ESG投資とSDGs(その2)…長期戦略に好適と考えられたESG投資

 世界のマネーをひきつけるESGとは、そもそも何なのでしょうか。言葉は環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の英語の頭文字を合せたものです。「環境や社会、企業統治といった要素を考慮しなければ企業収益や投資機会の損失につながる」という考えのもと、財務情報に加えて非財務情報も重視しています。

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 要素ごとに見てみます。まずは「環境」です。国連によると、気候変動に伴う自然災害によって発生した世界の経済的損失額は1998~2017年に2.2兆ドルと、その前の20年間から2倍超に増えました。プラスチックなどの廃棄物対策も大きな課題です。投資家の間では、環境負荷の高いビジネスモデルに固執する企業を投資対象から外したり、脱炭素や廃棄物削減に積極的な企業に重点的に投資したりする動きが加速しました。

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 次に「社会」です。女性の登用率が低かったり、人種などの属性ごとに賃金格差が大きかったりする企業から資金を引き揚げ、そもそも非開示の企業には株主提案などで開示を迫ります。最近では中国・新疆ウィグル自治区や軍事クーデターの起ったミャンマーでの人権問題に対する企業の取組みに圧力が高まっています。

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 企業統治とは、株主をはじめとするステークホルダーのために、経営者が適切な意思決定を行うことを確保するための仕組みです。近年、以下の2つの理由により、企業統治(コーポレートガバナンス)の重要性が注目されています。
・不祥事を防止するため
・企業の持続的な成長と企業価値の向上のため

 具体的には、「企業統治」では経営陣への監視が十分に効いているか、租税回避や汚職など企業倫理に反することをしていないかといった項目を重視します。

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 ESGの源流は約100年前。1920年代の米国でキリスト系の財団が武器やギャンブルなどに関わる企業への投資を避けていたことが発端とされています。ベトナム戦争のあった1960年代には軍需企業の株式を売却したり、株主提案をしたりする動きが相次ぎました。1990年代からはオゾン層の破壊や酸性雨といった環境問題が注目を集めました。

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 今のESGにつながる契機となったのは2006年です。国連がPRI(責任投資原則)をニューヨーク証券取引所で公表し、環境問題や労働問題、企業倫理の重要性を訴えたことです。その後2008年のリーマン・ショツクを経て、短期的な利益を求める投資行動を修正すべきだとの考えが広まりました。一部には「一過性のブーム」にすぎないとの見方もありますが、グリーンボンド(環境債)によって有利な条件で資金を調達する企業が増えたり、巨大年金基金がESGに消極的な企業から資金をひきあげたりするといった動きが活発となっています。温暖化対策をはじめとしてESGに長期的なスタンスで取り組む政府や企業も増えています。

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 欧米に遅れを取っていた日本で関心が高まったのは2015年、世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連のPRI(責任投資原則)に署名したのがきっかけです。署名した基金や運用会社は資産の一部をESG投資に振り向けたり、情報開示に積極的に取り組んだりすることが求められます。

 GPIFの投資手法はESGに関連する株価指数に連動するパッシブ運用で、国内外の銘柄を対象にした5つの指数を採用します。パッシブ運用とは、インデックスと同じ動きをするように設計されており、ファンドマネージャーに自由度はありません。一方、アクティブ運用は、ファンドマネージャーに銘柄選択や配分などの自由が利きます。

 機運の高まりを受け、企業側でもESGへの対応を充実させる動きが加速しました。投資対象になり得る企業が広がったことで、個人向けの投資信託も増えてきました。QUICK資産運用研究所の調べによりますと、国内ESGをテーマにした投信は2020年末時点で152本と2019年末から38本増えました。2021年に入ってもすでに40本が組成され、昨年1年間の設定本数を超える盛況ぶりでした。三井住友DSアセットマネジメントのW氏は「ESGの評価はETSEやMSCIといった金融会社ごとに異なるため分かりにくいが、投信なら個人が手掛けやすい」と話しています。

 代表格はアセットマネジメントOneの「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」です。使用電力を全て再生可能エネルギーに切り換える方針の米マスターカードや、女性取締役の登用など多様性を重視する米ウォルト・ディズニーといった銘柄が該当します。2020年7月の設定からわずか半年あまりで純資産は1兆円を超える国内最大の投信に成長しました。

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 同ファンド以外にも、台湾の半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)や香港の電気自動車大手の比亜迪(ヒアテキ:BYD)、「南米のアマゾン」と呼ばれる通販大手メルカドリブレといった、個別ではなかなか投資しにくい銘柄を組み入れる投信も増えています。

 2018年時点では、ESG市場は活況でした。世界持続的投資連合(GSIA)が2年に1回発表する報告書によりますと、2018年の世界のESG投資額は30兆6,830億ドル(約3,300兆円)と2014年から1.6倍に増えました。世界の投資マネー全体の3割を占め、ドイツ銀行は「2030年までにはほぼ全ての運用資産で投資判断にESG要素が組み込まれる」と予測していました。

 運用成績も好調でした。世界の代表的なESG銘柄から構成する「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・先進国指数」の2019年末から2021年にかけての上昇率は26%、米国の脱炭素銘柄が対象の「S&P500カーボン・エフィシェント指数」も29%と、いずれもダウ工業株30種平均の伸び率(21%)を上回っていました。

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 注意点もあります。ESGの評価指標は数多く、投資手法も確立されていないため運用会社の手間が多くかかり、信託報酬が高くなりがちです。楽天証券経済研究所のS氏は「S&Pなど代表的な指数に連動する投信の信託報酬では0.1%程度が多いが、ESG関連では1%を超える例も少なくない」と話しています。「ESGと銘打ちながらも、必ずしも環境や社会に配慮している銘柄に特化していない投信もある」との指摘も出ています。I氏は「どんな銘柄にどんな基準で投資しているのか、商品の詳細が書かれた目論見書や運用成績を記した月次レポートなどを読み込むことが重要だ」と話しています。

 S氏は「ESG投資はあくまで補完的な役割」と指摘しています。「ESGへの対応が優れている銘柄だからといって、すぐに運用成績が上がるとは限らない。長期の資産形成では成長株なども含めバランスよく分散すべきだ」と助言しています。
 
 短期的な運用収益を求めるのではなく、長期での資産形成を考える個人にとってはESG投資の存在感が一段と高まる可能性は大きいと言えますが、皆さんはどう思われますか。



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