脱炭素革命(その11)…再生可能エネルギーの将来性
1. はじめに
皆さん今日は、産学連携コーディネーターの伊藤と申します。本日は新入社員教育セミナーということですが、私の方からは、「再生可能エネルギーの将来性」について皆様と一緒に考えたいと思います。
現在K信用金庫はお客様からの「環境問題」に関する相談に対して、真正面から向かい合っています。環境問題も範囲が広いのですが、今日お話しする再生可能エネルギーは重要な相談案件の1つとなっています。今後K信用金庫の職員として活躍される皆様にも、再生可能エネルギーとはいったい何なのかをこの機会に理解しておいて頂きたいと思います。
2. 我々の生活とエネルギー
エネルギーと現代社会は切っても切れない関係にあります。社会生活を維持するためには、エネルギーの供給が脅かされたり、エネルギー価格が高騰したりすると大変なことになります。エネルギーの円滑な利用ができなくなることは避けなければなりません。
3. エネルギー消費の分類
エネルギーは電気や熱で与えられますが、我々の生活にとって切り離せないものです。大きく分けてエネルギーの使われ方には2つあります。
1つは、工場のものづくりで使われるもので全体の45%、もう一つは日々の暮らしで使われるもので、これには家庭やオフィスの照明や冷暖房、物資の輸送などがありまして、全体の55%を占めます。まあ、ものづくりと日々の暮らしで約半々の割合で使われていると覚えてください。とにかくエネルギー無しでは我々は生活して行けません。
4. エネルギー供給の分類
次に、我々の生活になくてはならないエネルギーがどの様に供給されているかを示したのがこの図です。
見て分かりますように、日本では火力発電が75.8%とほとんどを占めています。他には原子力が6.2%、水力が7.7%、そして今日話をします再エネが10.2%wで、何と1割にしか過ぎません。
火力発電の燃料となるものは、天然ガスや石油や石炭です。しかし、これらの化石燃料は日本ではほとんど自給ではないため、現在はそのほとんどを海外からの輸入に頼っています。最近はこの化石燃料を燃やす際に発生する二酸化炭素による地球温暖化が大きくクローズアップされています。現在、二酸化炭素の排出を抑制するために、この化石燃料を再生可能エネルギーに転換しようということが全世界で叫ばれています。しかし、そう簡単に転換できるものではなくて、後で紹介しますが、色々な問題を抱えています。
5. 二酸化炭素の排出
ところで、二酸化炭素の排出源としてどのようなものがあるか知っていますか。
排出源としては、我々の生活に欠かせない電気を供給する発電所からの排出が、約半分の41%を、次いでガソリンや軽油を多く使う輸送関係で21%で、3番目が製造業や建設業で17%となっています。これら3つを合計しますと80%に達します。
6. 再生可能エネルギーと密接に関係する諸問題
再生可能エネルギー問題を考える時には、1つには地球温暖化をもたらしている二酸化炭素をどうするのか、すなわち脱炭素社会をどのように実現するのかという課題を考える必要があります。
もう1つは、エネルギー資源の確保というエネルギー安全保障問題も重要な課題です。
まずは、脱炭素社会の実現という事柄と密接に関わる地球温暖化問題から考えて行きます。
7. 生命のはぐくむ星、地球
話は地球が現在どういう状況になっているのか、これからどうなるのか、ということから始まります。
皆さん、この写真は我々が住む地球です。地球が誕生してから46億年が経過しています。銀河系というとてつもなく大きな宇宙空間があり、その中に小さな太陽系があります。太陽という光り輝く恒星の周りに、8つの惑星があって、その惑星の1つが地球です。(銀河系の星の数は2000億個。)この写真は1972年にアポロ17号によって撮影されたものですが、まだまだ地球は綺麗です。ところが、この地球に今大変なことが起こりつつあるのです。
8. 地球温暖化の基本的なしくみ
今から220年ほど前の1800年にイギリスに産業革命が起こりました。以降、産業が発達しまして、地球上の工場という工場から二酸化炭素が排出されました。そして、地球を囲んだ大気圏の外側に、二酸化炭素の層ができてしまいました。
太陽からの赤外線が地球を暖めた後、地球から赤外線が放射されます。放射された赤外線は、昔は宇宙に戻って行きましたが、現在は宇宙に戻ることができず、この二酸化炭素の層に吸収されます。すると、二酸化炭素の層が赤外線をこの大気圏内に放射し、これがまた地球に吸収され、地球を温めます。その結果成層圏に赤外線が閉じ込められてしまい、地球がどんどん温まって行きます。これが地球温暖化のメカニズムです。
