについては、専門家の間でも色々な見解に分かれているようで、まだ十分に納得のいく説明がなされていませんが、皆さんはどう思われますか。