ESG投資とSDGs(その6)…ESG投資とインパクト投資の違い

 2023年11月28日の日経新聞に掲載されたESG投資とインパクト投資の違いに関する解説を紹介します。

 ESG(環境・社会・企業統治)投資に対する関心が低下しています。それは、ESGが推し進める方向性は株主全員が賛成しているものでも、必ずしも株価を高めるものでもないからです。「E(環境)」の要素は企業に脱炭素を進めるように促してきましたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機を通じ、こうした政策が経済成長の重荷になることが明らかになりました。「S(社会)」は人種差別問題に注目するよう求め、かえって企業内の亀裂を深めました。「G(企業統治)」は、取締役を選ぶ際に経験や能力より性別や人種を優先することを求めています。

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 日本サステナブル投資フォーラムによれば、2022年の日本株式ESG投資残高は昨年比で10%減となっています。2023年も同様な傾向と言われています。36%増だった2021年からは様変わりです。リターンもふるいません。代表的な日本株ESGインデックスの1つは2022年度に市場平均を3%下回りました。米国では反ESGへの動きが強まり、フロリダなど州の公的年金でESG投資を制限するケースも出てきました。

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 代わりに台頭するのが社会的課題の解決も視野に入れたインパクト投資です。GSG国内諮問委員会によれば、2022年度の国内の投資残高は前年比で4.4倍です。岸田文雄首相も「社会変革につながる資金調達のけん引役を果たす」と話すなど官民のコンソーシアム新設を明らかにしています。

 ESG投資とインパクト投資では何が違うのでしょうか。株主だけでなく地域、従業員、顧客などステークホルダーに配慮した投資である点では同じです。しかし、ESG投資が結局は株主に対する価値創造を重視しているのに対し、インパクト投資は多様なステークホルダーに対する価値創造も目指しています。インパクト投資の方が社会性が高いと言えます。このため、インパクト投資を投資対象から外す機関投資家は少なからず存在します。なぜなら、株主以外への貢献をうたうインパクト投資の採用は受託者責任に反すると考えるからです。受託者責任とは、年金基金や資産運用者など、他人の資金を管理運用する者が受益者の利益のために果たすべき責任と義務のことです。

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 その一方で、社会的インパクト創出を強化する企業は増えています。オムロンは統合報告書のなかで遠隔診療サービスの利用者数を増やしたことなどを示しています。社会的インパクトは企業のパーパス経営と相性がいいと言えます。

 そこで議論になるのは株主以外のステークホルダーにもたらされる価値は株主への価値を減らすのかどうかです。配分先を広げれば分け前が減ると考えるのは自然です。しかし価値を高めることができれば、他のステークホルダーに与えても株主への分け前は減らず、逆に増やすこともできます。これは経済学者アレックス・エドマンズ氏の著書「GROW THE PIE」で指摘されています。結局、企業は社会的インパクトの創出でも長期的な株主価値向上が求められています。

インパクト投資

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 インパクト投資とは、財務的リターンと社会的リターンの両立を目指す投資行動を指します。従来の投資は、「リスク」と「リターン」の2つの面で判定されてきました。一方で、インパクト投資ではリスク・リターンに加えて、「インパクト」の観点からも評価されます。

 「インパクト」とは、社会的および環境的変化や効果を意味します。インパクト投資によって生み出される社会的・環境的な変化や効果は、世界にとってポジティブなものであり、かつ測定可能なものでなければなりません。

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 さらにインパクト投資は、SDGs実現の観点からも期待されています。SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称です。2030年までによりよい世界を目指すための国際目標であり、17のゴールと169のターゲットから構成されています。SDGsの達成のためには世界で年間5兆ドルから7兆ドルが必要とされており、民間の金融機関や企業などからの投資が求められています。インパクト投資は、SDGsに必要な資金を補う手段として注目が集まっています。

 インパクト投資であるか否かは、下記の4つの基本構成要素をもとに判断します。

1.  意図(Intentionality)
2.  財務リターン(Financial Returns)
3.  広範なアセットクラス(Range of Asset Classes)
4.  インパクト測定(Impact Measurement)

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 まず、投資主体に、ポジティブなインパクトの創出を目指す「意図」があるか否かを見定めます。また投資を通して、インパクトだけでなく財務的なリターンの獲得を目指しているかどうかも、判断する基準のひとつです。インパクト投資は特定のアセット(資産)に限定されません。株式・債券・融資・リースなど、さまざまな金融取引が対象とされています。インパクト投資の特徴として、「インパクト測定」があります。「インパクト測定」とは、投資主体が投資活動によって生じた社会的・環境的変化を把握し、価値判断を加える行動です。

 インパクト投資とは、経済的リターンと社会的リターンを目指す投資活動です。従来の投資とは異なり、環境問題や差別、貧困などの問題の解決を目指し、ポジティブな「インパクト」を創出する「意図」をもっています。ESG投資の規模拡大やSDGsの推進に伴い、インパクト投資の市場規模も年々増加しています。まだ認知度は低いものの、これからの資本主義社会に欠かせない重要な投資活動となるでしょう。皆さんどう思われますか。



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