9. 2050年までのカーボンニューラルの意味合い
ここで、私が一番気になる1枚の図を紹介します。見ていて本当に恐ろしくなる図です。今世界では2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標で進んでいますが、これはその根拠となった図です。
この図は、国連が公表したものですが、縦軸に二酸化炭素の排出量を横軸に年代を取って示したものです。このラインの下の白い部分は、地球による二酸化炭素の「吸収量」を表しています。地球には森林が多く存在し、植林などにより管理されていますので、これらが光合成を起こせば二酸化炭素を吸収してくれます。このそしてこのラインより上にある部分が我々が排出する二酸化炭素量を示しています。従って、カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を2050年までに全体としてこのラインまで下げることを言います。
1800年の産業革命から現代までに、この緑色の部分の面積に相当する二酸化炭素が排出され、地球の温度が約1度上昇しました。何も手を打たないと地球の温度上昇は2℃を超えます。これを阻止するには、どうしたら良いのでしょうか、というのが今我々に突き付けられている課題です。
まず、考えられたのが二酸化炭素の排出量低減でした。この2本のラインは二酸化炭素の排出量低減を示すものです。しかし、この図から判るように100年以上は掛かります。とてもそこまでは待てません。そこで現在、世界はこの脱炭素のラインを目標に動いていまして、2050年までに地球の温度を元に戻そうとしています。このことは二酸化炭素の排出量低減ではなくてもはや脱炭素であると言っているのです。
10. 最近の環境に係る世界情勢
次にエネルギーの安全保障の問題です。皆さまご承知のように、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻で国際エネルギー情勢が一気に不安定化しました。現時点では脱炭素という課題以上にエネルギー安全保障が重要課題になっています。
確かに短期的に見ればエネルギー価格高騰の問題やエネルギー調達の問題は、企業にとっては死活問題で、脱炭素の問題は一旦横に置いておくという状況になっています。日本は化石燃料をほとんど持っていませんので、化石燃料の代替となる太陽光、水力、風力、バイオマスといった再生可能エネルギーの導入は重要なことです。その他にも水素エネルギー、原子力エネルギーへの取り組みを今まで以上に促進する必要があります。
そして、中長期的にはそれらとの関係の深い脱炭素すなわちカーボンニュートラルについても今後国を挙げて力を入れて行くことになると思います。
11. 負荷による供給電源のイメージ
日本は化石燃料すなわち石炭、石油、天然ガスを資源としてほとんど持ちません。全て輸入に頼っています。
これは現在の日本の供給電源の1日のイメージ図です。常時供給されるベース電源には、石炭・原子力・水力が使われ、季節ごとに調整されるミドル電源にはLNG、LPG等の天然ガスが使われ、時間ごとに調整されるピーク電源には石油、水力を使うというふうに、1日の電気の使用が規制されています。そしてこれらの組み合わせは、1日の時間帯の中で変動しています。
そして、この最も重要なミドル電源用LNGガスがロシアのウクライナ侵攻でストップするのではないかということで問題になっています。現在はLNGガス全体の10%をロシアから調達しています。
12. 世界各国の電源構成の比較
各国は今、脱炭素社会の実現とか、エネルギー安全保障上の問題から、従来の化石燃料を再生可能エネルギーに切り替えようとしています。
これは直近の世界各国の電源構成を比較した図です。日本は再生可能エネルギーが20%程度とヨーロッパ各国が35~40%であるのに比べると、まだまだ少ないと言えます。また、ロシアのウクライナ侵攻でLNGガスの一部が調達できないという恐れが出てきました。代替案として原子力の再利用が話題になっています。2050年の電源構成では再生可能エネルギーを50~60%、原子力を30%でということで話が進んでいます。
13. 世界の再生可能エネルギー発電量の内訳
世界で再生可能エネルギーの発電割合を見てみますと、風力が全体の半分の48.4%です。次いでバイオマス発電で28%。太陽光は意外と少なく10.6%で、地熱は5.4%と僅かです。ただ、この集計には水力発電は入っていません。
一方日本の再生可能エネルギーの内訳ですが、世界の内訳と比較して、状況が大きく違っている点に驚かされます。世界では風力が半分近く占めていたのが、日本ではわずか7%程度です。反対に日本では太陽光の発電量が多いものとなっています。これはまさにお国の事情によるものです。
