脱炭素革命(その2)…日本の脱炭素取組み25年停滞要因
2015年に安倍首相が、発展途上国訪問の際に、日本は高効率石炭火力発電所を積極的に推進しているとアピールしました。ところが、日本はどうして19世紀のテクノロジーに時間と努力と頭脳を注ぎ込むのか、と欧米の投資家から強烈に非難されました。日本は何をとぼけたことを言っているのか。日本は完全に環境に関しては周回遅れだ、とまで強力なバッシングを受けました。
温暖化ガスの排出削減を巡り、日本の産業界の足踏みが続いています。同じ国内総生産(GDP)を生み出すためにどれだけ二酸化炭素(CO2)を排出したかを国ごとに比較しますと、日本は1990年代からは横ばいとなっています。再生可能エネルギーが普及した欧州各国はこの間、2分の1から3分の1に圧縮しました。日本政府は2050年に排出量を実質ゼロにする目標を打ち出していますが、環境を軸に成長を探る世界はもっと先を走っています。「日本では再生エネ調達に課題があります。海外企業と同一基準で評価されると投資資金が回ってきにくい」とソニーのS氏は日本に生産拠点を置く企業としてジレンマを感じています。
ESG(環境・社会・企業統治)への取り組みで投資先を選別する動きが浸透し、比較しやすいCO2排出量は投資判断への影響も大きくなっています。しかし、日本が付加価値を生むために排出するCO2の量は削減が進んでいません。排出する温暖化ガスの量をGDPで割ると、2018年でGDP1万ドル当たり約2.5トン。1995年当時とほぼ同水準です。
ここで付加価値とは企業が労働者の協力を得て新たに作り出した価値のことです。生産過程で新たに付け加えられる価値で、総生産額から原材料費と機械設備などの減価償却分を差し引いたもので,人件費・利子・利潤に分配されます。一国全体の付加価値の合計は生産国民所得(GNI)となります。
GDP とは、日本国内で生産された付加価値のことです。この中には、日本国内に住んでいる外国人の生み出した付加価値も含まれます。しかし、日本国外に住んでいる日本人の生み出した付加価値はふくまれません。つまり、GDP(国内総生産)からGNP(国民総生産)を求めるためには、GDPから国内に住む外国人の生み出した付加価値を引いて、国外の日本人の生み出した付加価値を加えることになります。GNIは、GNPにおいて生産に関わる税や補助金、そして海外からの受け取りを加えたもので、国民が得た収入に着目する指標です。
省エネルギーを進めた日本は1990年代、GDP当たりのCO2排出量の少なさで世界の先頭集団にいました。ところが2000年代に入りフランスや英国に抜かれ、差も広がりました。原因は電力です。欧州では風力発電など再生エネが火力発電のコストを下回るようになり、2018年には発電量の34%を占めました。電力の低炭素化が進み、英国のGDP当たりの排出量は、1995年当時の約3分の1となっています。
CO2排出量が少ない天然ガス発電が広がった米国も、日本との差を縮めました。日本は再生エネが2割にとどまるうえ、2011年の東日本大震災で原子力発電所が運転を停止しました。その影響で3割程度を占める石炭火力発電への依存が下がりません。
日本の個別の企業が環境への取り組みに消極的というわけではありません。英国の非政府組織(NGO)のCDPが世界の企業を対象に温暖化対策を評価した格付けで、日本企業はイオンなど38社が最高評価でした。米国などを上回り世界最多数です。業種ごとの特徴や経営陣の関与などを評価した結果です。電力を全て再生エネで賄うことを目指す企業連合「RE100」には、米国に次ぐ42社が参加しています。
日本の足踏みにはもう1つ理由があります。自動車を頂点に部品、素材が連なる産業ピラミッドがあり、鉄鋼や化学などのCO2排出が多くなっています。みずほ情報総研のM氏は「産業構造の転換が遅れ、国全体の排出量削減が進んでいない」と指摘します。
欧州連合(EU)は新型コロナウィルスの感染拡大で落ち込んだ経済を、環境対策をてこに立て直す「グリーンリカバリー」を掲げています。日本の産業は後方からのスタートになります。しかし、現在の立ち位置をバネに、排出を抑えた工業品や素材の生産、再生エネを無駄なく使うための蓄電池といった分野で革新的な技術を生むことができれば、新たな競争力を手にすることになります。
世界各国で二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電を縮小し、再生可能エネルギーやガス火力など低炭素電力の利用拡大が進んでいます。再生エネは基本的にCO2を排出しません。石炭火力からガス火力に切り替えれば、CO2排出量を半分に抑えられます。
技術革新や大量生産で太陽光や風力発電設備の価格が下がり、欧米では再生エネの発電コストは火力を下回るようになりました。また、パイプラインで輸送した天然ガスを使えば、ガス火力の発電コストは石炭火力より安くなります。コストと地球温暖化対策の観点から、欧米では再生エネとガス火力の比率が上昇しています。米国ではシェールガス開発が進んだことも一因です。
日本は太陽光パネルを置ける平地や、風が一定方向に吹く場所が限られ、欧米に比べ再生エネのコストが高くなります。また天然ガスは液化や気化の費用がかかり、ガス火力の発電コストは石炭火力より高くなります。東日本大震災で原子力発電所が運転を停止し、不足分を火力発電で補った影響もあり、電力の低炭素化が遅れています。みなさんどう思われますか。