ESG投資とSDGs(その3)…ESG投資に対する金融業界の基本的スタンス
2020年の時点では、環境や社会の持続可能性に配慮した投資や融資がどんどん広がり、「ESG投資」は金融のあり方に欠かせない大事な価値観のひとつとはっきりみなされ始めていました。(ESG:Environmental、Society、Governmental)
金融業界には、グリーン旋風とも呼ばれる一大ムーブメントが起きています。その理由は、「金融が健全であり続ける条件として、地球環境が強く意識され出した」というものです。投資家が中長期の目標でマネーの割り振りを考える際に、環境が経済に及ぼすネガティブな影響の見極めがかつてないほどの重みを持ってきていました。
日経新聞2020年3月5日版の“Deep Insight”欄に「東洋に緑の風 邦銀の使命」と題して邦銀の環境への取組み関する面白いコメントが出ていましたので、紹介します。
具体的例として、ここに約1万ドルで売れるシロナガスクジラが75,000頭いるとします。子供が生まれ育つ自然の摂理をふまえ、年2,000頭を捕獲して2000万ドル儲けるペースなら将来にわたって同じ様に漁ができます。
一方、75,000頭を一気に捕獲すると7億5千万ドル入り、その資金を年利5%で運用すれば毎年3,750万ドルずつ利益が出るとします。つまり、クジラの将来を考えながら捕獲するより、すぐに現金化して金融のノウハウで稼ぐ方が得をするという話です。
今の時代、金融業界も基本的には持続可能な開発目標であるSDGsの考えに従うことになりますので、後者のやり方は即否定です。新しいフィールドへ早く入り込んだ者が有利になるのはどんなゲームだって同じです。金融というゲームなら、ルールや業界標準づくり、顧客・取引の獲得をめぐる競争で優位に立つことが求められます。
ここで、SDGsの考えがあることを前提に欧州、米国、日本のそれぞれのスタンスをみてみます。まず、欧州ですが、前のめりに走って国際世論をつくるのは欧州の得意技です。一方、米国ですが、ビジネスになると判断すれば素早く動いて主導権を握ろうとするのはいかにも米国らしいものです。いずれにせよ、ゲームの局面は切り替わりました。そんな欧米勢の勢いに比べると、残念ながら日本はモタモタしているようにしか映りません。邦銀幹部に尋ねればだれしも必ず「この分野は重要だ」と言う割に、前向き感を印象づける行動が伴わないのはもったいないと言えます。
2020年7月に小泉進次郎環境相が石炭火力発電の輸出政策の見直しを提起し、石炭火力禁止の方向に舵を切り直しました。それにより、政府内外の関係者が大慌てしました。その騒動の背景に考えるヒントがありそうです。
たしかに、欧州がリードして形成した国際世論に照らせば、石炭火力は批判の的になります。ただ、アジアの資金力や開発レベル、中国との関係も絡む地域事情という多面的な論点があり、日本が輸出をやめたり厳しくしたりすれば終わる話ではありません。そして、石炭火力はアジアの環境問題の一例にすぎず、水や渋滞、森林火災など難題は多いと言えましょう。だからこそチャンスがあります。国際社会のムードとアジアの特性の双方をつなぎ合わせて解決策を探るのが、日本にしか果たせない役割ではないかという考え方です。
日本の3メガバンクはいずれもアジア重視をうたい、人材や拠点、資金を傾けています。しかも3行ともアジア各国の金融機関との提携を張り巡らせており、現地の情報を集めて地元当局とやり取りするパイプもかなり築いてきました。今こそそうした基盤をフル活用し、環境分野でアジアらしい金融のアプローチを探ったらどうかということです。その作業を通じてアジアとの結びつきが強まれば一石二鳥です。
邦銀の弱みと言われるスピード感の欠如もこの際、強みと位置付けるくらいの図太さもほしいものです。私たちが気候変動と向き合う取り組みは、何十年かそれ以上に及ぶのが避けられません。その間にどんなイノベーション(技術革新)が決定的な役割を果たすかはまだ誰にもわかりません。欧米の投資銀行とは一線を画し、幅広い客とじっくり付き合う邦銀だから育てられる革新の芽もきっとあるはずです。
肝に銘じたいのは、巧みな情報発信があってこそ日本の良さが生きてくるということです。欧州流とも米国流とも違う、日本らしい地に足の着いた取り組みをしっかり世界に語りたいものです。国際的な理解が得られて初めて日本への賛同も広がります。出遅れを挽回する余地はまだまだ果てしなく大きいと言えます。
石炭火力発電所の開発は、推進派と中止派の2つの立場があります。今回の見解は推進派を勇気づけるものとなっていますが、皆さんはどう思われますか。