14. 国のエネルギー戦略
国のエネルギー戦略について少し説明します。日本は省エネと再エネの2本建てでカーボンニュートラルを進めようとしています。
その内、省エネは、文字通り、エネルギーの使用効率の高い設備を導入します。一方、再エネ戦略は、太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱発電をどの様に展開していくかということが中心となって進められています。
15. 省エネ戦略-地域づくりに不可欠なさるびの温泉のリニューアル
温泉は、通常は灯油やC重油をボイラーで焚いて35℃程度の源泉を42℃程度に温めるのが一般的です。しかし、最近では、温泉運営の効率アップを図るため、ヒートポンプシステムを温泉のボイラーシステムに置き換える試みが検討されています。
上図は、温泉に使用されたヒートポンプの1例です。これまで使用されていたボイラを使用しなくても、42℃までの温熱を発生させることが可能です。右側のヒートポンプシステムでは、温水ユニットにヒートポンプを内蔵し、低温側では温泉の排水を利用して熱エネルギーを取り込み、高温側では冷媒を活用して、35℃の源泉湯を42℃の温泉湯に温めています。
16. ヒートポンプの原理
ヒートポンプで熱を汲み上げる原理は下図の通りです。一般的に温度と圧力の関係を利用するわけです。すなわち、「気体は圧力がかかると温度が上がり、圧力をゆるめると温度が下がる。」(ボイル・シャルルの法則)、「熱は温度の高い方から、低い方に流れる。」(熱力学第2法則)という、二つの基本的な性質を利用します。
外部より低い5℃の液体が入っています。この蒸発器の液体は、35℃の排湯で温められ、蒸発して10℃の気体になります。次に、10℃の気体は2のコンプレッサで圧縮され、温度が80℃まで上昇し、3の凝縮器に入ります。この凝縮器の外側に35℃の源泉湯を流します。凝縮器の中の80℃の気体は、水で冷やされ50℃の液体となります。一方、35℃の源泉湯は温められ、42℃の温泉湯ができます。
ヒートポンプは、このように外部の熱を取り込み、源泉湯に伝えることで温泉湯を作ります。最後に、50℃の液体をの膨張弁を通して急激に圧力を下げます。急激に圧力を下げると、膨張弁を通った液体も、50℃から5℃まで温度が下がる。そして、また1の蒸発器に入ります。
ヒートポンプを使うと、どれ位経済的かについての目安ですが、電気ヒーターは1kwの電気が入って来れば、1kw分の熱を発散しておしまいです。しかし、ヒートポンプシステムは、1kwの電気を使って、外部の熱を冷媒を使って3kw分汲み上げられるので、電気で暖める時の4倍(1+3)の熱を生み出すことができます。これはまさに冷媒の潜熱を上手く使っていることに他なりません。潜熱とは、「液体から気体」「気体から液体」への変化の様に、相変化のある場合には、気化熱、液化熱という熱の働きがあるのでこれを利用することになります。
17. グリーン成長戦略
2020年に菅政権が日本の目標として掲げた「2050年カーボンニュートラル」を達成するためにグリーン成長戦略が作成されました。今後、産業として成長が期待され、なおかつ温室効果ガスの排出を削減する観点からも取り組みが不可欠と考えられる分野として、14の重要分野を設定しています。
その中に、再生可能エネルギーに関連する洋上風力とバイオマスが入っています。
18. 再生可能エネルギーの概要
ここからは再生可能エネルギーの概要についてお話します。今我が国で再生可能エネルギーと言いますと、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電、水力発電、の5つを挙げることができます。
再生可能エネルギーはエネルギー全体を100%としますと、太陽光、風力、バイオマス、地熱の4種類で10.3%であり、水力の7.7%を含めましても18.0%とまだまだ欧州の35~40%に比べその割合が小さいと言われています。それには、後で個別に紹介しますが、日本独自の問題も幾つか存在するからです。
19. 再生可能エネルギーの発展経緯
再生可能エネルギーの発展経緯を見てみます。1800年にイギリスで産業革命が起こりました。それ以降エネルギー供給源として石炭、石油、天然ガスの化石燃料が使われ始めました。
