脱炭素革命(その12)…CO2を吸収する海藻「ブルーカーボン」の普及
海藻などが二酸化炭素(CO2)を吸収する「ブルーカーボン」の普及に向け、素材企業の技術開発が活発になっています。沿岸・海洋生態系に取り込まれ、そのバイオマスやその下の土壌に蓄積される炭素のことを、ブルーカーボンと呼びます。2009年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」において定義され、吸収源対策の新しい選択肢として世界的に注目が集まるようになりました。ブルーカーボンの主要な吸収源としては、藻場(海草・海藻)や干潟等の塩性湿地、マングローブ林があげられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。
東洋製缶グループホールディングス(GHD)は海藻の成長を促す成分が従来比で3倍早く海に溶け出るガラスを開発しました。日本製鉄は鉄鋼の副産物を活用した藻場の整備を進めています。ブルーカーボンのCO2貯留期間は森林よりも長いなどの利点があり、脱炭素に向けて技術力を生かしています。
東洋製缶GHDは、鉄分が海水に溶け出して海藻の光合成を促進させるガラス製品の性能を高めました。新たなガラス製品は全長数十センチメートルほどの長方形で、成分を調整して3年ほどで解けるようにしました。従来品は溶けるのに10年ほどかかり、海藻の成長促進効果を短時間で測定しにくい課題がありました。新製品は脱炭素目標の達成に向けた実証試験などでも採用しやすくなると考えられます。
ガラスは従来品も含めて、港や岸壁の消波ブロックの表面に張り付けて海藻の成長を促します。新しい製品は、2023年度中に地方自治体などに販売を始める計画です。東洋製缶GHDはアルミ缶のほか、ガラス容器の製造でも国内大手です。ブルーカーボン向け製品の開発でもノウハウを生かしています。従来のガラス製品は全国数十カ所の海域向けに販売しており、新製品でも需要を取り込む計画です。従来品の市場価格は10枚セットで数万円程度ですが、新製品の価格は今後決める予定です。
ブルーカーボンの効果に対する期待は高まっています。国の認可法人であるジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)のK氏によると、現状の日本の海藻などのCO2吸収量は年間約132万~404万トンと森林の吸収量(5166万トン)に比べて小さいとのことです。ただ30年時点では森林の吸収量が老齢化で2780万トンに減る見通しです。一方でブルーカーボンは藻場の整備が広がることで157万~518万トンに増えると見込まれます。島国の日本では海域の開発がしやすい側面もあり、関連する技術開発も広がっています。

鉄鋼大手は鉄鋼製造時の副産物である「鉄鋼スラグ」利用した取り組みを進めています。鉄鋼スラグは鉄分を豊富に含んでおり、海藻の成長を促す効果があります。日本製鉄は22年秋、北海道増毛町など全国6ケ所で藻場の整備を始めました。鉄鋼スラグによる幅広い海藻の成長促進効果を検証し、販売拡大につなげます。海藻の成長に適さない土壌を改善する別の材料も販売しており、ブルーカーボン関連の事業拡大を図りたい考えです。JFEスチールも鉄鋼スラグ製品を全国の海域で導入するほか、広島大学と鉄鋼スラグの海藻の成長を促す効果などについて研究を進めています。

セメント業界では住友大阪セメントが海藻を取り付けるコンクリート土台などの製品を展開しています。土台の回りに藻場が再生しやすくなると言います。
JBEによると、「海外企業によるブルーカーボンの取組はマングローブが中心で、海藻成長の促進の取組は日本企業が先行していると言います。国内ではブルーカーボンのクレジット(排出枠)は高値で取引される傾向にあります。JBEによると2022年度分の平均取引額は1トンあたり7万8063円で、再生可能エネルギー由来のクレジットの2022年4月平均取引額の20倍超です。
生物多様性への貢献などの面で付加価値が評価されているとみられます。クレジットが普及すればブルーカーボン市場の拡大につながり、素材企業にとっても追い風となります。皆さんはどう思われますか。