脱炭素革命(その5)…ブラックロックの脱炭素ファンド運用戦略

ファンドの定義と種類

 「ファンド」を辞書で引いてみると「資本。基金。」と説明されています。また、一般社団法人投資信託協会の説明を引用すると「多数の投資家から集められた資金を一つにまとめ、基金にして収益を還元する仕組みのこと」と説明しています。つまり、ファンドとは「多くの人から出資を募り、その資金で投資や事業を行って、出資者に収益を還元する仕組み」のことをいいます。ファンドにはいくつかの種類があり、投資信託、ヘッジファンド、ベンチャーファンド、さらに企業再生ファンド、企業買収ファンドなど、企業の成長や再編に関わるファンドもあります。

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ファンドの種類

① 投資信託…「投資信託」もファンド一種で、一言でいえば「投資家から集めたお金をひとつの大きな 資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品で、その運用成果が投資家それぞれの投資額に応じて分配される仕組みの金融商品です。集めた資金をどのような対象に投資するか」は、投資信託ごとの運用方針に基づき専門家が行います。

② ヘッジファンド…富裕層や大口投資家を対象としたファンドです。ヘッジファンドは相場が上がっても下がっても利益追及することが目的なので、さまざまな手法を柔軟に用いて資産の目減りを防ぎながら積極的に運用します。「ヘッジ」とは資産の目減りを避けるという意味です。

③ ベンチャーファンド等…主に未公開企業に投資するファンドでベンチャーキャピタルともいわれています。ほかにも、企業の再生のための企業再生ファンドや企業買収のためのファンドなど、企業の成長や再編に関わるファンドもあります。

世界最大の資産運用会社ブラックロック

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 ブラックロック(BlackRock Inc.、NYSE: BLK)は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市に本社を置く、世界最大の資産運用会社です。2021年末における同社の運用資産残高(AUM)は10兆ドル(約1,153兆円)と日本のGDPの2倍に相当しています。世界30ヶ国・70のオフィスに合計18,000名超の従業員が在籍しています。ファンドを通じて主要な上場企業の大株主となっており、S&P500種株価指数を構成する企業の80 %以上において、持ち株比率の上位3位までに入っています。日本ではブラックロック・ジャパン株式会社としてビジネスを展開しており、383名の社員が在籍しています(2022年末時点)。

ブラックロックなど「脱炭素」関連で2,000兆円

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 2023年2月運用資産8.7兆ドル(約930兆円)の米ブラックロックは、脱炭素社会の実現に向けた取組を公表しました。気候変動に影響を与える主要企業など世界1,100社を対象に対話や議決権行使を通じて一段の対策を求めています。2050年排出ゼロの達成に向けた新たな運用商品の提供も始めました。ブラックロック・ジャパンのA社長は「ネットゼロ社会に向かうのを投資の面でサポートするのが使命」と語っています。

 ブラックロックはネットゼロ・アセット・マネェージャーズやアセットマネジメントOneなど30社と共同でファンドを設立し、運用資産合計は9兆ドルにのぼります。約1.3兆ドルの運用資産を持つ米インベスコやニッセイアセットマネジメントなども参加を検討中です。排出ゼロを明確に目指すマネーは少なくとも約19兆ドルにのぼり、今後もさらに増えるとみられています。

 投資先の排出実質ゼロを目指す動きは、年金基金や保険会社など資金の出し手(アセットオーナー)が先行してきました。ブラックロックはこれら機関投資家からの資金を運用する会社です。排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが一段と高まってきています。

ブラックロックの脱炭素追求

 世界最大の資産運用会社、米ブラックロックは気候変動リスクに関連して企業にどのような行動を求めていくのかを具体化した資料を公表しました。

 まず第一に、対象となる企業全体に使った化石燃料からの温暖化ガス排出を指す「スコープ1」と、電力消費からの間接的な排出を指す「スコープ2」の両方の開示を求めています。温暖化ガス排出量の多い業界に対しては、社員や関係者の出張やサプライチェーンなどを含めた排出量「スコープ3」の公開も求めています。

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 また、温暖化ガス排出量の実質ゼロ実現に向け、短期、中期、長期の3段階で目標数値を示すことを各社に要請しています。企業がきちんと要請に対応しなかった場合、気候変動対策の強化を求める株主提案に賛成する可能性があるとのことです。また、気候変動問題に真剣に取り組まない役員の承認に対しても反対票を投じる可能性も示唆しました。

米ブラックロックCEOが新NISAに期待感

 米ブラックロックのライリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は、家計を貯蓄から投資へ促す岸田政権の政策について日本に重要なことだと支持しました。「NISA(少額投資非課税制度)などの施策は、巨額な貯蓄を長期的な投資に変え、成長へ向けた国内政策の基盤になる」との見方を示しました。岸田政権が検討する「資産運用特区」についても、「特区は規模の小さい企業が日本に来やすくなり、本当にチャンスを得られたと感じられる」と述べました。

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 日本は民間投資と公的資金を組合わせて成長を目指す必要があり、それが動き出せば大きな機会になるとの考えを強調しました。大企業志向ではなく、若い世代でスタートアップへの関心が高まっているなど、日本の前向きな変化を指摘しました。今回催した岸田首相と機関投資家との夕食会は、米欧やアジアのほか、中東も含めて高い関心があったといいます。これまで日本を避けていた投資家の間で、日本の変化に期待する視線が集まっています。

 日本への投資機会が増えれば、金融サービスや資産運用会社も集まって来るとし、「脱炭素は大きな機会であり、日本がこの動きでリードしていければ、アジアの金融ハブになるチャンスがある」との期待を示しました。皆さんどう思われますか。



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