日本では1973年に中東戦争により石油価格が大幅に高騰しました。当時トイレットペーパー騒ぎを経験しました。そこから、日本ではサンシャイン計画という名の下に再生可能エネルギーへの取り組みが始まりました。中心は太陽光発電でした。1990年代、日本の太陽光発電の導入は世界のトップクラスまで一時上り詰めました。その勢いの中、2009年住宅を持つ個人を対象に電力消費の低減をスローガンとし、新規に太陽光パネルを屋根に取り付ける家庭に対しては補助金を支給し、パネルの導入を煽りました。しかし、2014年に補助金の支給が終了したのを機に一遍に導入機運が衰えました。
一方、2011年3月に東日本大震災で福島原子力発電所が大きな被害を引き起こしました。それ以降、原子力に対する風当たりが強く、再生可能エネルギーの普及に力を入れ始めます。そして、2012年からは、電力事業者を対象に太陽光、風力、バイオマス、地熱、小水力による再生可能エネルギーを買い取るFIT制度がスタートしたわけです。現在は2050年のカーボンニュートラルを目標に再生可能エネルギーの普及に力が入っています。
20. FIT制度とは
2012年にスタートしたFIT制度(固定買い取り制度)とは、再生可能エネルギーを活用して発電した電気を、電力会社に買い取ってもらう制度のことです。
再生可能エネルギーを用いて発電しようとすると、設備費がばかになりません。ちっとしたものでも数億と言う単位になります。できるだけ多くの企業に再生可能エネルギーを導入してもらうためには、設備費のなにがしかでも補助してやることによって投入資金の回収をしやすくしてやるのが良いと考えて始めたのがこの制度です。一方、電気を買い取る中部電力といった電力会社は、買い取り費用を賦課金という形で電気を利用する皆さんから集めますので、懐は痛まないようになっています。
21. FIT制度の効果
現行のFIT制度が導入されたのは、2011年の東日本大震災で福島原子力発電所が被災した後の2012年からです。
2011年以前には、電気事業者に新エネルギーの安定供給を義務付けたRPS制度や太陽光発電のみを対象として余剰電気を買い取る制度がありました。しかし、2011年にFIT制度に統一し、それ以降は順調に再生エネルギーの売電は増えています。
この要因には、当初は原子力発電の拡大を描いていましたが、福島発電所の事故以降は原子力による発電は今後多くは望めないということで、再生可能エネルギーに望みを持ったからでした。その後、再生可能エネルギーは順調に増加しているように見えます。しかし、欧州各国に比べるとまだまだ少ないと言えます。欧州の35~40%に対し日本はまだ20%内外です。
22. 再生可能エネルギーの固定買取価格
この表は再生可能エネルギーの固定買取価格を示したものです。買取期間はそれぞれまちまちとなっています。長いもので20年間、それから15年間があり、短いもので10年間となっています。
また再生可能エネルギーの種類によって買取価格は異なっていますし、同じものでも、設備の発電能力によって買取単価は変わっています。2012年のFIT 制度のスタート時は、10Kw以上の太陽光は42円、20Kw未満の風力が58円、メタン発酵ガス化発電が41円と高い価格が設定されました。高く買い取ってもらえるから、商売になるとおもうとえらい目に遭います。買取期間を過ぎれば、売値はぐっと下がります。その差額を工面しなければなりません。
23. 再生可能エネルギーの売買単価の年次推移
これは買取価格の年ごとの変動を見たものです。見て頂きたいのは、太陽光発電の買取価格で、毎年どんどん下がって2012年スタート時に40~42円だったものが現在では24~26円と半分近くまで下がっています。
その原因は、設備が手ごろだということで、事業への参入者が急増したためと、それによって設備そのものも低価格のものが出現してきたためと考えられます。太陽光以外の風力、水力、バイオマス、地熱は買取価格は大きく変動していません。
24. 再生可能エネルギーの問題点
再生可能エネルギーは二酸化炭素の排出がなく、環境という面では申し分がありませんが、まだまだ日本で再生可能エネルギーを普及させようとすると色々な問題点が出てきます。その問題点を個別に見て行きたいと思います。
25. 太陽光発電
皆さん太陽光発電については、もう色々なところで見かけますよね。太陽光パネルを並べて住宅の屋根や、農地の様な広い場所に所狭しとパネルが設置したものがあります。
26. 太陽光発電の仕組み
これは太陽光発電のパネルの構造を示したものです。太陽光パネルは、プラスの電気を帯びやすい「P型半導体」とマイナスの電気を帯びやすい「N型半導体」という性質の異なる2つの半導体を重ねてできています。
