脱炭素革命(その8)…脱炭素の実現に欠かせない国の支援

 脱炭素化の実現する上では、国の支援が重要です。国はどのような支援をかべきか考えてみます。

国の資金で民間のお金を動かす循環を

 国と企業は「脱炭素」を成長戦略に位置付けるべきです。10年で150兆円とされる必要資金はコストではなく、成長のための投資です。納税者や株主など資金の出し手に対する説明責任を果たし、成果を出すことが求められます。これを実現するためには、国は黒字化の見通しにくい高難度の技術研究などに積極的に投資し、民間資金の呼び水となることが求められます。一方、企業は技術の目利き力を磨き、長期の視点で商用のメドが立ちそうな技術に積極投資することにより、競争力を高めます。

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国は移行金融の定義や仕組みづくりの先頭に立て

 温暖化ガスを多く排出する産業や技術の脱炭素化を促す「移行金融」(トランジションファイナンス)が金融面で重要な役割を果たします。LNG火力の設備維持・更新のほか、鉄鋼や化学などエネルギー多消費産業の脱炭素を進めるためにも、移行期の資金確保に万全を期さなければなりません。世界的にも注目されている分野であり、日本が先頭に立ち「移行」の定義や情報開示、効果検証の仕組みをつくるべきです。温暖化ガスの排出が多いアジア各国の金融・市場当局との連携も必要です。

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個人金融資産の活用へ、移行債をNISAの投資対象に

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 2000兆円に及ぶ個人金融資産の大半を占める預貯金は、GX国債や民間企業のトランジションボンドの受け皿になり得ます。少額投資非課税制度(NISA)の抜本的な拡充の一環として、移行金融を支える多様な債券も投資対象に加えるべきです。相続税の免除・軽減などの措置も一考に値します。

企業が持つ300兆円の現預金の有効活用を

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 およそ300兆円の現預金を抱かえる企業も、手元資金の有効活用の観点から、脱炭素・省エネ技術の開発、実装に向けた投資が望まれます。企業の背中を押すために、トランジション投資減税の導入も検討したいものです。



投資家は企業にネットゼロの戦略づくりと行動を促せ

 移行金融を活性化させるために、資本市場の力も活用したいものです。投資家と企業の双方がESG(環境・社会・企業統治)の考え方を一段と深める必要があります。ESGのEとは環境(エンバイロメント)を指しますが、投資家は特にエミッション(E=温暖化ガス排出)に関する分析力を磨き、株主の立場から企業にネットゼロの戦略作りと行動を促すべきです。資産運用の分野における環境専門家の育成、採用が急がれます。

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 因みに、カーボン・ニュートラルとは排出量の算定、削減、残りの排出量のオフセットのステップを通じて、ネット排出量がゼロであること』を言います。一方、ネットゼロのnetとはここでは「正味」という意味で使われており、純粋に削減の努力だけでネットゼロを達成することを指します。

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企業は供給網全体のネットゼロ実現を目指せ

 企業は投資家とよく議論し、スコープ3と呼ばれる取引先を含めたサプライチェーン(供給網)全体のネットゼロ実現を目指してほしいと思います。大企業は中小取引先の脱炭素化をノウハウや資金の面で支援する立場にあると言えます。

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 2024年は記録ずくめの酷暑が世界を覆いました。気候変動対策の緊急度が増す一方、「化石燃料の段階的廃止」で歩調をそろえられない現実もあらわになりつつあります。熱波による社会、経済的な影響の大きい新興・途上国ほど、冷房をはじめ、足元の電力確保に化石燃料を必要とするからです。皆さんはどう思われますか。



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