パンでミックスの脅威(その10)…BCPで生き残る中小企業

BCPの発展の経緯

画像の説明

 事業継続計画(BCP)とは、地震や事故、洪水、新型インフルエンザ、新型コロナなどの感染拡大など、大規模な災害や不足の事態が発生した際も、企業の存続に影響を与える重要な事業についてはなるべく中断させず、仮に中断しても目標時間内に復旧できる体制を日頃から整えておきというマネジメント手法です。欧米では1980年代の後半から、ITシステムにおける災害対策の延長として、BCPが普及してきました。

 BCPが世界的に注目を集めたのは2001年9月11日の米国同時多発テロです。この事故では、ワールドトレードセンターで被災した金融機関のうち数社が、被災直後にBCPを発動して、数時間内に別の施設(サイト)に主要部門を移し、トレーディングなどの主要業務を再開させたと言われています。

画像の説明

この事件から読み取れるBCPのエッセンスは以下の3点です。

1. あらかじめビルが使えなくなるという事態を想定していた。
2. 仮にビルが使えなくなったときに、最低限継続すべき業務が明確になっていた。
3. それらの業務をどのような体制でいつまでに復旧させるか手順が明確になっていた。

 その後も2005年に英国ロンドンで発生した同時爆破テロや、同年ロンドン近郊で起きた石油貯蔵施設の爆発事故などで、BCPが発動された事例が報告されています。

 日本では、地震への対策として2006年から経済産業省や内閣府がBCPに関するガイドラインを相次いで発表し、近年では大企業はもちろん中小企企業や行政機関などでもBCP構築に取り組む組織が増えています。

中越沖地震ですべての自動車産業が止まった

画像の説明

 2007年に新潟県で発生した中越沖地震では、ある自動車部品メーカーが被災し、国内すべての自動車メーカーをはじめ、他の関連する部品メーカーまで50兆円産業といわれる自動車産業のすべての業務が一時的に止まってしまいました。

 この企業は、ピストンリングという自動車エンジン部品の国内シェアの約5割、シールリングという部品の約7割を誇る企業ですが、同社が被災したことで自動車メーカーは製造ラインを止め、そのために、自動車メーカーに部品を納入している他の企業まですべてが工場を止めざるを得なくなってしまったのです。さまざまな企業がサプライチェーンとして結びついている現代の産業構造においては、1社の事業中断が産業全体に多大な影響を及ぼしかねないため、BCPの策定は日本経済全体にとっても非常に重要という教訓をもたらしました。いま、中小企業でBCPの策定が強く求められているのはそのためです。

画像の説明

 そして、近年では地震だけでなく新型インフルエンザや洪水においても、このBCPの有効性、必要性が問われるようになってきました。特に、首都東京においては、近い将来発生が懸念されている首都直下地震や、年々増加する集中豪雨などに伴う大規模洪水、そして毒性が強い新たな新型インフルエンザの発生が、日本全体はもとより世界にも影響を及ぼしかねないため、各企業が事業継続力を備えることが急務となっています。

画像の説明

 一方、国際社会では、事業継続マネジメントの国際標準規格(ISO)化が進んでおり、日本でも既に大手企業を中心に30社近くが国際的なBCMS(事業継続マネジメントシステム)規格の認証を取得しています。今後、こうした企業が取引先である中小企業に対してBCPの策定を求めたり、新たな取引先として事業継続力のある中小企業を選ぶ動きは加速してくるものと思われます。

事業への影響を最小化

 BCPの策定の手法は、一般的に組織が行っている事業のうち、仮に一定期間以上、中断すると自社の経営やお客様、社会に著しい影響を及ぼすものを特定し、その事業を構成する業務や、業務に関わる経営資源(リソース)を洗い出し、災害によりこれらが機能しなくなるもろさ(脆弱性)を見積もるといった作業を行います。その上で、災害や災害による被害を未然に防ぐための対策と、仮に災害が発生した場合、事業への影響を最小化するための業務再開対策等を考えます。もちろん事業を継続する上で、社員の安全を守ることは大前提です。

画像の説明

 地震や事故を想定したBCPとパンデミックを想定したBCPの最大の違いは、地震の場合は、ヒト、施設・設備、社会インフラ等への大きな影響が突然発生するのに対して、新型コロナ感染症はヒトに対する被害が大きく、被害が継続することが挙げられます。また、地震の場合、被害が地域的・局所的で、被害の影響は過去の事例などからある程度想定が可能なのに対し、新型コロナ感染症では被害の範囲は世界的で、かつ被害期間が長期化することが想定され、不確実性が高く影響予測も困難です。

 また、近年特に都市部で多発しているゲリラ豪雨による洪水では、交通手段の遮断や、電気などのライフライン系統が遮断することが懸念されています。企業には、さまざまな脅威に柔軟に対応できる事業継続力が求められているのです。

企業の事業復旧に対するBCP導入効果のイメージ図

 企業が大地震などの緊急事態に遭遇すると操業率が大きく落ちます(下図参照)。何も備えを行っていない企業では、事業の復旧が大きく遅れて事業の縮小を余儀なくされたり、復旧できずに廃業に追い込まれたりするおそれがあります。一方、BCPを策定している企業は、緊急時でも中核事業を維持・早期復旧することができ、その後、創業率を100%に戻したり、さらには市場の信頼を得て事業が拡大したりすることも期待できます。(出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」)

画像の説明

BCP導入効果のイメージ(新型コロナ感染症発生の場合)図

画像の説明

 従業員の感染防止を最優先し、発生段階に応じて複数斑による交代勤務や在宅勤務などの事業運営体制に移行するなど、流行時においても代替の要員を確保するBCPを策定している企業は、流行の蔓延期においても中核事業を一定レベルで継続することができ、経営への影響を最小限にとどめることができます。一方、BCPを策定していない企業では、流行の拡大に伴い、感染による従業員の欠勤が増加し、徐々に操業率が低下していき、事業の休止に追い込まれる可能性があります。また、経営者を含むキーパーソンの感染の可能性もあります。さらには、納期の遅れなどにより、取引先からの信頼が低下し、事業の復旧に大きな支障を来す可能性もあります。

 BCP策定にあたってのポイントは、一部の人が作成するのではなくて、多くの仲間と一緒に話し合って作成し、その内容を共有することです。また、定期的に演習を行うことです。皆さんはどう思われますか。



コーディネーター's BLOG 目次