太陽光を照射しますと、2つの半導体にはプラスを帯びたホールとマイナスを帯びた電子が発生し、プラスのホールはP型半導体に、マイナスの電子はN型半導体に移動します。そこでこれらに電線をつなげば電流が流れるというものです。構造は非常にシンプルで価格も安価ですので、個人はもとより、中小企業の事業用としても人気を博しました。
27. 太陽光発電の課題
今一番普及している太陽光発電についての環境問題を考えてみます。多くの場合、森林や林の木を伐採して、その跡地に太陽光パネルを設置するので、自然破壊をもたらします。そのため、事前に地域住民との折り合いが必要となります。
また、太陽光パネルの使用後の廃棄処理がまだ確立されていないという問題が残っています。2030年後半から使用済みのパネルがどんどん出てきますので、これを2030年問題と言っています。
28. 風力発電
風力発電は皆さんみたことはありますか。右の写真は青山高原に建設されている風力発電です。先日見学してきました。
750kwの風車20基、2,000kw風車40基の計60基が運転されています。真近で見ると壮大な景観です。年間55,000世帯分の電力を賄うことができ、年間約9,300トンのCO2削減効果があるとのことです。
29. 風力発電の仕組み
風力発電は、風の力を利用して風車を回し、風車の回転運動を発電機を通じて電気に変換する方法です。
風が強くて風車の回転速度が上がり過ぎる時は、安全のため回転を停止できるようになっています。風を受けやすくするために、ブレードに微妙な変化をつけたり、最適な風の方向を常時追いかける方式など、色々と工夫されています。
30. 風力発電の課題
風力発電の課題を考えてみます。風車が回転する際に発する低周波音が、騒音被害をもたらすと言われています。これを避けるために、風車は民家から500m以上離れていることが建設条件となっています。これはなかなか厳しい条件でして、現在は陸上風車よりも洋上風車の建設の方が盛んに検討されています。
また、日本のように台風が頻繁に来襲する場所では、風車の架台を強固にする必要があり、建設コストアップの要因となっています。
31. バイオマス発電
次にバイオマス発電です。これはバイオマス発電設備の外観写真です。バイオマス発電は「直接燃焼方式」と「メタンガス燃焼方式」に大きく2つに分かれます。
「直接燃焼方式」は木屑や木質チップといったバイオマス燃料をそのまま燃やし、発生した蒸気でタービンや発電機を回して電気を作ります。この発電方式には、水分の少ない乾燥系のバイオマス燃料が適しています。
「メタンガス燃焼方式」は食品廃棄物を発酵させて、メタンガスを生成し、これを燃焼して、その燃焼ガスでタービンを回し発電しています。先日伺った、伊賀にある大栄工業(株)では、このメタンガス燃焼方式ですが、出力253kwの発電機を2機設置し、年間400万kwhの発電を行い、FIT制度で電力会社に39円/kwhで売電しています。
32. 直接燃焼型バイオマス発電の仕組み
まず、バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称のことを指します。その種類は幅広く、木質系や農業・畜産・水産系、建築廃材系、生活系などさまざまです。
「直接燃焼方式」では、木屑や間伐材を小さく加工した木質ペレットや木質チップなどが燃やされます。こうした生物資源をボイラーで直接燃やして蒸気を発生させ、この蒸気でタービンを回し、発電機を稼動させて電気を作ります。また、一般家庭などから集めた可燃ごみを燃やし、その熱を使って発電することもあり、現在は多くのごみ処理施設に発電施設が併設されています。
直接燃焼方式の特徴としては、木質ペレットや木質チップといった、比較的運搬・管理しやすいバイオマス燃料を使用することや、ほかの方式と比べて燃料の加工プロセスが少ないことが挙げられます。
33. メタンガス燃焼方式バイオマス発電
メタンガス燃焼方式は、家畜の排泄物や生ごみ、下水汚泥などを、微生物の働きによって発酵させることで燃えやすいメタンガスを発生させ、メタンガスを燃焼してその燃焼ガスでタービンを回し、発電を行う方式です。
しかし、メタンガス生成時に出て来る消化液の処理に色々と苦労させられています。
34. バイオマス発電の課題
バイオマス発電の課題としては、木質チップ燃焼式では、大規模発電となると大量のチップを必要とします。その供給体制の確保がしばしば問題となります。
一方、メタンガスを燃焼して運転するバイオマス発電設備には、環境面で大きな問題が1つあります。それは、メタン発酵で生じる消化液なんです。固形分は堆肥化し、液体分は排水処理し放流していますが、この処理をあやまると、周囲に悪臭被害をもたらします。
35. 地熱発電
