パンデミックの脅威(その9)…鳥インフルエンザの脅威
鳥インフルエンザの概要
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鳥インフルエンザは、これまでにも時折、人に感染してきました。特に病原性が高いとして警戒されてきた「H5N1」型の鳥インフルエンザウイルスに感染して亡くなるケースも、以前から報告されています。
1997年には香港の養鶏場で大流行した際、初めて人での感染が確認され、症状を訴えた18人のうち、6人が死亡しました。最近では、2023年2月、カンボジアで11歳の女の子が鳥インフルエンザに感染したあと、亡くなりました。
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鳥インフルエンザは、2023年には日本国内でも猛威を振るっており、発生が確認された養鶏場や、処分されるニワトリなどの数も過去最多を更新しています。検出されているウイルスの型は高病原性の「H5N1」で、人に近い哺乳類でもウイルスが検出されているという気になる情報も出てきました。日本ではこれまでに発症した人は確認されていません。
WHOによりますと、2003年から2023年2月25日までに、21か国で873人が感染し、458人が死亡しています。致死率は52%と、感染が確認された半数以上が亡くなっています。2022年7月以降だけでもアジアを始め、ヨーロッパやアフリカ、それに北アメリカや南アメリカでも次々に確認され、各地で養鶏業に大きな被害が出ています。
鳥インフルエンザの人への感染
このウイルスが人の間で広がるおそれはどのくらいあるのか?どれだけ警戒しなければいけないのか?という点について調べてみました。
人への感染はまれで、ウイルスを持つ鳥やふん、それに死体などに直接触れた人が感染するとされています。新型コロナのように人から人に感染しやすくはなっておらず、人から人に感染したケースは長時間、濃厚な接触があった家族の間などの場合に限られています。しかし、鳥での発生が増えれば、人に感染する可能性が高まるため、世界的に警戒が続いています。総理大臣官邸のウェブサイトなどによりますと、感染すると高熱やせきのほか、呼吸が苦しくなって、多くで肺炎が起きるとされています。全身の臓器に異常が出て亡くなることもあり、早めに抗インフルエンザ薬などの治療を受けることが必要とされています。
WHOの報告によりますと、カンボジアの女の子に症状が出たのは2023年2月16日です。その後、重い肺炎になって国立の小児病院で治療を受けましたが、2月22日に亡くなりました。検出されたのは、高病原性の「H5N1」型の鳥インフルエンザウイルスで、世界中でニワトリなどに広がっているウイルスと同じ型でした。亡くなった女の子とその父親で感染が確認されましたが、父親には症状が出ませんでした。感染した2人は鳥を飼っている環境で感染した鳥と接触する機会があったということです。検出されたウイルスをさらに詳しく調べてみると、東南アジアのニワトリなどで2014年から広がっているものと同じ系統だったということで、鳥から人に感染したケースだとみられています。
鳥インフルエンザ感染の猛威
鳥インフルエンザは、もともとカモなどの水鳥にいたウイルスで、ふんなどを通じてニワトリをはじめとするほかの鳥に感染し、せきなど呼吸器の症状を引き起こします。感染したニワトリのうち、10日以内に75%以上が死ぬような致死率が高いウイルスは「高病原性」として扱われます。
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インフルエンザウイルスは「H」や「N」というアルファベットで示される、ウイルスの表面にある2種類のたんぱく質の種類で分類され、いま広がっている「H5N1」型は代表的な高病原性の鳥インフルエンザウイルスです。日本では、鳥インフルエンザは越冬する渡り鳥によってウイルスが持ち込まれるとされ、例年秋から春ごろにかけて発生します。
日本国内では、2022年のシーズンはこれまで最も早い時期の9月から野鳥で、そして10月からは養鶏場のニワトリなどで例年にないペースで広がりました。2023年3月6日現在発生が確認された養鶏場などの数は、25道県の78か所、処分されるニワトリなどの数も1500万羽を超え、いずれも過去最多を更新しています。
世界中で続く「H5N1」型のウイルスの感染拡大
WHOも今のところ、「H5型のウイルスは、人の間で感染が続くような能力は獲得しておらず、一般の人ではリスクは低い」としています。ただ「H5N1」型の鳥インフルエンザ用のワクチンが広く手に入る状況ではないため、養鶏業など鳥と関わる人は季節性インフルエンザのワクチンを受けるべきだとしています。そうすることで、人の中で複数のウイルスが組み合わさって、人の間で広がりやすいタイプの新たなウイルスができないようにすべきだとしています。
さらに、アメリカのCDC=疾病対策センターもカンボジアで検出された「H5N1」型の鳥インフルエンザウイルスは、人の間で感染が広がりやすくなったり、抗インフルエンザ薬の効果を弱めたりするような遺伝子の変異は確認されなかったとしています。人と動物の感染症に詳しい北海道大学の迫田義博教授は、ふだん鳥と触れることが少ない日本の環境では、注意していれば感染することはないとしつつ、多量のウイルスに触れると感染することがあるので注意は必要だとしています。
「人間の肺の奥には鳥型のウイルスのレセプター(ウイルスが結合する部分)があるということが分かっています。たくさんのウイルスを浴び、ハッーと思いっきり、肺の奥にウイルスが入り込むような状況では鳥から人への感染が起きます。鳥から感染するリスクはあるので、養鶏場の人や動物園の飼育員などに十分に注意するようにしてもらえば、日本では鳥から人への感染は起きない」と述べています。皆さんはどう思われますか。