次に地熱発電です。地熱発電は温泉場や火山のある地域で見かけます。地下のマグマの熱エネルギーを利用して発電をおこないます。
36. 地熱発電の仕組み
地熱発電では、地下のマグマの熱エネルギーを利用して発電をおこなうものです。
地上で降った雨は、地下の高温マグマ層まで浸透すると、マグマの熱で蒸気になって地下1000m〜3000m付近に溜まります。 井戸などを掘ってこの高温の蒸気を取り出し、タービンを回すことで発電するのが、地熱発電の一般的なしくみです。
37. 地熱発電の課題
最近話題になっている地熱発電についての課題について考えてみます。
温泉場の近辺になるので、温泉用と発電用の湯の区分けが重要となります、発電用に多くの蒸気を使ってしまうと、温泉用の蒸気が不足してしまい、せっかくの温泉場が枯れてしまうと言う状況が発生します。
また、地熱発電は国定公園、国立公園内での操業になりますが、近隣地域住民との折り合いが必要となります。
38. 小水力発電
次は小水力発電です。小水力発電は、昔は小川に作られた水車を想像してください、水車の隣は精米機械が置かれています。この風景は私たちに昔の良き時代を思い出させてくれます。
先日見学した(株)マツザキさんでは、場野川の水流を利用しています。落差76mで200kwのターゴ発電機を回し、年間100万kwhを得ています。FITで34円/kwhで売電しています。
小水力発電の場合には、年間通して安定した水量が得られるかどうかがポイントとなります。昨年、今年と予定の80%程度だったそうです。マツザキさんの小水力発電の特徴は、管内に水を充填させて運転する点がポイントです。
39. 小水力発電の仕組み
一般的な水力発電は、発電所から比較的遠方にダムを建設して、その間の水位差による水圧と、流速で水車(タービン)を回転して発電します。
一方、小水力発電の場合には、ダムのような大規模構造物を必要としないで、取水口と発電所の落差を利用して、発電機を回して電気を起こします。
40. 小水力発電の課題
小水力発電の課題ですが、1級河川には規制により構築物を作れないので、水を取り込む堰の場所が得にくいという建設上の問題点があります。
また、国定公園、国立公園内では天然記念物が生息していることが多いので、それの対策を講じる必要があります。場野川ではオオサンショウウオが生息しているため、これを保護するための対策を考えなければなりませんでした。
また、取水口と発電所は長い距離となりますので、山の地主との貸借に関する交渉が難しいという問題が発生します。
41. 必要資金
こういった再生可能エネルギーの発電事業にはどの程度の設備投資が必要なのかを次に考えてみます。
中小企業が対応できるのは、せいぜい開発から事業化までですが、それでも数億から数十億必要です。
北伊勢上野信用金庫のお客様も、最近小水力発電事業に進出しましたが、約5億程度かかる投資となっています。
42. 魔の川、死の谷、ダーゥインの海
それから、事業化に当たって考えなければならない重要な問題があります。この図ですが、ここには、研究 ⇒ 開発 ⇒ 事業化 ⇒ 産業化という四つのステージを描きました。
あるステージから次のステージに進もうとしますと、間違いなくそこにはそれぞれ障壁があります。要は何事もとんとん拍子には行かないということです。
研究と開発の間の障壁を「魔の川」、開発と事業化の間の障壁を「死の谷」、事業化と産業化の間の障壁を「ダーウィンの海」と呼びます。今回の事業でも後でも、「死の谷」がありました。
43. 発電規模と建設費用
この図はこれまで見てきた各種再生可能エネルギーについて、その発電規模と建設費用の関係を示したものです。
一番安価なものは、200Kw級の小水力発電で、約4億円の建設費用を必要とします。次が400Kw級のバイオマスで、メガソーラーと言われる1Mw級の太陽光発電になると10億円近くの投資資金を必要とします。最近話題になっている洋上風力発電になると、50Mw級のもので200億円近くかかりますので、大企業が関与する発電となります。
それでは中小企業が関与できるのはどの程度の発電かということになりますが、せいぜい10億程度でしょう。従って、小水力発電か、小規模バイオマス発電、1Mw以下の太陽光発電ということになります。
44. おわりに
再生可能エネルギーがどういうエネルギーであるか、分かっていただけたでしょうか。日本としては、出来るだけ多くの再生可能エネルギーを拡大したいのですが、日本と言う条件下ではまだまだ色々な問題が存在しております。
そこのとろを良く理解して頂いて、今後ともお客様の相談に乗っていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。